私たちの身近にあるコンビニの知られざる裏話を、業界の内情に詳しいライターの日比谷新太さんが紹介していく当シリーズ。前回の「「缶チューハイのシェア争い」に続いて、今回取り上げるのは「コンビニでのたばこの販売」についてです。世界的な禁煙ブームで市場規模が小さくなる反面で、「iQOS(アイコス)」をはじめとした電子たばこの普及が進むなど、まさに激動期にあるたばこ業界。それに伴ってコンビニでの販売動向は、どのように変化をしているのでしょうか。

たばこは品揃えを増やすほど売れる

コンビニで販売されている商品の品揃えは、平均して3,000〜3,500アイテム。コンビニ経営者は日々お客さんのニーズを考えたうえで商品の発注をして、最適な品揃えを実現しています。

ただ、なかには売れない商品(死筋)を抱えてしまい、値引き販売に追い込まれることもあります。店舗面積が狭小なコンビニにおいて、品揃えの適正化を図ることは簡単ではありません。

しかし唯一ある商品だけは、品揃えを増やせば増やすほど売上を上げることができます。それが「たばこ」です。

たばこは、販売をするために許可が必要な、数少ない商品のひとつです(一昔前は酒類も同様でした)。販売許可の申請は財務省に出すのですが、その際は主に既存の他販売店舗との距離が勘案されます。

・指定都市(政令指定都市):繁華街(A)は25m、繁華街(B)は50m、市街地は100m、住宅地(A)は200m、住宅地(B)300m

・市制施行地:繁華街(A)は50m、繁華街(B)は100m、市街地は150m、住宅地(A)は200m、住宅地(B)は300m

・町村制施行地:市街地は150m、住宅地(A)は200m、住宅地(B)は300m

コンビニにおけるたばこの売上構成比は、立地条件にもよりますが概ね30%程度。たばこは嗜好品であるため、品揃えの幅があるほど来店客が増え、売り上げが上がる傾向になっています。

上表は、たばこのアイテム数とたばこ売上構成比の相関を示したグラフです。これを見てもわかる通り、たばこは俗に言う「ロングテール商品」なのです。

そんなバックデータがあるため、どのコンビニチェーンでもたばこのアイテムを1つでも増やそうと努力をしています。具体的には、レジカウンターの後方にあるたばこ什器を可能な限り大きくしたり、またレジカウンター上にお客さんが自分で手に取れるセルフ販売什器を導入するなどの工夫を、どの店でも行っています。

電子たばこの登場で売れ筋が大幅に変化

このようにコンビニの売上に大きく寄与しているたばこですが、市場としては縮小傾向にあります。年間で約3500億本を記録した1996年をピークに、2013年は約1969億本にまで減少しました。

ただ出荷本数が右肩下がりとなるなか、増税による1箱単位の単価アップにより、コンビニにおけるたばこの売上はだいたい前年並みをキープしています。また「タスポ」導入の余波で、自動販売機でのたばこ販売が大幅に減り、手売り販売をしている店頭での購入にシフトしてきている点も、コンビニにとっては追い風となっています。

このような市場環境のなか、フィリップモリス(PM)社から発売されたのが、電子たばこ「iQOS(アイコス)」でした。日本では2015年に登場したiQOSは、様々なトライアルキャンペーンを展開して市場への浸透を図ってきましたが、当初はなかなか認知度が上がらない状態が続いていました。

しかし、TV番組「アメトーーク」で取り上げられたことで一気にブレイク。お客さんからの「いつ入荷するの?」という問い合わせが、店には相次ぎました。PM社のほうも、商品欠乏感を常に漂わせるようなマーケティング戦略を採っていることで、iQOSに対する注目度は今もなお高く、さらに2017年3月には新製品「IQOS 2.4 Plus」も登場し、人気にますます拍車がかかっています。

コンビニにおける銘柄の売れ筋も大きく変わりました。iQOS発売前の2014年時は、JTの「メビウス(旧マイルドセブン)」シリーズが数多く発売されており、売れ筋商品の上位にランクインしていました。ところが、直近の2017年では3年前の約75%と大きくシェアを落としています。ちなみにコンビニにおけるたばこ全体の売上は、3年前との比較で103%と、iQOSがたばこ売上の底上げに一役買っています。

このように電子たばこの人気が高まり、紙巻たばこの売上が下がるなか、JTも「Ploom TECH(プルーム・テック)」という電子たばこを新たに投入。今年6月からは首都圏での発売もスタートさせるなど、JTの本格的な反攻も始まっています。

電子たばこは受動喫煙のリスクが低く、今後も紙巻たばこ愛煙者からの切り替えが続くことが想定されます。電子たばこがさらに普及することで、コンビニにおけるたばこの品揃えは今後さらにどう変化するのか、今後の動向に注目が集まります。

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出典元:まぐまぐニュース!