Jリーグの「オリジナル10(※)」にして、サッカー王国・静岡の清水エスパルスが、今季は大不振にあえぎ、残留争いに巻き込まれている。

※オリジナル10=1992年のJリーグ発足時に加盟した10クラブを指す通称。10クラブとは、鹿島アントラーズ、ジェフユナイテッド市原、浦和レッドダイヤモンズ、ヴェルディ川崎、横浜マリノス、横浜フリューゲルス、清水エスパルス、名古屋グランパスエイト、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島。(クラブ名は加盟当時の呼称)

 これまでJ1ステージ優勝(1999年)、天皇杯優勝(2001年)、ヤマザキナビスコカップ優勝(1996年)をそれぞれ1回経験しているエスパルスは、「オリジナル10」の中で、まだ一度もJ2を経験していない4チームのうちのひとつだ(残り3チームは鹿島、横浜FM、名古屋)。しかも、昨季は同じ静岡のジュビロ磐田がJ2に降格したとあって、仮にエスパルスが降格の憂(う)き目に遭えば、地元静岡ばかりか、日本中のサッカーファンにとっても無関心ではいられない事態に陥ってしまいそうだ。

 日本代表に多くの選手を輩出してきた、静岡サッカーの失墜――。それはある意味、日本サッカーの危機とも言われかねない大事件なのである。

 10月22日に行なわれた第29節のアルビレックス新潟戦を2−1で勝利したことで、エスパルスの順位は15位となった。これでひとまず降格圏(16位〜18位)を脱出したわけだが、16位・ヴァンフォーレ甲府との勝ち点差はわずか1ポイント、17位・セレッソ大阪との差も2ポイントしかない。予断を許さない状況に変わりはない。

 では、これまで毎年のように安定した成績を残してきたエスパルスに、いったい何が起こっているのか? その原因を探るためには、ややマクロ的な見方と、ミクロ的な見方という、両方の視点が必要になると思われる。

 まず、マクロ的な視点で言えば、クラブの財政事情という問題が浮かび上がってくる。ご存知のように、サッカー王国の名門とはいえ、エスパルスは決してビッグクラブではない。年間予算もリーグ中位レベルで、バックに大企業がいるわけでもない。

 むしろ、そもそもクラブの成り立ちからして、「オリジナル10」の中では異質な地元密着型クラブがここまでの成績を残せてこられたのは、サッカー王国の『お膝元クラブ』としての歴史とプライドが為せる業(わざ)だったと言えなくもない。それは、選手や監督をはじめ、クラブに携わる者、それを支える地元ファンに共通して言えることだ。

 そんなエスパルスも、アフシン・ゴトビ前監督が就任した2011年あたりから、急激に予算の縮小傾向が表面化し始めた。それまで実績あるベテランや主軸選手だった伊東輝悦、市川大祐、岡崎慎司、藤本淳吾、青山直晃らを一気に放出し、若手中心のチーム編成に大きく路線変更。翌年の2012年には小野伸二、岩下敬輔、枝村匠馬、さらに昨年も高原直泰がチームを離れていった。

 こうなると、ゴトビ監督も世代交代を推し進めざるを得ない。それでも、そんなクラブの財政事情を受け入れながら、ピッチを広く使って展開する攻撃サッカーをブレずに続けた結果、就任初年度は10位、2年目には9位という成績を残すことができた。

 もっとも、2年目はシーズン中盤で9試合白星から遠ざかったり、最後の4節を勝ちなしでシーズンを終えたりと、好不調の波が異常に激しかった点も見逃してはならない。これこそ、勝っているときは勢いを増し、負けると突如として自信を失うという、若いチームの典型とも言える現象だ。

 結局、3年目の2013年も9位という成績でシーズンを終えることはできたが、2011年から続いている路線と傾向は今も変わっていない。基本は「若手+助っ人外国人選手」で、優勝を狙える補強もなく、しかし降格だけは避けたい......という微妙な立ち位置で、なんとかシーズンを乗り切るというのが現状なのだ。

 そこで、ミクロの視点である。

 今季も同じスタンスで臨んだエスパルスだったが、さすがにゴトビ・サッカーも「勤続疲労」を起こした。第10節から7試合白星から遠ざかると、第17節の柏レイソル戦に勝利した後に、ゴトビ監督が電撃解任。バトンが、それまでユースの監督を務めていたクラブのレジェンド――大榎克己に渡されると、事態はさらに複雑化した。

 大榎新監督が就任した時点での順位は12位。まだ上にも行けるし、下に落ちることもあるという分岐点のようなポジションだったが、流れは良い方向に傾かなかった。

「今までのサッカーに自分のサッカーを少しアレンジしながら修正する」と公言して前任者の攻撃サッカーを継承する大榎監督だったが、ゴトビ時代から続いていた守備のもろさはさらに悪化。初采配のFC東京戦を0−4のスコアで大敗すると、第20節から26節までは1分6敗という負のスパイラルに陥ってしまった。しかもその間の7試合で、なんと20失点を喫しているのだ。

 注目すべき点は、その中身にもある。故障者の影響もあるだろうが、若い指揮官は勝てない中でシステムを3バックに変更したり、4バックに戻したりと、リズムを失った若いチームをさらに混乱させている印象は拭えない。実際、冒頭に触れた第29節のアルビレックス戦も、4バックに戻してから3試合目だったのだが、1点をリードして迎えた後半立ち上がりにアルビレックスに押し込まれると、システムを4−3−3から4−2−3−1に変更。守備の安定を図ったものの、その後も流れが変わらず一度は同点に追いつかれている。

 結局、現在のエスパルスは、攻撃も守備もどっちつかずの状態が続いているのだ。

 とりわけ、守備バランスの悪さは顕著だ。基本システムの4−3−3の場合、中盤の3人は底に本田拓也、両脇には六平光成、石毛秀樹が固めるのだが、この左右のふたりはあくまでもアタッカー系だ。それに加えて、前線の両サイドは大前元紀と高木俊幸という守備を得意としない駒が並び、両サイドバックの河井陽介、吉田豊も攻撃参加を武器とする選手。そうなると、相手ボール時に4−1−4−1の陣形にして守備組織を作っても、形はあれど実態が追いつかない、良い形でボールを奪えないという現象に陥ってしまうのだ。

 大榎監督も、ゴトビほど割り切った戦い方をするには経験が少なすぎる。要するに、采配の迷いがシステム変更という形で表れているというのが実情なのではないだろうか。

 いずれにしても、18位・徳島ヴォルティスの降格が決定したため、残る降格の椅子は2席となった。もちろん、エスパルスがその2席に座るかどうかはまだ分からないが、少なくとも、降格しても何ら不思議ではない――というのが現状だ。

 サッカー王国の名門は、今、そんな状況に陥っている。

中山淳●文 text by Nakayama Atsushi