ソラシド・本坊が明かす、売れていく同期への羨望と焦燥

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 「芸人報道」「アメトーーク!」などで自身のアルバイト(主に過酷な肉体労働)のエピソードを語り、話題となったソラシド・本坊元児。そんな本坊さんの壮絶なバイトの日々が“自伝的小説”として書籍化された。
 タイトルは『プロレタリア芸人』(扶桑社/刊)だ。
 生い立ちからはじまり、大阪時代、上京してからの壮絶なバイト(肉体労働)の日々、お金がなく同期の芸人から借金をすることも。そして売れてゆく仲間たちに対する羨望と焦り。「テレビ出演回数よりギックリ腰の回数が多い」という“崖っぷち”の本坊さんの、魂の叫びがつまった一冊。ブレイクできない芸人の苦悩と日常…その焦燥感と絶望感が、小気味の良い文体とともにつづられている。

 今回、新刊JPは本坊さんにインタビューを行い、『プロレタリア芸人』についてお話をうかがった。その後編をお伝えする。
(インタビュー・構成:金井元貴)

■“ソラシド・本坊元児”、芸人としての苦悩を語る

――まったくお金がなく公共料金の支払いや借金の返済がままならないのに、なぜか沖縄の伝統芸能であるエイサーの団体への加入のためにお金を支払ってしまうエピソードは、読んでいて驚きました。

本坊:あとで振り返ると、「何やってんねん」って思いますよね。これを読んだお世話になった人がどう納得してくれるのかと。
ただ、あのときは寂しさが勝ってしまったんです。付き合いの深い仲間というと、同期で麒麟の川島とか、後輩のムーディー勝山とか、ネゴシックスとか、売れているやつらばかりで、自分自身しんどくて。無意識に自分の居場所を探していたのかもしれません。

――やはり芸人として、仲の良い芸人が売れていくということに羨望や嫉妬を覚えていたのですか?

本坊:それはあったと思います。わざと距離を置いたりして。

――その後、2013年の終わりから2014年のはじめにかけて、一時期テレビにも出演されていて、ブレイクするのではないかと言われていました。

本坊:正直、僕もブレイクするのではないかと思っていましたよ。それまでほとんど注目されたことがなくて、ネタも、トークも、ギャグも15年間とりあえずやってきたところを、先輩たちが引き上げてくれた感じで。一度外に出てみないか、と。ウェブのニュースでも「2014年のブレイク芸人」として取り上げていただいたのですが、そのニュースのカテゴリが「事故」になっていて、どんな扱いやと(笑)そのときは笑い話にしていたんですが、心の奥では本当に一生で一番大事な一年になるかもしれないと思っていましたね。
ただ、結局1月以降はテレビに出る機会がほとんどなくて、年末年始に撮った4本だけ。BSの番組ではずっと使っていただいたのですが、それ以外はまったくといっていいほどなくて。後々考えたら、番組の企画の中でアルバイト芸人を呼ぶかどうかって、年に一回あるかないかくらいですよね。バイトで面白いことをしているからロケに行かそうとか、ないじゃないですか。自分としてはバイトをしている場合じゃなかったと、焦りましたね。

――ただ、このように本を出版もされて、また本坊さんに対する注目が集まると思います。

本坊:そうなればいいのですが、結果として、この本が僕にとっての最高潮なんじゃないかと思うところもあります。

――これが最高潮だとこれから下がる一方じゃないですか!

本坊:これで本が売れて、アルバイトを辞めたいです。でも、バイトはしないとあかんのです。新しいエピソードが生まれないですから。今は腰を痛めていて休んでいるのですが、あっと言う間に1ヶ月が経っていたので不安です。

――本坊さんの中で、「芸人」という職業に対する執着心はどのくらいあるのですか?

本坊:かなりあります。そうでなければ、もうやめています。大工一本でいったほうが食べられますから。

――お金の話でいえばそうですよね。

本坊:大工一本ならば月に50万円はもらえます。建設現場でも職人になればそのくらいはもらえます。みんな車で現場に来たりしますし、すごいですよ。

――それでも芸人を続ける。

本坊:そうです。

――「ソラシド・本坊」として、目標や野望というのはありますか?

本坊:やっぱりテレビですよね。一緒にbaseよしもとでやっていたメンバーたちと一緒に番組がしたい。

――同期の麒麟やアジアン、インディーズ仲間の笑い飯、千鳥、ヘッドライトといったメンバーと。

本坊:大阪時代に一緒にやっていた人たちと。それができたら一番幸せです。

――本坊さんの芸人仲間皆さん、この本についてツイッターでもすごく告知していましたし、本坊さんが愛されていることを感じました。

本坊:「ちょっとでも本坊のためになったら」というのをめっちゃ感じます。本当にありがたいです。

■「プロレタリア芸人」でもし莫大な印税を手にしたら?

――本書の一番の読みどころはやはりオチの部分だと思います。この部分は完全な創作になりますが、まさか本坊さんが…という感じで印象深い終わり方でした。

本坊:大阪時代があって、東京にやってきて、アルバイトをはじめて、一時期注目をされて…という話の流れがずっとあって、そのまま皆に感謝の気持ちを持って芸人の仕事を続けるという終わり方は面白くないと思ったんです。

――芸人の書いた「自伝的小説」としてその終わり方はありえない、と。

本坊:最後の部分は未来の話になるので、そこで「芸人として成功しました!」というのは面白くない。個人的には「フフン」と笑えるかもしれませんけどね。
それにちょうど僕らはレギュラーで出る舞台がなくて、本当にやばい状態なんです。そのやばい状態を突き詰めて考えていったときに、こういう風な未来が待ち受けているかもしれないというイメージを書きました。

――この部分、書いていてキツくなかったですか?

本坊:僕のファンが何人いるか分からないですけれど、応援してくれている人には申し訳ない終わり方だという気持ちもあります。

――では最後に、この本が100万部売れて、莫大な印税が入ったら何に使いたいですか?

本坊:まずアルバイトは辞めます。そして免許をとって、車を買おうと思います。免許を持っていないんですよ。あまり興味もなかったし、ドン臭いので、自動車運転したら事故を起こしそうなので。ただ、せっかく車が乗れる時代に生まれてきて、乗らないまま死んだら、あの世でひいひいおじいちゃんに「お前、アホやな! 俺の時代は車なんてなかった。乗らんてお前は何をしてるんだ」と言われそうなので。車、買いますよ。

――買うならばやはり高級車ですか?

本坊:いえ、ミニクーパーを買います。『ミニミニ大作戦』という映画で、めっちゃ綺麗な女性がめっちゃ小さい車に乗るシーンがあって、それがとんでもなく恰好いいんです。そのときから、僕も小さい車に乗ろうと。

――なるほど。他に何か印税の使い道として考えているものは?

本坊:あります。資産運用はしないといけません。印税も一生入り続けるわけではないので、お金が入ったら駐車場をつくるとかして、毎月安定した収入を得ないといけません。そうでもないと結婚もできません。
吉本の芸人は完全歩合ですから、レギュラー番組もない、ゲストでちょいちょい呼ばれるだけだと「なんやねん、その収入は」となります。でも、パーキングの収入が月になんぼありますとなると、それでやりくりするという道ができるので、本が売れたら、そういう資産運用はやりますよ。

(了)

■本坊元児さんプロフィール
1978年、愛媛県松山市出身。2001年1月に水口靖一郎とお笑いコンビ「ソラシド」を結成。ボケ担当。立ち位置は左。大阪NSC20期生。Twitter:@honbouganji

■肉体労働芸人、ソラシド・本坊を追った実録ムービー「本坊元児と申します」
2月3日よりYNNにて配信中! http://ynn.jp/