過去に銀行強盗などの重い犯罪を起こした人がインタビューを受ける映像は、ニュース番組などでしばしば放送されます。ニューヨーク・マンハッタンで発生した「バケツに入った金塊強盗」の犯人として一躍有名になったフリオ・ニヴェロ氏が、強盗を起こした後に国外逃亡を果たした一部始終について語っています。

Infamous Thief in $1 Million NYC Gold Bucket Heist Tells of Dramatic Escape From Country - NBC New York

https://www.nbcnewyork.com/investigations/NYC-Gold-Bucket-Heist-Armored-Truck-1-Million-Dollars-Fugitive-Thief-Speaks-472147013.html

ニヴェロ氏は「あの金塊は、泥棒を仕事にしている人間にとってのスーパーボウルみたいなものだ。アメフトをやっている人間なら、誰だってスーパーボウルでプレイしたいと思うだろう?それと同じだよ」と語ります。ニヴェロ氏は2016年9月29日、マンハッタンの路上で白昼堂々と160万ドル(約1億8000万円)相当の金塊が入ったバケツを盗み出し、その大胆な犯行がYouTube上で話題になった人物。

金塊入りのバケツを持ったニヴェロ氏を捉えた監視カメラの映像がこれ。

Raw: Thief Steals Bucket of Gold Worth $1.6M

1989年にアメリカへ渡ってから20年以上にわたって盗みを繰り返してきたというニヴェロ氏は、「あれだけの商品やお金をトラックにのせて、しかも道ばたに駐車してるんだから驚いたよ」と言います。ニヴェロ氏は盗みを働くときに暴力を使うことはせず、ただ周囲の状況や人物の行動に注意を払うことだけで、盗みを成功させてきたとのこと。ニヴェロ氏によれば「目で見た記憶を巻き戻す」ことで、ターゲットの周囲に何人ほどの人が残っているのか、現在どのような状況であるのかがわかるそうです。

これから盗みを働くとは思えないような、カジュアルな普段着に身を包んだニヴェロ氏。



ニヴェロ氏はトラックが金塊を詰めたバケツを会社に運び込むことを知っており、ターゲットのトラックを発見した後、注意深く警備員や運転手の出入りを見張っていたとのこと。「警備員がちょうど出払った瞬間、『これはもらった』と思ったよ。自分の経験から警備員がトラックを離れる時間もわかっていたから、後は荷台を見張るドライバーが少し離れてくれさえすればよかった」

中央上部に見えているのが、金塊入りのバケツをのせたトラック。ニヴェロ氏がそれとなく周囲の様子をうかがっているのがわかります。



そしてついに運転手がキャビンに置いた携帯電話を取りに、トラックを離れました。ほんの十秒程度のことでしたが、泥棒慣れしたニヴェロ氏にとっては十分すぎる時間だったとのこと。「運転手が荷台を離れてキャビンに向かい、戻ってくるまで十秒くらいだった。運転手が戻ってきたとき、すでに私はその場を離れていた」

金塊入りのバケツは86ポンド(約40キログラム)ほどもあったそうで、「40ポンド(約18キロ)くらいだと思ってたんだけど、想像以上に重かったね」とのこと。荷台の床とこすれて音を立てないよう、慎重にニヴェロ氏はバケツを運び出しました。



バケツを運び出したニヴェロ氏は、50フィートから100フィート(約15メートルから約30メートル)おきに休憩し、どうにかバケツを運んでいったそうです。周囲に誰も自分のことを気にする人間はおらず、「勝った」と思ったとのこと。



バケツの中には2本の金の延べ棒が入っていたとのことですが、盗み出した金塊が本物かどうか確かめるため、ニヴェロ氏は電動のこぎりを購入しました。金の延べ棒に他の金属が混ぜられている可能性もあったため、その価値を見極めるため慎重になっていたとニヴェロ氏はいいます。

小さくカットした金の延べ棒を友人の鑑定士に見せたところ、「これは良質の金の塊で、23万ドル(約2500万円)の価値がある」と知らされました。そこで持ってきたかけらから自宅に保管してある金の価値を逆算したところ、ようやくバケツの中の金塊に160万ドル(約1億8000万円)の価値があることがわかったそうです。

ニヴェロ氏はすでに警察が捜査網を張り巡らせていることを承知していたため、髪を切ってスーツに身を包み、金のディーラーを回ってすぐに換金。約120万ドル(約1億5000万円)の現金を手に入れました。



ニヴェロ氏は現金を小分けにして一部をニュージャージーの隠れ家に隠し、残りを婚約者の女性に託しました。その後すぐにニューヨークを離れ、故郷のエクアドルへ戻る方法を画策したそうです。ニヴェロ氏は警察の包囲網によってフロリダ州に追い詰められつつありましたが、友人たちを買収することでこっそりと包囲網を脱出。

その後ニヴェロ氏はメキシコ沿いの国境を脱出し、メキシコ南東部でグアテマラの国境沿いの街タパチュアラに到着。そしてグアテマラにわたり、数日間滞在しました。その後パナマへ行き、次にペルーの首都リマへ向かいました。

そしてペルーとエクアドルの国境沿いの街トゥンベスにたどり着き、徒歩で国境を越えてエクアドルに入国したとのこと。



ニヴェロ氏は「すべての問題をニューヨークに置いてきた気分だった」そうで、エクアドルでは普通に生活していたと語ります。しかし、あるとき中心街の付近で警察に「ニヴェロさんですね?」と尋ねられ、そのまま逮捕されたそうです。

エクアドル政府はニヴェロ氏をアメリカに引き渡すことはしなかったものの、条約に従ってニヴェロ氏に有罪判決を下します。アメリカでは3度の逮捕歴があるニヴェロさんでしたが、エクアドルでは逮捕歴がなかったため1年の実刑判決となり、さらに模範囚だったため9カ月で釈放されたとのこと。

「犯罪を犯してつかまったら、刑を受けるべきです。私はそれに対して文句を言ったことはない」とニヴェロ氏は語りました。



ニヴェロ氏は釈放後、タクシーの運転手として普通の生活を送ろうとしたとのこと。しかし、YouTubeなどの動画サイトに金塊泥棒の映像が流出し、エクアドルでは「ゴールデンボーイ」として有名になってしまったニヴェロ氏は、強盗グループに襲撃されて携帯電話を奪われてしまったそうです。

「私は平和になりたい」とニヴェロ氏は語ります。



ニヴェロ氏が現金を託したフィアンセは他の男と金を持ち逃げし、現在ニヴェロ氏の手元にはほとんど金塊からお金は残っていないそうです。今でも手紙などでやり取りをし、お金を返すように求めているようですが、返ってきたのはわずか5万ドル(約550万円)のみ。フィアンセは「ニュージャージーの隠れ家に隠したお金は警察が押収した」と主張しているようですが、「警察は一円だって手に入れてないことを私は知っている。全部彼女が持っていったんだろう。お金が彼女を変えてしまった」とニヴェロ氏は言いますが、すでに女性から現金を取り返すのは諦めた様子。



「私の子どもたちは私を許してくれている。私は欲するだけの愛を子どもたちから受けていて、それだけで十分なんだ」と、インタビューの最後にニヴェロ氏は語りました。