チェルシーが武藤を選んだ理由とは何か。試合のたびに繰り返した「あの呪文」がキーになる
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▼眼鏡にはかなった
FC東京のFW武藤嘉紀にチェルシーから獲得オファーが届いていることがあきらかになった。
実際に移籍するかしないかは本人の決断次第だが、日本のサッカーファンとしては、「果たして武藤がプレミアリーグで通用するかしないか？」が気になるところだろう。1年目の選手の常として他クラブへとローン移籍することになったとしても、出場する試合はそうレベルの落ちるものにはならないはず。いずれにしても厳しいフィールドが待っている。そこに彼は合致しうるのだろうか？
日本人選手は、ボールが入らないと仕事ができないとみなされがちだ。ボールテクニックに秀でていても、それを対人接触や戦術的な動きがあるなかで駆使できるか否かは別の話。サーカスが得意でも戦えない選手は、残念ながら欧州メガクラブ強化担当者の眼鏡にはかなわない。武藤はその審査に合格した。
武藤のコメントをつぶさに追っている方ならお気づきだろうが、口癖のように「攻守にハードワークをする」という言葉が出てくる。これが現代サッカーに於ける生命線であり、チェルシーが多くのJリーガーのなかから武藤を選んだ理由でもある。
▼求められる技術以前の基本性能と意識
ドイツのブンデスリーガ、イングランドのプレミアリーグ、そして昨年のW杯を振り返れば、ピッチの端と端を行ったり来たりする運動量を思い出すはずだ。つまりせわしなく攻守の切り替えがある試合で、ゲーゲンプレスのような移動についていく、いや、それをリードできるようでなければ、まず戦う資格を得られない。
これは卓越したドリブルやシュートを持っているかという以前の基本性能だ。
バヒド・ハリルホジッチ日本代表監督が就任初の国際Aマッチ2試合を終えたあと、解散してクラブへと戻る選手たちに「日本の選手はフィジカルの強さが足りないからクラブで鍛えておくように」と命じた事実を思い出そう。ハリルホジッチ監督自体、ボールを奪ってからの素早い攻めを志向しているが、そうした攻守の切り替え、あるいは球際の攻防に必要なのは、体の使い方の巧さを含めた強さだ。日本人が総じてボール扱いに関して高いレベルにあることはウズベキスタンと比較すれば容易にわかる。それを試合で活かすためにも強さが必要なのだ。
ハリルホジッチ監督が現在のトレンド、または欧州基準を正確に捉えているとするなら、チェルシーの強化担当者と視線はそう大きくはちがわないはずだ。つまり、現時点ではやや不足しているかもしれないが、強さやハードワークを志向するプレーが身についている点で、欧州のサッカー人は武藤に可能性を見出しているのではないだろうか。
元々の体が強ければ、それをプレーに活かす意識を鍛えればいいし、もともとハードワークが大切だと理解していれば、体を鍛えさせればいい。その採点表に照らし合わせるなら、いまの武藤はハードワークの大切さをわかっていて、体もある程度できている。フィジカルを鍛えれば、あともう少しで国際クラスのプレーヤーに到達する可能性がある。
そこで、チェルシーだ。左ウイングにアザールがいる以上、加入してすぐに先発で出場できるという保証はない。だが、1年間、欧州の戦場で揉まれ、実戦でフィジカルを鍛え上げたとすればどうだろうか？
フィジカルだけでなく、現時点でも目を見張るものがある突破やシュートもさらに向上するのではないだろうか？
メガクラブの常として、ベンチ外の最後の選手にいたるまで最高のメンバーを揃えておくチームづくりのプランがあるのだとすれば、チェルシーで飼い殺しになってしまうかもしれない。しかしそれは同時に、武藤をその列に参じるべき資格がある選手だとみなしていることの裏返しでもある。伸びしろも加味すれば、チェルシーで競争に割って入るだけの資質は備わっている。
取材のたびに何度でも繰り返す呪文のようだった「攻守にハードワークをする」こと。その浸透した意識が、武藤を欧州へと誘うかのように映る。
後藤勝
サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン『トーキョーワッショイ！プレミアム』を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』（カンゼン刊）がある。
