軍縮とは名ばかり!? (C)孫向文/大洋図書

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 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。今年の9月3日、抗日戦争勝利70周年を記念して、中国では大規模な軍事パレードが開催されました。その際、習近平国家主席による記念演説では、軍縮活動として中国軍の兵員を30万人削減することを発表しました。習主席は今回の削減は「平和発展」、「覇権、拡張主義の否定」を意味すると宣言しましたが、実は真意は全く異なるものなので、その言葉に惑わされてはいけません。

軍縮ではなく「軍隊の近代化」

 現代の軍隊は兵器が高性能、複雑化した結果、オートメーション化が進む一方です。そのため軍の戦力を強化するためには、大量の人員を徴集するよりも、兵器を操作するための高度な技術を持つ専門家の育成が必要になります。近年、世界各国で徴兵制を廃止する国が続出しているのは、そのような理由なのです。今回の中国の兵員削減で退役する軍人は、高齢者や部隊病院に勤務するなどの非戦闘員が大半で、今回の行為は「軍縮」というよりは「軍隊の近代化」、「余剰兵員のカット」という意味合いが強いと思われます。

 安全保障関連法が9月19日未明、参院本会議で賛成多数で可決されて成立しましたが、こうした中国の実質的な「軍拡」を防ぐためにも、この法案はやはり必要だったと思わざるを得ません。

 集団的自衛権施行の反対派の中には、今回の法案が可決されたことにより、「有事の際に徴兵制が採用されるかもしれない」という危惧を抱いている人もいるかもしれません。

 ですが上記のように現代の軍隊は大量の人材を必要としないため、専門技術を持たない一般人から徴兵が行われることはほぼありえません。集団的自衛権を行使すれば同盟国との協力関係が得られるため、その結果、戦闘に参加する人材を少数におさえることが可能になるのです。

 むしろ今までの憲法解釈で容認されていた「個別的自衛権」のみで防衛を行う場合は、諸外国からの協力を得ることができないため徴兵制が実施される可能性が高まるといえます。事実永世中立による個別的自衛権をうたうスイス、オーストリアといった国家は徴兵制を採用していることからも、これはお分かり頂けるでしょう。

 現在、領土問題をめぐり台湾、フィリピン、ベトナムといった国々は中国に対し完全に対立ムードです。また相次ぐ中国系移民の問題から豪州の反中感情は日に日に高まっています。環太平洋諸国では中国に対して脅威を感じている国が増加していることから、今後日本が環太平洋諸国と軍事的同盟関係を結べば大きな勢力となり、実際に軍事活動を行わなくても中国の増長に対して大きな抑止力になるでしょう。

 さらに話を飛躍させてみましょう。日本人の中にはこうした話をすると忌避感を示す人も多いかもしれませんが、今後日本が憲法を改正し、軍需産業の輸出を全面的に解禁すれば同盟国との関係が強化され、経済活動の活性化につながる可能性もあります。

 事実、豪州が日本製の高性能な潜水艦にほれ込み、現在購入を検討しているという情報もあります。加えて日本の軍需産業が解禁すれば電子レーダーや早期哨戒機、偵察用の軍事衛星の開発が活発化するため、近隣諸国に対する抑止力は向上するでしょう。仮に実際に戦闘行為が発生したとしても、兵器のオートメーション化が進めば結果的に戦地におもむく人員が減少することになり、自衛隊員の安全保障、さらには削減につながります。

 今後、日本が平和な社会を保つためには「戦闘行為の抑止」、「戦闘による犠牲者を可能な限り生み出さないこと」が必須条件になります。そのためには今回可決した安全保障関連法のように諸外国と軍事的な関係を強化すること、そして国家の防衛力を向上させることは有効な手段です。

 ですが現行の憲法9条をベースとした考えのもとでは、上記のような手段を積極的に行うことは不可能です。今の日本は「平和」憲法と言われる9条が足かせとなり、結果的に国民の状況をおびやかしているという皮肉な状況になっていると僕は思います。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/亀谷哲弘)