優勝したウェブが恒例のダイブ。ここ数年の不調を洗い落とすかのようだった。(Photo JJ.Tanabe)

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 今季の女子ツアー初メジャー、クラフト・ナビスコ選手権の最終日は、大どんでん返しの連続となった。一時は単独首位に立ったミッシェル・ウィー(16)のメジャー最年少優勝への夢は、カーリー・ウェブ(31)が18番で決めた奇跡のイーグルで瞬く間に消え去り、勝敗の行方はウェブとロレーナ・オチョア(24)のサドンデスプレーオフへ。そして、プレーオフを制したのは、ウェブだった。メジャー7勝目、通算31勝目を手に入れたウェブの姿は、グランドスラマーの貫禄というより、幸運に恵まれた喜びに溢れていた。

 18番パー5。116ヤードからピッチングウエッジで打ち放ったウェブの第3打がカップに吸い込まれ、グランドスタンドのギャラリーが沸きに沸いた。このイーグルで9アンダーフィニッシュし、一気に単独トップに浮上したウェブ。その大歓声を耳にしたウィーの驚きの表情は、ひょっとしたら勝利の女神に今回も微笑んでもらえなかった落胆の表情だったのかもしれない。16番をプレーしていたウィーは、ピッチングウエッジのフルショットでピンを狙えるポジションにティショットを置き、その目論見通り、第2打をピン30センチに付けた直後だった。最終日のウィーはフロントナインで3つスコアを伸ばして首位を独走し続けてきたオチョアを捉え、バックナインに入ってからも落ち着いたプレーで単独首位へ。チャンピオンの座を獲得するに値するゴルフをしていた。勝利はもう目の前。そんな状況で遭遇したウェブの突然のミラクルイーグルは、ウィーにとっては青天の霹靂だった。

 ウィーのバックナインでミスらしいミスを強いて指摘するなら、2つだけだ。1つは14番パー3のティショット。打った瞬間、「Be right!(ぴったり行け!)」と小さな声で呟いた彼女のボールは、左のガードバンカーにつかまり、ボギー。13番で初めて単独首位に立ちながら、次ホールですぐさまボギーは痛かった。もう1つは、18番の第3打。グリーン奥のカラーからウエッジでチップしたが、強すぎて3メートルほどオーバー。プレッシャーがかかるあの場面で、速いグリーン、すぐ目の前のピンに向かって打つあのチップは、パターで転がすほうがミスが小さくてすむと考えるのが米ツアーでは一般的だ。もちろん、自分はウエッジのほうがいいと信じる道もある。そして、ウィーはウエッジを選んだのだが、やっぱりパターで打っていれば、1パットでバーディを取り、プレーオフに食い込むチャンスがあったような気がしてならない。それでも、堂々の優勝争いを展開した16歳は大健闘だった。「できる限りのプレーをした。カーリーがイーグルを決めたと知ったときは『えっ、何〜?』と思ったけれど、とてもエキサイティングで楽しかった」と語ったウィーは、優勝こそ逃したが、すがすがしい表情。いきなり2位にランクインした女子の世界ランクが物議を醸すなど、常に人々の興味と関心の的であるウィーは、順風ばかりではない世間の風を見事に吹き飛ばしながら前進している。

 ウェブのミラクルイーグルもすごかったが、オチョアの巻き返しも見事だった。バックナインはティショットを打てば、すべて右のラフという繰り返し。15番のボギーで今週初めて首位を外れたオチョアは、その時点で優勝争いから脱落したかに見えた。だが、16番でバーディ、そして18番では第2打で果敢にグリーンを狙い、2メートルにつけてイーグル。一旦落ちながらも自力で這い上がり、プレーオフへ食い込んだオチョアのネバーギブアップの精神は、母国メキシコで7つのジュニアタイトルを取り、スーパージュニア、スーパースターと呼ばれながら歩んできた日々に培ったものだろう。

 プレーオフ。最後はウェブのベテランのワザの勝利だった。どちらも2オンを狙い、グリーンからこぼれた。第3打の寄せ合戦。ウエッジを開いて打ったウェブのピッチショットは、パターで寄せたオチョアのチップより、少しだけ優っていた。オチョアの4メートルのバーディパットはスライスして切れ、ウェブの2メートルのバーディパットはスルリとカップに沈んだ――。

 結果としてはプレーオフによる勝利だが、ウェブに勝利を導いたのは、やはり72ホール目のイーグルだ。第3打を打った直後、ウェブのキャディが「Being right!(ぴったり行けよ!)」と叫んでいた。そして、その言葉通り、ボールはカップに吸い込まれた。チップインイーグルといえば、ウェブは2日目にも15番で第2打をカップに放り込み、イーグルを決めた。4日間で2度目。幸運以外の何物でもない。運だけでは勝てないが、運がなければ勝てない。ハワイのスーパースターもメキシコのスーパースターも、運が向かなければ勝てない。プレーオフの始まりにオチョアが胸元で切った十字架は神に届かず、ウィーが小声で呟いた「Be right」は天に届かず、ウェブのキャディが叫んだ「Being right」は幸運の女神に聞き入れられた。そんな印象が残るメジャーは、見ごたえ十分だった。

[写真速報] クラフトナビスコ選手権/最終日(1)
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