通称「赤レンガ倉庫」の元東京第一陸軍造兵廠(ぞうへいしょう)旧275棟は、新中央図書館として08年4月に完工予定。2日、東京都北区の十条台で。(撮影:佐藤学)

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今年も戦争と平和を考える季節を迎えている。区の面積の10%が軍事施設に当たり、かつて軍都と呼ばれた東京都北区は、当時の面影を残す戦跡など24カ所を表記した「北区平和マップ」を発行し、写真40点を展示するなど「北区平和記念週間」を開催中だ。住民が区内の戦跡・史跡を巡ることで、平和について考え語り継いでもらおうという試みで、16回目となる今年は、初めて実物大の防空壕を再現して「空襲体験コーナー」を設けている。5日まで。

 再現された防空壕内に入ると、天井に小さな2つのスクリーンが設置され、長いすの上にはヘッドホーン。「空襲警報発令」というアナウンスとサイレンを合図に室内の照明が落とされ、映像と体感音響で当時の様子を疑似体験できる仕組みだ。スクリーンには、米軍爆撃機から次々と落とされる焼夷弾と空気を切り裂く落下音、地上では焼夷弾が炸裂し、炎と煙で何も見えない様子も再現される。約5分間の疑似体験後、戦争体験者の高齢者が席を共にする場合、若者たちに実体験を話す姿も見受けられる。

 北区に45年間在住する北山かね(82)さん(仮名)は、8月に入ると長崎の原爆を思い出す。北山さんは1945年8月10日、出身地の長崎県大村市の防空壕に避難していた。突然今までになかった大きな爆音を聞いて、しばらくたってから防空壕から外に出ると目の前に巨大なきのこ雲を発見した。「その2、3日後に長崎から身体中火傷を負った被災者の人たちが次々と大村市に運ばれてきたことを今も忘れられません」と当時を語る。同体験コーナーがあることを聞いて訪れた北山さんは、帰宅したら2人の息子に戦時中の話をしたいと語ってくれた。

 今回2万部作製された「北区平和マップ」で紹介されているのは、通称「赤レンガ倉庫」の元東京第一陸軍造兵廠(ぞうへいしょう)旧275棟、中央公園文化センターになっている元東京第一陸軍造兵廠本部、長崎とサイズ違いの北村西望作「平和祈念像」など24カ所。北村西望氏が17年間北区に在住し、西ヶ原にアトリエを構え、「平和祈念像」の原型の制作に着手していたことなどを紹介している。

 その西ヶ原には、司馬遼太郎氏の代表作「坂の上の雲」で「すさまじい爆発力は従来の火薬の概念をはるかに超えたものであった」と述べられている火薬の「海軍下瀬火薬製作所」が存在した場所が、現在、「下瀬坂」という地名で残っている。「物の量からみればこの戦争は、日本にとって勝ち目がほとんどなかったが、わずかな有利な点は下瀬火薬にかかっていたといえるであろう」と書き記されている。【了】