大躍進のファミマ!見えてきたセブンに、どう追いつくか

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売り上げが13カ月連続で同年前月比を上回ったファミマ。その大躍進を支えたのは、中食構造改革、つまりお弁当の大改革があったのだ。ファミマ反転攻勢の裏側を密着取材した!

実はファミマ改革の裏には重要なキーマンが存在している。商品本部長の本多利範氏だ。本多氏の経歴は異色である。セブン−イレブン・ジャパンに約20年勤め、当時の最年少取締役に就任した後、韓国のセブンのCOOに就任。経営危機の状態から、3年で黒字化、5年で店舗数を10倍以上にした。帰国後はスギ薬局、家電量販店のラオックスを経て、再びコンビニ業界に復帰。エーエム・ピーエムの社長として収益改善後、ファミマへの売却の道筋をつけ、10年、ファミリーマート常務執行役員に就任した。

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(左)ファミリーマート 商品本部長 取締役専務執行役員 本多利範氏●1949年、神奈川県生まれ。明治大学経済学部卒業後、大和証券を経て、セブン−イレブン・ジャパン入社。98年コリアセブンの再建に招聘。2009年エーエム・ピーエム・ジャパン副社長、同年同社社長。10年ファミマ常務執行役員、15年より現職。
(右)本多利範著『おにぎりの本多さん』(プレジデント社刊)。本多氏は、韓国で「おにぎりの本多さん」との愛称がある。コンビニの秘密がギュッと詰まった一冊。重版出来。

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自らを「買われた社長」と笑って話す本多氏だが、買収元の社長としては、その後の経歴は異例である。現在、67歳の本多氏だが、取締役専務執行役員として、商品本部長(兼)物流・品質管理本部長(兼)海外AFC商品推進部長(兼)中食構造改革委員長など複数の業務に携わり、多忙な日々を送っている。経験、知識、アイデア、人脈の豊富さに加え、なにより「コンビニを天職だと思っている。マグロと同じで止まったら死んじゃうんじゃないかな(笑)」(足立氏)と評されるほどのコンビニ愛を、周囲が放っておくはずがない。

プレジデント誌は、本多氏の毎週の朝礼の議事録を入手することに成功した。この朝礼は韓国のセブン時代からずっと続くものだという。そこには、消費者心理を読み込もうとするマーケットのプロの鋭い言葉が並んでいる。ある年の1月から2月頃の朝礼を覗いてみよう。

「今年は冬が長かった。消費者は長い冬に飽きている。春に対する期待が強いので気温とは別にサンドイッチなどの春向け商品が動いている。春を待ちのぞむ消費者心理を読んで仕掛けていこう」「春が近い。春というキーワードから何が導き出せるのか。例えばプロ野球などのスポーツがはじまる。スポーツ新聞が売れる。専門雑誌が売れる。競技場近くのフードが売れる」「同じような商品が並んでいるようで、バレンタインデーとホワイトデーでは買うお客がまったく違うことを念頭におくこと」……。ここで紹介しきれないが、「売り場をどこよりも先に変化させ、常に新鮮に保とう」とする本多氏のコンビニ哲学が垣間見える。

■次々と周りのコンビニが潰れていく

本多氏が掲げるコンビニの役割とは、人々にとっての「ライフ・ソリューション・ストア」である。

「日本のコンビニは、3段階ステップで発展してきました。第1フェーズは1960年代、日本でコンビニが誕生し、24時間営業の便利なお店として認知された時期を指します。第2フェーズは80年代、おにぎりなどの定番商品が定着する一方、ATMやコピー複合機などが置かれ、単なる小売店舗の枠を超え利便性が周知されました。第3フェーズを迎えた今、これまでにない新たな価値創出が求められます」

高齢者の増加、働く女性の増加、単身世帯の増加など、社会は目まぐるしく変化していく。

「私はよく家電屋さんを覗くんです。家電屋さんにはその国の台所事情が表れているからです。例えばベトナムの平均的な冷蔵庫は250リットル。この大きさだと、毎日買い出しに出るのが前提です。日本でも以前は450リットルが主流でしたが、今は650、700リットルと大型になっており、しかも冷凍室とチルド室が増えている。つまり冷凍食品などの買い置きを想定しているんです」

「食の外部比率」が高まっている今こそ、本多氏は、コンビニを「家庭のキッチン」として利用してもらいたいと語る。ライバルは、外食産業、スーパー、デパ地下、惣菜店など。その市場は大きい。

そのほか、人々の問題を解決(ソリューション)すべく、取り組むのが、異業種一体型店舗の開発だ。薬局との一体型店舗、農協との一体型店舗など、従来のコンビニの枠を超えて、人々の生活の中に定着する道を探っている。スギ薬局時代から本多氏の下で様々な商品開発を行ってきたファミリーマート商品本部日用品・ヘルスケア部長の吉野正洋氏は、コンビニは「街の健康ステーション」として十分機能しうると考える。

「本多さんも私も過去の経験から、これからの高齢化社会において、ドラッグストアは必ずしも100%高齢者の受け皿にはならないと感じていました。理由は商圏人口の違いです。ドラッグストアの商圏は2〜5キロと広範囲ですが、対するコンビニは500メートルです。足腰が弱り歩くのが困難なお年寄りが、徒歩圏内で、薬や食品、日用品と揃えることができるんです」

これまでもアンケートなどで、「コンビニで扱ってほしい商品」を尋ねると、第1位には薬が挙がっていた。

実は以前も、ファミマは自前で薬剤師を雇い、薬を販売する方法を実験店で試したことがあった。だが、薬剤師や登録販売者の確保などが難しく、全国展開は不可能と断念した。その後、既存のドラッグストアとの提携の道を探り、本多氏自ら全国津々浦々を訪ね歩き、1社ごと地道に口説いていった。12年ヒグチ薬局との提携を皮切りに、現在全国で約40店舗展開しており、19年2月期までに1000店出店を目標にしている。その1号店である、神田淡路町店に薬ヒグチ&ファーマライズの渡邊哲夫取締役を訪ねた。

「実は私たちもかつて自前でコンビニ的な商材を置く試みをしたんです。でも全然うまくいかなかった。売れる商品、システムづくり、鮮度管理など、コンビニさんは一歩も二歩も先をいっていました」

だが、提携後もオープンまでの道のりは遠く、試行錯誤の連続で、「ケンカ」も絶えなかったと渡邊氏は当時を振り返って笑う。

「もう、コンビニとドラッグストアではカルチャーが違うんですよね。我々は少しでも長くお客様に店内にいてもらうために、売り場を工夫します。平均して15分くらいはいてほしい。でもコンビニさんは、さっさと店内を見て買い物を済ませるお客様を想定している。我々は関連商品をたくさん置きたいけど、コンビニではいわゆる死に筋商品は徹底して排除します。ドラッグストアの特徴の一つ、手書きポップも、付ける、付けないで相当揉めましたね。結局最後は、手書きのポップは譲ってくれましたけど(笑)。でも、お互い仕事に情熱を持っているからこそ熱くなるわけで、一緒に店舗をつくるのはとても楽しかったですよ」

ドラッグストアの客層は約6割が女性であり、コンビニは約6割が男性である。両者が一体化することで、それまでコンビニやドラッグストアを敬遠していた層も利用するようになった。来客数は3倍になり、売り上げはおよそ2倍になったという。周囲のコンビニを閉店に追いやる「コンビニキラー」に成長した店舗も少なくない。今後は調剤も予定していると語る渡邊氏は「ドラッグストア+コンビニは、最強の業態」と強調する。

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(左)東京・神田淡路町にあるファミマと薬ヒグチの合体店舗。周囲からコンビニが姿を消した。
(右)薬ヒグチ&ファーマライズ取締役 渡邊哲夫氏

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「調剤を待ちながらイートインコーナーで昼食をとれるんです。商店、銀行、市役所、コーヒーショップ、ドーナツショップ、書店、そのすべてがここにあるって、すごいことですよ」

■見えてきたセブン。どう追いつくか

様々な戦略を繰り出すファミマだが、残る課題はセブンとの日販14万円の差をどう埋めるかだ。

今年4月、セブンでは、43年間にわたり同社を率いてきた鈴木敏文氏が電撃引退をした。カリスマ指導者が去った後のセブンの成長力は未知数だが、自身がセブン出身の本多氏は、「あそこの組織力はそう簡単に崩れない」と見ている。「鈴木氏の哲学・思想が、本部のみならず各店舗のオーナーにまで浸透しているから」だという。

中食改革を担当する足立氏にも、「ライバルはやはりセブンか」と振ってみたが、「あそこの客はまだ取れない」と苦笑された。資本力もインフラもマインドもこれからの部分がある。

だが勝機はあると2人は語る。彼らがやっていないことを仕掛け続けるのである。これまで誰も思ってもみなかったが、コンビニにそれがあると、確かに便利でありがたい。そんなアイデアを形にしていくことである。

「これまではどのコンビニチェーンも、セブンの背中を追っていればよかった。でも同質化競争では絶対にトップランナーには勝てません。私たちの勝負の相手は、お客様なんです」(足立氏)

「勝つためのアイデアはね、たくさんあるんです。この中に」と、本多氏は物静かに笑いながら自らの頭を指す。

「ファミマに来て、おにぎりや弁当を食べてもらい、『美味しいね』とニコッとしてもらう。ここに来れば何か新しい驚きや喜びがある。そういう笑顔が見られれば、それが一番です」

(文=三浦愛美 撮影=原 貴彦、奥谷 仁(薬ヒグチ))