日本の新幹線E2系(左)と中国の高速鉄道車両「CRH2」(右)(写真:tarousite/PIXTA)

時価総額でアジア最大のアリババ、世界最大のゲーム会社テンセント、世界のスマートフォン出荷量でアメリカのアップルを抜いたファーウェイ。イノベーション分野において中国企業が躍進している。このほかにも船舶からテレビまで、生産量で中国が日本を上回る分野は年を追うごとに増えている。

中国は、「中国製造2025」を掲げ、2025年までに付加価値の高い製造業を有する国(製造強国)へ移行することを目標としている。その先には建国100年の節目となる2049年に世界トップ級の製造強国になるという野望がある。


東洋経済オンライン「鉄道最前線」は、鉄道にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら。

そのための手段として、中国政府は重点的に推進する10分野として、次世代情報通信技術、デジタル制御工作機械・ロボット、航空・宇宙、省エネルギー・新エネルギー自動車などを指定し、産業構造改革の推進のため財政、税制面でもさまざまな支援を行う。

鉄道もこの10分野に含まれている。正確な運行管理と新幹線をはじめとするテクノロジーで世界を驚かせた日本の鉄道メーカーと中国企業とでは、どちらの実力が上なのだろうか。

中国台頭で世界は大再編時代に

中国の鉄道車両メーカー2社が2015年に経営統合して誕生した中国中車の鉄道事業売上高(2017年度)は1410億元(約2兆3000億円)。かつて世界の“ビッグスリー”と称された独シーメンス、仏アルストム、ボンバルディア(本社カナダ、鉄道の拠点はドイツ)の鉄道部門の売上高はいずれも1兆円前後なので、規模では中国中車がビッグスリーを2倍以上も上回る。日本の2大鉄道メーカー、日立製作所(鉄道事業売上高5627億円)と川崎重工業(同1417億円)もやはり規模ではかなわない。

中国中車の登場を契機にシーメンスとアルストムが鉄道事業の統合を2017年に発表した。ビッグスリーが主導権を握る構図は過去のものになろうとしている。続いて今年5月にはアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)の鉄道部門であるGEトランスポーテーションとアメリカの貨車大手、ワブテックが合併を発表。両者の売上高を合わせると78億ドル(約8600億円)という、ビッグスリーに迫る規模の鉄道メーカーがあらたに誕生する。世界の鉄道メーカーは大再編時代に突入した。


中国高速鉄道「CRH380D」。ボンバルディアの「ゼフィーロ」をベースに開発(記者撮影)

中国中車の成長の原動力は、急ピッチで進む中国国内の鉄道整備だ。

中国は世界の高速鉄道営業距離の3分の2に相当する2.5万キロメートルの高速鉄道網をわずか20年で構築。さらに30年までに高速鉄道網を3万キロメートルに拡張する計画もあり、高速鉄道車両の受注は今後も増えるだろう。つまり、中国中車が中国国内で稼ぐのはある意味当然の話である。

では、同社が中国以外で稼いだ売り上げはどの程度あるのかというと、191億元(約3100億円)と鉄道事業売上高の13%にすぎない。

中国製車両の中身は「日本製」

日立の鉄道事業売上高5627億円に占める海外比率は83%(約4670億円)に達している。同じく川重の鉄道事業における地域別売上高比率は「国内、北米、アジアがそれぞれ3分の1ずつといった状況」(同社)なので、海外売り上げは940億円程度とみられる。

このほかでは、売り上げの4分の3を海外で稼ぐ近畿車輛の海外売上高は465億円。この3社の海外売上高を合計すれば、約6075億円。中国中車の国外売上高のほぼ2倍だ。将来について油断は禁物だが、現時点の世界での存在感は、日本勢のほうが大きいといえそうだ。

さまざまな産業で中国企業が日本を脅かしつつあるが、半導体や精密機械、高級鋼材といったハイエンド分野は、今なお日本勢に強みがある。鉄道も例外ではなく、鉄道車両に使われる電機品や信号システムなどのうち、とりわけ高い技術が必要とされるものは、中国も日本からの輸入に頼らざるをえない。

日本は、2017年度にこうした鉄道部品を中国に4億5840万ドル(約500億円)分輸出している。この数字は日本の鉄道部品輸出全体の3割に相当する。中国の鉄道車両生産が増えれば、日本の部品輸出も増える。その点で中国企業の躍進は日本勢にとって悪い話ばかりではない。

世界の鉄道ビジネスでとりわけ関心が集まるのは高速鉄道だ。時速200キロメートル以上で走る高速鉄道の建設は高い技術力を必要とするため、ゼロからの開発は簡単ではない。そのため、新興国などが高速鉄道を導入しようとする際には、走行実績が豊富な国の企業から車両を輸入するといった例が多い。


ドイツ鉄道の「ICE」から派生したタイプの車両を、シーメンスは「ヴェラロ」というブランド名で各国に売り込む(記者撮影)


中国中車の高速鉄道車両「CRH380B」。シーメンス「ヴェラロ」がベースだ(記者撮影)

世界一の高速鉄道網を誇る中国も、高速鉄道車両の開発に際しては日本やドイツ、フランスに技術支援を仰いだ。

中国の高速鉄道車両「CRH2」は、東北、上越新幹線などを走る「E2系」タイプの車両を輸入およびライセンス生産したものだ。同じく「CRH380B」も元をたどれば、シーメンスの高速鉄道車両「ヴェラロ」がルーツである。

アルストムやシーメンスの高速鉄道車両は多くの国で採用されているが、日本も負けていない。日本の新幹線は「E2系」だけでなく、東海道・山陽新幹線「700系」をベースに開発した「700T」が台湾に輸出され、2007年から営業運転を行っている。さらにインドでもムンバイ─アーメダバード間の高速鉄道案件を2015年に受注。東北新幹線「E5系」タイプの導入が決まっており、2023年の開業に向け、急ピッチで準備が進む。

イギリスでは都市間高速鉄道計画(IEP)などのプロジェクトによって、日立製の高速鉄道車両が次々と導入されている。これまでに日立がイギリスから受注した高速鉄道車両の総数は1396両。これはJR東日本(東日本旅客鉄道)が保有する新幹線の車両数1385両を上回る。

ただし油断は禁物

当初は日欧の助けを借りて車両製造を行った中国も、今では自国の高速鉄道技術の輸出に力を入れる。2015年にはインドネシアのジャカルタ─バンドン間を結ぶ高速鉄道案件で日本に競り勝った。

だが、受注はしたものの、土地収用の遅れなど準備に時間を要し、建設は進んでいない。当初予定されていた2019年の開業は望み薄だ。高速鉄道の国際展開も、今のところ日本に軍配が上がるといってよいだろう。


JR東日本の新幹線「E5系」。このタイプの車両がインド高速鉄道に採用される(撮影:今井康一)

ただし、これらはあくまで現時点の話である。日本国内では在来線車両の置き換え需要が堅調で、鉄道メーカー各社は今後しばらくの間、国内ビジネスで稼げそうだ。

雇用、為替、法規制などリスクの高い海外ビジネスにあえて手を出す必要はないと考えるメーカーが出てきても不思議はない。油断していたら、鉄道車両製造も中国に追い越され、「鉄道王国ニッポン」の看板を降ろす日がやってくるかもしれない。