3月27日のウクライナ戦のスターティングメンバ―(写真:JFA/アフロ)

2カ月後に迫った、2018年ロシアワールドカップ本大会のメンバー発表前最後の海外テストマッチとなった3月23日のマリ、27日のウクライナ2連戦(ベルギー・リエージュ)。欧州組を含めたメンバーでは昨年10月のニュージーランド戦(愛知県・豊田スタジアム)から未勝利だったため、今回こそは勝ってチーム全体に自信と勢いをつけたかった。

けれども、格下であるはずのマリに1-1で引き分けるのが精いっぱいで、欧州予選敗退国・ウクライナにも力の差を見せつけられて1-2で苦杯を喫した。この時期に至ってヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任論が声高に叫ばれるなど、日本は危機的状況に陥ったと言っても過言ではないだろう。

試合の内容はどうだったのか?

2つの試合を分析すると、2戦目のウクライナ戦のほうが内容は上向いた。「マリ戦では慌ててプレーしたり、バックパスが多かったり、ボールコントロールのミスがあったりしたが、今回はそこがよくなった。ボールを奪うこともより多くできたし、奪った後の狙いも明確だった」と指揮官からも前向きなコメントが飛び出した。

まずマリ戦は攻めのスイッチを入れていた大島僚太(J1・川崎フロンターレ)が前半途中に負傷交代したことでリズムが悪化。後半からハリルホジッチ監督が「タテヘ蹴れ」と再三指示を出したことで何人かが困惑し、チームが意思統一を欠いた。

が、ウクライナ戦は少なくとも全員が同じ方向を向いて戦っていた。スタメンにボールキープ力のある本田圭佑(メキシコ・パチューカ)や柴崎岳(スペイン・ヘタフェ)が入ったことも全体を落ち着かせる好材料にはなった。

終盤には久保裕也(ベルギー・ヘント)やマリ戦で代表デビュー初ゴールを決めた中島翔哉(ポルトガル・ポルティモネンセ)が何度か決定機を作った。結果こそ出なかったが、「ポジティブな面がたくさん見られた」という指揮官の発言に偽りはないだろう。

とはいえ、攻撃陣の迫力不足、肝心なところで決めきれないのは相変わらず。半年ぶりに代表先発した本田がウクライナ戦でシュートゼロに終わったことが大々的に報じられたが、それは杉本健勇(J1・C大阪)、原口元気(ドイツ・デュッセルドルフ)、柴崎も同じこと。彼1人に限った問題ではなかった。

守備負担が大きすぎて攻撃できない

「杉本選手が途中でガス欠してしまいましたけど、彼の仕事は守備じゃなくて攻撃。なのに守備に力を注ぎこんでしまった。自分たちがボールを持つ時間を増やさないといけない」と槙野智章(J1・浦和レッズ)が説明したように、前線の守備負担が大きすぎて、攻めに転じるエネルギーを出せない。それが苦境の一因なのだ。そんな時こそ、ボール保持に秀でる本田を有効活用すべきではないか。

「圭佑がボールを落ち着かせてくれて助かった」と長友佑都(トルコ・ガラタサライ)も話したが、それは多くの選手が感じていること。かつてエースに君臨した男の長所をうまく使いながら攻めを活性化させることを今の日本は考えたほうがいい。

日本の左サイドを個の力で切り裂いたウクライナのイェウヘン・コノプリャンカ(ドイツ・シャルケ)のような選手がいれば楽だが、ないものねだりはできない。今回は中島が唯一、その可能性を垣間見せたが、彼も先発で出た場合は守備負担が大きくなるため未知数だ。

選外だった乾貴士(スペイン・エイバル)や、伊東純也(J1・柏レイソル)もスピードと推進力には長けているが、指揮官が使うかどうか定かではない。

もちろん、彼らには期待を寄せたいものの、個で打開できる人間が少ない現状は確か。それを踏まえると、日本は組織で崩すことにさらにフォーカスしていくべきだが、ハリルホジッチ監督が毎回のように選手を入れ替えているため、連動性やコンビも成熟度が低い。本大会直前の限られた時間でどう完成度を高めるのか。セットプレーを含めて策を講じるしかない。

1つ強調しておきたいのは、ピッチ上で判断するのは選手自身ということ。指揮官は常日頃からタテに速い攻めを強調しているが、相手との力関係を考えて日本がボールを回す時間があってもいいはずだ。そういった判断力が低下してしまっているのがいちばん気掛かりな点だ。選手たちには「自分で考えることの大切さ」という原点に立ち返ってもらいたい。

一方の守備面では、吉田麻也(イングランド・サウサンプトン)や、酒井宏樹(フランス・マルセイユ)といった大黒柱がいない中、槙野がリーダーシップを発揮したのは数少ないプラス要素だった。その彼がウクライナ戦でFKから一矢報いるゴールを決めたのも、チームに勇気を与えた。

個の能力不足も課題点

しかしながら、コノプリャンカにズタズタにされた酒井高徳(ドイツ・ハンブルガーSV)のように個人のところで力負けする選手が少なくなかったのは直視しなければいけない点だ。ハリルホジッチ監督は「今回はケガで2〜3人主力を欠いていた。彼らがいればもう少しいい戦いができると思う」と話したが、右サイドが酒井宏樹だったとしても1対1の勝負で100%勝てるとは限らない。

本大会の相手には、コロンビアのルイス・ムリエル(スペイン・セビージャ)やセネガルのサディオ・マネ(イングランド・リバプール)など爆発力のあるサイドアタッカーはいる。彼らを封じられなかった場合、いかにして組織で守るかを真剣に模索する必要がある。

ウクライナ戦の1失点目も相手DFのヤロスラフ・ラキツキー(ウクライナ・シャフタール)が攻め上がって豪快なミドルシュートを放ち、植田直通(J1・鹿島アントラーズ)の頭に当たってオウンゴールとなる形だったが、杉本がもっと早く寄せてシュートブロックに行っていたら、阻止できたかもしれない。そういう細かい部分を一つひとつ突き詰め、緻密さを高めていくしか、失点を減らす方法はない。

崖っぷちに瀕した2010年南アフリカワールドカップの日本代表が予選1次リーグを突破できたのも、守護神・川島永嗣(フランス・メス)と中澤佑二(J1・横浜F・マリノス)、田中マルクス闘莉王(J2・京都サンガ)を軸とした守備陣でしっかりと相手の攻めを跳ね返したからだ。

先に失点したのは0-1で惜しくも敗れたオランダ戦だけだ。やはりワールドカップのような大舞台では、日本が先に失点すると勝てる可能性が一気に下がると考えたほうがいい。

欧州組を含めたメンバーで5戦勝ちなしの日本代表を見てみると、無失点ゲームは皆無。しかも先に失点したのは、11月のブラジル戦(フランス・リール)、ベルギー戦(ベルギー・ブルージュ)、今回のマリ、ウクライナと4試合にも上っている。攻撃陣が迫力を出せずに苦しんでいる今、リードを許してしまったら、本当に勝ち目がなくなる。それは本大会に行けばなおさらだ。

この遠征で何を選手が得るのか

前からプレスをかけていくのがハリルジャパンの基本戦術ではあるが、ある時間帯は2010年W杯の時のように自陣に引いてブロックを作ることも考えるべき。そういう守備の修正はロシア直前合宿でもできるはずだ。

まずは失点を最小限に減らすことが、ミラクルを起こすカギになる。今回リーダーに躍り出た槙野には、吉田や長友、川島らとともにそういう意思疎通を図る役目を率先して担ってほしい。

停滞感が続く日本代表は今、自信喪失寸前だが、現状を嘆いたところで何も始まらない。今回の2連戦から何を教訓にするのか。それが何よりも重要だということを、選手たちには肝に銘じてもらいたい。

(文中敬称略)