九州アイスの代表格、「モンブラン」シリーズ。

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先日、記事にした九州発のとけないアイス「ムース」のほか、九州にはいまや全国的認知度を誇る「白くま」や、「あいすまんじゅう」「ブラックモンブラン」「ミルクック」、さらには袋入りのかき氷など、たくさんのローカルアイスが存在する。
いったい何故なのか。九州出身者に聞いてみると、返ってきたのは、こんな答えだった。

「え? それって九州にしかないの!?」
「九州は暑いから、アイスをよく食べるんじゃない?」

そこで、総務省統計局「家計調査」(二人以上の世帯)品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(平成23年(2011年)〜25年(2013年)平均)を調べてみると、「アイスクリーム・シャーベット」への年間平均支出は、1位が金沢市(9,857円)で、九州では7位に鹿児島市(8,648円)、11位に佐賀市(8,093円)が入っている程度(以下、27位に長崎市、他は30位以下)という結果だった。
特に九州の人がアイスをよく食べているわけではないようだけど……。1962年より「あいすまんじゅう」を販売する丸永製菓(福岡県)の担当者は、こんな話をしてくれた。
「アイスクリームの市場は、1995年から2003〜2004年頃まで縮小傾向にあり、1994 年度約4300億円に比べると2003年度には約1000億円も縮小しました。そんななか、もともと久留米を中心に九州で販売していた弊社は、逆に外にむかって伸ばしていこうとしていた時期で、1994年〜95年には九州にコンビニ流通が確立していったこともあり、時流にあわせて販路を拡大させ、全国展開するようになったんです」

もともと「九州のアイス」という意識も、「九州にアイスのメーカーが多い」という意識もないそう。
「ただ、ロングセラーを育てていくには、長くお店で取り扱ってもらうことが大切で、地元のスーパーや八百屋、駄菓子屋などがずっと扱ってくれ、子どものときに食べた人が、大人になると自分の子どもに食べさせるといううまい循環ができていたのだと思います」

また、「ブラックモンブラン」や「ミルクック」「トラキチ君」などでおなじみの竹下製菓(佐賀県)の担当者は言う。
「ブラックモンブランの販売を開始したのは、1969年。なぜ九州限定だったかというと、当時は物流が発達しておらず、温度管理がきちんとできる冷凍車がなかったからです」

全国展開を始めたのはここ4〜5年だそうだが、理由はやはり「物流が発達し、在庫できるようになったこと」と言う。
「『九州で売れている』などの情報が出たり、九州出身者の口コミなどから、『いろいろなアイスを食べたい』という多様化のニーズがあったり、スーパーなどがお客さんの声を聞いて仕入れてくれるようになったんだと思います」

「ムース」の販売元、セリア・ロイルの担当者も、こんな見解を話してくれた。
「アイスは冷凍商品で、単価が安いので、他の地域に運ぶとなると輸送料金がかかりすぎるんですよね。それが近年、流通経路が増え、関東・関西などへの流通便が増えたこと、トラックの大型化、工場が大きくなって大量生産できるようになったことなどで、南から北まで運べるようになったんだと思います」

当然ながら別の地域に隠していたわけではないが、流通の関係から外にあまり出ず、地元の人々に愛されて、親から子へと伝わっていった九州ローカルアイスの数々。
流通の発達と、嗜好の多用化によって他の地域でも巡り合えたことを嬉しく思うのです。
(田幸和歌子)