2017年、中国におけるクリスマスについて奇妙なニュースが報じられた。地方における一部の党関連組織が、党員に対して「クリスマス禁止」を呼びかけていたというのだ。

 米国の国際放送局RFAは、12月11日に遼寧省の瀋陽薬科大学の共産主義青年団(共青団)が団員に向けて「“クリスマスイブ”や“クリスマス”といった西側の宗教の祭日に関連する活動」を禁じる通知を発令したことを報じている。

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地方の党員に通達「家族や同僚も監督せよ」

 また、湖南省衡陽市の党規律検査委員会もこれと前後して、市内の中国共産党員と党幹部、その親族に向けクリスマスに関連した活動への参加禁止を通達した。米国の情報サイト『チャイナ・デジタル・タイムス』から、同市内にある南華大学土木工程学院で大学院生の党員を対象に開かれた説明会で下された指示を引用してみよう。

(1)党員や党幹部とその直系親族が、許可を得ずして西側の背景を持つあらゆる宗教活動に参加することを厳禁する。特にクリスマスイブ、クリスマスの期間に路上を占拠して盛んに祝うような活動への参加は絶対に許されない。

 

(2)党員や党幹部は身をもってルールを体現し、共産主義の信仰を遵守し、迷信や西側の精神的アヘンへの盲従を許容せぬようにしなくてはならない。およそクリスマスイブ、クリスマスの期間になんらかの形式の宗教活動に参加したことがひとたび明らかになれば、事実関係を調査したうえで、規定に照らして(党員としての)紀律上の責任を追求する。

 

(3)党員や党幹部は、家族や同僚を教育し、身近な人間をよく監督し、クリスマスイブ、クリスマスに路上を占拠して盛んに祝うような活動に参加することのないよう、親戚や友人によく言って聞かせなくてはならない。党員や党幹部が(身近な人たちへの)監督の職責を履行しなかったり指導の力が不足していたり、直系親族やその親類がこのたぐいの活動に参加していたことがひとたび明らかになれば、事実関係を調査したうえで、事情を判断したうえで規定に照らして党員や党幹部として問責をおこなう。

 

(4)クリスマスイブ、クリスマスの期間に、それぞれの(公的)機関の部署は青少年に対して愛国教育と中国伝統文化教育をおこない、心身の健康に有益な伝統文化活動を挙行し、中華の優秀な伝統文化を大いに輝かしく発展させなくてはならない。

 

(5)党員や党幹部は習近平総初期の一連の講話の精神治国理政(の統治理論の)新理念・新戦略を進んで深く徹底し、中華民族の偉大なる復興である中国の夢を実現することをよくよく旨とし、中華文化の遺伝子を継承し、本質を忘れず、外からのものを吸収し、未来に向かい、中国の知恵を汲み取って中国精神を輝かしく発展させ中国の価値を継承し、中華の優秀な伝統文化の生命力と影響力を絶えず増強させ、中華文化の新たなきらめきを創造するよう務めなくてはならない。

 

 冗談としか思えないような内容だが、南華大学内で通達された上記の文書は一時は中国全国向けのニュースとしても広く配信された(現在はすでに削除)。すくなくとも現場レベルでは本気で提唱され、また当局としても広める価値がある情報だと考えていたらしい。

衡陽市の南華大学校内の中国共産党支部の集会で登場した、党員に対するクリスマス禁止令のパワーポイント画面。『チャイナ・デジタル・タイムス』より


 過去、中国ではまだ文化大革命時代の表現の影響が残っていた1983年に、党内の保守派によって精神汚染除去キャンペーンが提唱され、パーマネントやおしゃれなズボンまでも「精神汚染」として批判がなされたことがあった。今回のクリスマス禁止令の全体的な言い回しや、クリスマスイベントを「精神的アヘン」と呼ぶ表現などは、34年前のキャンペーンもかくやと思わせる復古主義を感じさせる。

「クリスマス排斥バス」まで登場?

 もっとも、今回の「クリスマス禁止令」は全国的に発令されたものではなく、遼寧省瀋陽市の大学、湖南省衡陽市、甘粛省の某市、広東省の某企業・・・など、地方都市ばかりで出されていた模様だ。場所や機関は完全にバラバラで、唯一の共通点は田舎にある末端の党組織だということくらいである。

 いっぽうで『微博』(中国版ツイッター)を見ると、親体制派のメディア関係者などが盛んに「抵制洋節(西洋の祝日排斥)」を唱えている様子が確認できる。また、吉林省長春市ではクリスマスイブの日に、20代の若いバス運転手の女性が“自分の判断で” 「拒絶洋節、従我做起(西洋の祝日を拒絶しよう、まずは自分から)」というスローガンをフロントガラスに貼り付けて営業していることがネットメディアで報じられた。

「抵制〇〇」「従我做起」は、近年の反日デモの際にも似た言い回しがしばしば使われてきた政治的な(=ダサい)スローガンだ。貼られたシールや車内の国旗だらけの内装も実に野暮ったく、なんだか地方都市のオッサンっぽいセンス。若い女性が自発的におこなった行動とは考えにくく、もうすこし偉い人の指示を受けたうえで実行したものだと見たほうがよいだろう。

長春市の「クリスマス排斥バス」の運転手である李さん。地方都市の現場労働者としてはかなりきれいな言葉を喋っており、末端の党員なのかもしれない。ネットメディア『梨視頻』より


 今回の禁止令の背後事情を考えると、ます習近平政権が第2期を迎えて専制体制を強化するなかで、末端の党組織が「上」の意向を過剰に忖度して勝手に始めた運動かもしれないという予測が浮かぶ。

 ただ、中国は伝統的に、新しい政策を検討する際に地方都市や一部の雑誌・ネット媒体などの目立たない場所ですこしだけアドバルーンが上げられ、その後に全国的に広めていく手法が取られがちだ(近年では習近平に対する個人崇拝キャンペーンもこの手が取られた)。今回のクリスマス禁止令も、今後に全国的に始まる何らかの政治運動の予兆である可能性はある。

 また、実は中国でクリスマス禁止令は今回初めて出たわけではなく、2014年に浙江省の温州大学で同様の呼びかけがなされた例がある。温州市は当局の許可を得ないプロテスタント信者が多く、「東洋のエルサレム」の異名を持つ地域で、当時の温州大の禁止令には一種の宗教弾圧の側面があったようだ。同年には温州市内で教会の大規模な取り壊しもおこなわれている。

 今回、「クリスマス禁止令」が中国各地の党末端組織でバラバラに実施されたのは、なんらかの事情で宗教と親和的な人間を抱えている党組織にピンポイントで圧力をかける目的があったからだ――。といった穿った見方も、もしかすると可能かもしれない。

「火消し」する環球時報の歯切れの悪い社説

 もっとも、今回のクリスマス禁止令は当事者の想定以上に話題になったうえ、中国国内ではネット世論を中心に冷ややかな声も多く上がっている(たとえば上記の「クリスマス排斥バス」に対しては、「自動車も外国で発明されたものだから乗るなよ」といったコメントが付いていた)。また、キリスト教関連の弾圧に敏感な欧米メディアに関心を持たれたことも大きな誤算だったらしく、12月25日付けの人民日報系列紙『環球時報』が火消しともいえる社説を掲載している。

『環球時報』は社説において、北京や上海など主要都市の党員に対しては禁止令など出ていないと強調したうえで、今回の地方都市での禁止令の目的は都市の治安維持や交通安全が目的であり、排外主義的な背景を疑う海外メディアの論調はいわれなき誤解であると主張。なにより、若者の間でクリスマスが遊びや消費や恋愛の日となっていることがいちばん大きな問題なのだから反省せよとのお叱りもおこなっている(当該の通知では「宗教活動への参加が問題だ」と書かれていたはずだが・・・)。

 そのうえで 『環球時報』は、中国は自国の伝統的な祭日をより重視すべきで、公的機関はクリスマスのような国外由来の祭日に対しては距離を置くべきであり、共産党員がクリスマスをおこなわないことは完全に理解できるとも述べる。

 全体的な論調としては、末端組織でおこなわれたクリスマス禁止令を完全に尻尾切りすることなく、その志は認めつつも外国の目は気にするという、実に歯切れの悪い内容だ。なお、前日24日にも在外華人向けに影響力がある親体制系華字ニュースサイト『多維新聞』が、『環球時報』編集長による同様の内容の談話を掲載している。

 妙にクリスマス禁止令に配慮を示すような『環球時報』の言説を観察する限り、やはり今回の禁止令は党の地方末端組織が勝手に過激なキャンペーンを打ったのではなく、もうすこし中央に近い誰かの意向を反映したテスト政策であったように思える。

 近年の中国国内ではクリスマス以外にも、バレンタインデーやホワイトデー、エイプリールフール、ハロウィンなど、いつの間にかそれなりに市民権を得てしまった国外起源の祭日が多い。今回のクリスマス禁止令が一過性のものなのか、今後も強化・全国化されていく方針があるのかの答えは、次のバレンタインデーやホワイトデーでの中国国内の動きを観察すれば明らかになることだろう。

筆者:安田 峰俊