料理の常識「さしすせそ」。実は伝統的に日本料理では砂糖をほとんど使わないとか。ミネラル豊富な岩塩を使うことによっても素材の甘みを引き出すことができるとのこと

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料理の「さしすせそ」って何?って聞かれたら、得意になって「それは料理するときに調味料を入れる順番だよ」と答えているあなた、それ本当ですか?

砂糖の「さ」、塩の「し」、酢「す」、醤油(せうゆ)の「せ」、味噌の「そ」。調味料はこの「さしすせそ」の順番で入れるのが美味しい料理を作る秘訣だというのは半ば常識になっていますが、それに異を唱える人がいます。

「『さしすせそ』は嘘です」

そう話すのはジャパンローカルフード協会会長の松田正明さん。

「砂糖を入れると浸透圧の影響で素材にお出汁の味が染み込まなくなりますので、最初に入れた方がいいというのは嘘です。入れるとしたら最後です」
浸透圧とか科学的なことを言われると説得されてしまいそう。でも昔から言われている「さしすせそ」にもそれなりの合理性があるのでは?

「いえ、そもそも本来日本料理に砂糖はほとんど使われないんです。料亭で砂糖を使うところはほとんどないのではないでしょうか」
しかしそれは十分に甘みのある高級食材を使う料亭ならではじゃないんですか?

「昔は砂糖は高級なもので、庶民が使えないものでした。たとえば私が育った香川県の地方では野菜の切れ端を煮出して甘みをとっていました。砂糖は甘味の濃淡を画一的に出すだけですが、この方法だとグルタミン酸も一緒にでるので旨味もでるんです。砂糖を使わないで料理をした方が料理上手になりますよ」

ほう。納得。それでは家庭で美味しい料理を作ろうとしたら、どういうことに気を付ければいいのでしょうか。

「素材に調理液を染み込ませることが大事です。そのためには浸透圧作用が大事になります。砂糖を入れると浸透圧が高くなって、表面だけに味が乗ってどの素材も均一的な甘みしかでなくなります。ニンジンもジャガイモも浸透圧が0.8w/v%ですので、調理液はそれより低くないと味が染み込みません」

なるほど。段々難しくなってきましたが、要は出汁などの調理液が濃すぎると素材に味が入らないということですね。それ以外に何かアドバイスはありませんか?

「沸騰させないことです。100℃になるとタンパク質が凝固して固くなってしまい、煮崩れもしやすくなります。80℃くらいの鍋肌に泡が出るか出ないかの状態が適温です」

これは気を付ければできるかも。それにしても日本料理には砂糖は使わなくてもいいとは驚きです。それどころか砂糖は使わない方がいいと松田さんは言います。

「病気になりたくなければ、砂糖はやめて下さい。砂糖は免疫と代謝を落とすんです」

松田さんのところには、疾患を持った方やダイエット目的の方がよく訪れるそうですが、砂糖を使わない昔ながらの調理法の食事に切り替えるだけで多くの問題が改善されると松田さんは言います。

「砂糖をやめて、30回以上噛んで食べるだけで健康になれますよ」

砂糖なしでは耐えられない!という人もアーモンドやカシューナッツを食べればソフトランディングできるといいます。

「砂糖の甘さは均一的です。それは画一化を追い求めるファーストフードにとっては都合がいいのですが、日本料理は素材の個性を拡張することに食べる喜びを見出すものです。キチンとした論理にもとづけば、スーパーで買った食材でもちゃんと甘味はでますよ」

これからの料理の常識は「しすせそ」になるかもしれませんね。ちょっと語呂は悪いけれど。
(鶴賀太郎)