北京五輪。サッカー女子3位決定でドイツと激突した日本<br>(Photo by PHOTO KISHIMOTO)

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ドーハの悲劇、ジョホールバルの勝利。日本サッカーの問題は、この2試合に続く名勝負がないことだ。2004年アジアカップ対ヨルダン戦を当時、ジョホールバルの勝利に匹敵する名勝負と歌い上げたテレビ局もいたが、どうみても持ち上げすぎだったことは、いま客観的に振り返るとよく分かる。むしろ、無理に持ち上げようとする姿に、名勝負が枯渇している現実が浮き彫りになる。

その後、僕が経験した、最も拍手を送りたくなった試合は、昨年の北京五輪。3連敗を喫した反町ジャパンではない。佐々木監督率いる女子チームが演じた準決勝(アメリカ戦)、3位決定戦(ドイツ戦)の戦いだ。

彼女たちがベスト4に進むとは思っていなかったのだろうか、日本人の観戦者は少なかった。いずれのスタンドにも日の丸はほとんど靡いていなかった。地元北京の観衆が、ひたすらブーイングを浴びせかける逆境の中で、日本の女子チームは戦い、健闘した。前線から日本の小柄な女子選手たちは積極的にプレッシャーをかけ、アメリカ、ドイツの大きな体格をした選手を慌てさせた。痛快なほどプレッシングは決まっていた。日本のあるべき姿を見せられた気がした。

アメリカには2対4で、ドイツには0−2で敗れた。結局、体格負けした恰好だが、それぞれの試合とも、日本へのブーイング一色だったスタンドは、時間の経過とともに、反応を変えていった。僕の近くで見ていた中国人は、小さな日本人が大きなアメリカ人、ドイツ人を向こうに回し、小技を発揮する姿を見て、「日本人て巧いじゃん」と、間違いなく感激している様子だった。3位決定戦で敗れた日本が、スタンドに向かって一礼すると、少なくとも僕の周りにいた中国人のファンは、座席から立ち上がり、万雷の拍手を送っていた。

感動的な光景だった。実に清々しい敗戦だった。大女を向こうに回し、彼女たちはよく頑張った。これ以上、頑張れとは言えない見事な頑張りを披露した末に敗れた。負けてあっぱれ。それは中国人の反応に端的に表れていた。まさに美しい散り方だった。久しぶりによいものを見せられた気がした。男子の代表が、こうした敗れ方をしたことがあっただろうか。記憶はなかなか浮かんでこない。

南アワールドカップに臨む岡田ジャパンに望みたいのはこの点だ。日本は遅かれ早かれ、いつか必ず負ける。問題はその瞬間、スタンドのファンからどれほど拍手をもらえるかだ。カメルーン、オランダ、デンマーク。グループリーグを戦う3チームは、いずれも身体がデカい。そんな相手に、小さな日本がプレッシングを武器に果敢に迫っていく姿は、感動に値するはず。それが決まれば、観衆の心を惹きつける可能性は十分ある。

そうした意味で、本番までに、プレッシングだけはきちんとできるようにしておきたい。岡田サンの指導でダメなら、臨時講師として女子の佐々木監督を招くべきだというのは冗談だが、そのサッカーに、ヒントが少なからず隠されていることは事実。女子ができて男子ができないのは格好悪い。岡田サンに求めたいのはその1点。プレッシングを標榜しているのなら、プレッシングだけは完璧にご披露できるレベルまで教え込んで欲しい。口先だけのプレッシングは勘弁だ。

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