『SWITCH』2015年5月号「特集 ジャズタモリ」
ジャズをメインにしているが、近年の雑誌では珍しいタモリ本人が登場するタモリ特集。本人へのインタビューのほか、笑福亭鶴瓶やみうらじゅん、糸井重里も登場している。

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《NHKはいますごいですね。何年か前に「これを使ってはいけない言葉だろう」と思っていた言葉も堂々と使ってましたから。(中略)勇気がありますよね。だから民放のスタッフにも言っているんです。「なんでNHKが実験的なことをやっているのに、民間の放送局がやらないんだ」って。やっぱり抗議で萎縮しているんですよね》

そんなふうにNHKの“自由さ”を評価するのは、「SWITCH」5月号でインタビューに応えたタモリだ。現在NHKでは「ブラタモリ」の新シリーズに出演中のタモリだが、同局との関係は意外と深い。デビューまもない1979年から数年間出演した「ばらえてい テレビファソラシド」をきっかけに全国的な知名度を上げ、80年代には動物番組「ウォッチング」を担当した。1983年には「紅白歌合戦」の総合司会まで務めているが、今回の「SWITCH」のインタビューではそのときの裏話も語られている。

そのタモリがNHKでまた新たな番組を始めた。コンビを組むのは、昨春まで『笑っていいとも!』で毎週共演していた笑福亭鶴瓶だ。新番組のタイトルはずばり「タモリと鶴瓶」というもの。わずか5分ほどのミニ番組、放送時間も変則的で、「その1」は深夜に流れ、その後も昼間など番組と番組のあいまに繰り返し放送されている。タモリの他局の番組での決まり文句ではないが、まさに“流浪の番組”といえる。

内容も、「その1」を見るかぎりなかなか“実験的”だ。NHKの局内でタモリと鶴瓶が誰かとたまたま会うという体裁をとってはいるが、実質、ドラマと呼んでいいだろう。なお「その1」にはタモリと鶴瓶の共演シーンはない。NHKの局内をタモリが歩いていてまず出会うのは、朝ドラ「まれ」の収録に来ていた大泉洋だ。大泉が北海道出身ということでタモリは、このあいだ「ブラタモリ」で函館に行きリクケイトウ(陸繋島)を見たと話すも、それが何のことかわからない大泉は戸惑ってしまう。が、そんなことには構わず、タモリは思い出したように、鶴瓶に伝えてくれと謎のメッセージを大泉に言付けると去って行く。鶴瓶が現れるのはそのあとだ。大泉が一応、タモリからのメッセージを伝えると、鶴瓶はそこに出てきた「ちくわぶ」について少し話題にしたのち、タモリと今度会ったら伝えてくれとこれまた謎のメッセージを言づける。「いや、自分はNHKに住んでいるわけではないので……」とあたふたする大泉を残したまま、鶴瓶が立ち去るところで「その1」は終了。

劇中、タモリ・鶴瓶・大泉の出演番組を紹介するテロップは出てくるものの、スタッフのクレジットなどは一切ない。公式サイトには一時「脚本・秋元康」と記載されていたとの情報もあるが、いま開いてみたところそれらしきクレジットは見当たらない。とにかく謎の多い番組である。番宣番組と言ってしまえばそれまでだが、それを大物タレントを使って、こういう形でやるところこそ、タモリが指摘するNHKの自由さなのだろう。

それにしても、タモリと鶴瓶という組み合わせは考えるにつけ興味深い。前出のタモリへのインタビューを収録した「SWITCH」では、鶴瓶がタモリについて語る記事もあり、「いいとも!」終了発表時の舞台裏も明かされている。

両者がまったく質の異なるタレントであることは、いずれもNHKで番組で町歩きをしながら、その内容はまるで違うことからもあきらかだろう。「鶴瓶の家族に乾杯」において、鶴瓶は各地ですすんで人に声をかけ、その家族に会いに出かける。そのなかで、相手の有名無名問わず、雑談しながら話をふくらませていく鶴瓶の才能が最大限に発揮される。片やタモリは「ブラタモリ」で、地形や遺構などを手がかりにウンチクを傾けながら、その土地の歴史を読み解いてみせる。いわば、鶴瓶が人から自然に言葉を引き出す能力に長けているとするなら、タモリには本来は語るはずのない土地やモノを雄弁に語らしめる才がある、とでもなるだろうか。

ともあれ、番組内であちこちを歩き回っている2人がNHKの局内ですれ違う。それこそが今回のミニ番組の狙いなのかもしれない。ちょっと気が早いが、番組の最終回でタモリと鶴瓶がお互いの番組に出演しようということになったら面白そうだ。いつか「家族に乾杯」でこんな会話が聞けることを願わずにはいられない。

「おお、ここの土地の高低差がたまらないねえ」
「何言うてんねん。地形ばっか見とらんと、ちゃんと人に声をかけなはれや」

「タモリと鶴瓶」の「その1 大泉洋」は、きょう5月16日には午後0時41分(朝ドラ「まれ」の昼の再放送前の時間ですね)と午後9時30分の2回放送される予定。続く「その2 有働由美子」も来週月曜、5月18日の午後2時50分に初回放送があり、以後「その1」とあわせてリピート放送されるようだ。くわしくは公式サイトを参照。
(近藤正高)