『世界の廃墟』(監修・解説佐藤健寿/飛鳥新社)

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ともかくカッコイイのである。
表紙の廃墟写真は「ブルガリア共産党ホール」。
共産党の集会所であったが“ソ連の衰退とともに共産党政権が崩壊するとたった7年でこの建物は廃棄された”。
いまリメイク版『未知との遭遇』が作られるのなら、こんなふうにしてほしいと切望するほどの未知の2乗未知な感じ。
世界25カ所の廃墟写真が集結した。
『世界の廃墟』、ひさびさの絶品廃墟写真集である。
開くと、出てくる出てくる絶景かな絶景かな驚愕の風景の連続かな連続かな。

・ワンダーランド(中国)――トウモロコシ畑の中にそびえる、不思議の国のシンデレラ城
煙る空、草原廃墟のなかの灰色シンデレラ城。
絶望したティム・バートンが実写でシンデレラを作ったら、こうなるんじゃないか。

・レッド・サンズ要塞(イギリス)――謎の独立国家が領土を主張する、無人のトーチカ群
海の上に立つ四本足の錆だらけ要塞。“対空機関砲を備えた6つの哨戒塔と、中央の監視塔が橋で結ばれた対空要塞であった”。
しびれる。

・コールマンスコップ(ナミビア)――ダイヤの砂時計に埋もれた、忘れられた街
砂に埋もれたいくつもの歪んだドアは、シュールリアリズムの絵画にしか見えない。
これが写真なのか。というか実在するのか!

・第309航空整備再生場(アメリカ)――アリゾナの大地に眠る、空飛ぶ鋼鉄の塊
一面の廃戦闘機。“総面積11平方キロメートルに及ぶ広大な敷地に、約4400を超える廃飛行機が眠っている”。
ダンジョンで権謀術数が繰り広げられる某ファンタジー小説のラストシーンはここで。

・ジーゲル駅(ベルギー)――ずさんな都市計画で生まれた線路なき地下鉄駅
幽霊駅である。めちゃくちゃかっこいいパーティー会場になると思うのだが、列車がないから行くの大変か。

・ディスコ・インフェルノ(オーストリア)――壊れた壁から差し込む光を乱反射するミラー・ボール
崩れ落ちたディスコ。天井から吊るされている潰れた鉄球、いや黒く煤けたミラーボールだ。
2000人を収容する大型の人気クラブだったが、原因不明の出火により全焼、いまや廃墟に。

日本の廃墟は、2カ所載っている。
毒ガス工場の島だったのが、いまやウサギの楽園になっている大久野島。
そして、もうひとつは、もちろん軍艦島(端島)である。
見開き2ページの大きな写真と、サブの写真。そして簡潔で最適な解説。
廃墟になった背景を知ると都市のもつ創造と崩壊のダイナミズムに目眩がしてくる。
監修・解説は、X51.ORGの佐藤健寿。
妄想の力でいくらでも膨らむ写真集。じわじわと驚け。(米光一成)