福岡近郊路線として通勤通学需要が多い篠栗線。同線には通勤客向けの特急「かいおう」も走る(2013年10月、恵 知仁撮影)。

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JR九州の路線で黒字なのは篠栗線だけ、という報道がありました。福岡市や北九州市といった大都市を結ぶ鹿児島本線は赤字とのこと。しかしそうした路線の収益性は「分け方」によって大きく変わり、かつてそれによって廃止の危機にさらされた路線もありました。

赤字額が多いのは赤字ローカル線ではなく

 西日本新聞は2015年2月19日、加算運賃が設定され状況が特殊な宮崎空港線を除いたJR九州の在来線20線区のうち、黒字なのは篠栗線だけであると伝えました。篠栗線は筑豊地域と福岡市を結ぶ、桂川〜吉塚間25.1kmの路線です。

 福岡市や北九州市といった大都市を沿線に抱え、乗客数も多い鹿児島本線は、黒字路線に挙げられていません。旅客営業している区間が門司港駅(北九州市門司区)〜八代駅(熊本県八代市)、川内駅(鹿児島県薩摩川内市)〜鹿児島駅(鹿児島市)の合計281.6kmにもなり、需要の多くない区間も抱えていることなどが理由に考えられています。

 全国各地の赤字ローカル線が問題になった、国鉄時代末期。1979(昭和54)年度のデータによると当時、廃止が予定されていたローカル線77線区の赤字額をすべて足すと、660億円でした。

 ただ東京〜神戸間を名古屋、大阪経由で結び、沿線にそうした大都市をいくつも抱える大幹線、東海道本線も赤字でした。その額は1300億円。実は赤字ローカル線77線区の合計より、東海道本線の赤字のほうが倍近く多くなっていました。ごく単純に考えれば、ローカル線ではなく東海道本線を廃止したほうが、国鉄の赤字額が減る状態だったのです。

 線路が長く、状況の異なる区間を抱えている路線は、鹿児島本線やかつての東海道本線のように、大都市を走る幹線ながら全体では収益性が振るわない結果になることがあります。

鹿児島本線の黒字化は簡単?

 鹿児島本線を黒字にする方法は、ある意味簡単でしょう。鹿児島本線を北九州・福岡大都市圏の門司港〜鳥栖、久留米、荒尾間だけにしてしまえばよいのです。その場合「鹿児島本線」を名乗るのはどうか、という問題はありますが。

 言葉遊びに近い話ですけれども、実際にこうした路線の名前によって明暗が分かれたこともあります。

 NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』の舞台になった岩手県の三陸鉄道。その久慈〜普代間26.0kmはかつて、国鉄の久慈線でした。そしてこの久慈線は、青森県の八戸駅と岩手県の久慈駅を結ぶ国鉄八戸線を普代駅まで延長した形で、見かけ上は1本の路線ながら、久慈駅を境に八戸駅側は八戸線、普代駅側は久慈線という2路線に分かれた形になっていました。

 この久慈駅を境に異なっていた路線名が、明暗を分けました。八戸線区間は問題なかったのですが、久慈線区間は輸送量が少なく1981(昭和56)年、廃止対象にされてしまったのです。しかも仮に八戸〜普代間のすべてが八戸線で、「久慈線」が存在しなければ、需要の多かった八戸線区間の影響で八戸〜普代間の全線で廃止基準をクリアできる状況。つまり久慈〜普代間を久慈線ではなく八戸線の延長にしておけば、廃止対象にならなかった可能性もありました。

 このように路線の収益状況は区間、分け方によって異なる形を見せるものなのです。ちなみに廃止対象にされた国鉄久慈線は1984(昭和59)年に、第3セクター鉄道の三陸鉄道へ引き継がれました。