「外事警察」DVD ブルーレイ/アミューズソフトエンタテインメント
古沢良太の代表作のひとつ

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杏と長谷川博己演じる、恋愛不適合者の男女が織りなすドラマ「デート〜恋とはどんなものかしら〜」(月曜夜9時〜CX)。
2月2日放送の第3話では、杏演じる依子と長谷川演じる巧が早くもひどい別れ方をした後、婚活パーティーで再会。なかなか結婚相手が見つからない依子があやしい心理カウンセラー(岡田浩暉)にホテルに連れ込まれてしまい、それを巧が救い出すというストーリー。
古沢良太の毒のある台詞も冴え、杏と長谷川の演技も脚本の面白さを的確に体現していて、クオリティーは群を抜いて高いものの、視聴率は11.0%(関東地区 ビデオリサーチ調べ)と少し下がってしまった。
考えられる要因としては、第2話で主人公の杏が、素顔がわからないほどのケモノメイクでほぼ1話分通していたことくらいである。
第3話での杏は、眼帯をしていた。眼帯ならその筋のフェチもいるので、視聴者も幾人か戻ってきたのではないだろうか。

「デート」第3話は、眼帯フェチだけのものではない。様々なヒトが集う婚活パーティーのエピソードだけに、フェチ心をくすぐる人物が次々登場した。熟女の会社経営者(杉本彩)、SM趣味の女性(三倉茉奈)、漫画家志望のオタク女子(吉谷彩子)、婚活に参加した人物ではないが、巧いわく「胡散臭い職業の代表例」である、気取った心理カウンセラー(岡田浩暉)などなど、彼らとレギュラー陣のやりとりが楽しい。
巧と心理カウンセラーのマムシドリンクを巡る会話も大いに笑ったし、巧の内弁慶キャラがかわいい(肩をすくめ口をすぼめてぽそぽそしゃべる長谷川の動きが秘孔を突きまくる)と思う女性も多いだろう。何より、背が低くてショートカットのオタク女子と長身の巧が向かい合う場面は、絵的にもフェチ心をそそるものだった。
ふたりは、彼女は漫画になったら巧を養えるかもと盛り上がったのもつかの間、その絵の下手さに巧がぶち切れる。今どきこんな下手な絵で妙なセンスの漫画を描く子がいるのだろうかと
いうバカバカしさも逆にいい。
余談だが、巧に関してよく出て来る「寄生」という単語は、古沢が映画「寄生獣」の脚本を担当していることと重ねてしまうが、巧の好きな少女漫画家は、長谷川の出演作である「海月姫」の東村アキコではなく、羽海野チカなのであった。

さて、「デート」は恋愛抜きの結婚の可能性を考える話で、前にも書いたが、その割には、かなり恋愛ふうなのである。
「好きじゃない」と言いながら、依子と巧は、妙に意識し合っている。中盤、婚活がうまくいかず、ひとりぽっちになっている依子のところに、シャンパンをもってくる巧のシーンや、ラスト、ホテルから帰るふたりが、婚活パーティーでもらった連絡交換カードを互いの分を預かり捨てるシーン。このもどかしさこそ恋愛でなくて、何なのか? と思うが、どうだろう?意識し合いながら、反発し続けるふたりの関係性は、岡田惠和脚本の「最後から二番目の恋」シリーズの小泉今日子と中井貴一演じるふたりに近いし、古いところでいうと、中園ミホ脚本の「やまとなでしこ」の松嶋菜々子と堤真一演じるふたりにも近く、ある種の恋愛ドラマの王道といえる。
「デート」の面白さは、今までの恋愛ドラマの定形を少し角度を変えて書いているところ。恋愛不適合者たちという登場人物によって、パターン化を回避することができる。
例えば、2話の巧の台詞。
「藪下依子を見くびるなと言ってるんだよ! 彼女の頭の中は数式と理論で出来てるんだ、
恋愛に興味なんかないし、プロポーズごときで感動するような低次元の女じゃない!」
「見くびるな」「低次元な女じゃない」なんて、依子に対する最高の賛辞ではないか。
そして、3話の巧とオタク女子まゆとのやりとり。漫画を巧に見せることが、「……裸を見られるみたいで、死ぬほど恥ずかしいけど……」とまゆが言うと、巧はゴクリと唾を飲む込む。
「でも、谷口さんなら、いいかも……」と言われて、「……見たい」と呟く巧の喋り方が、そこはかとなくエロい。
巧の幼なじみ宗太郎(松尾論)が、ハードロックな女とのベッドでのやりとりを、ギタープレーに例えるのはベタベタだけど、こういう何かに例えることが創作の面白さのひとつだし、2話で巧が高等遊民としての生き方を正当化するために言った「人間にはな、いろんな生き方があっていいんだ!」という台詞をまんま恋愛ドラマに当てはめていいのではないだろうか。
「恋愛ドラマにはな、いろんな表現があっていいんだ!」というふうに。かつて、古沢良太は「外事警察」で、渡部篤郎と石田ゆり子演じる、外事警察と協力者とのスリリングな関係を、女が男のヒゲを剃るという場面で描いたことがあり、男が女の刃物に身を委ねることで様々な感情を沸き立たせた。
「デート」でも古沢は、メインのふたりの恋愛に近い感情新たな表現を模索すると同時に、恋愛以外の感情も描いていく。従来の恋愛ドラマの表現は、鷲尾(中島裕翔)がひとりで担って
いる。3話では、取引先の社長の姪と縁談話が持ち上がり、依子への思いに葛藤した。
それにしても、ジャニーズがかませ犬キャラ(以前、東幹久が得意としていた)でいいの? と気になるが、この役割は、好感度も演技力も必要な上に、あえてそれを抑制するという高等テ
クを求められるので頑張って頂きたい。

恋愛ドラマじゃないようで、恋愛ドラマ。もし視聴者が戸惑っているとしたら、この捻くれたところにも原因はあるかもしれない。でもこの捻くれ方が、古沢良太が描くラブストーリーの意味であるだろうし、ストーリー運びのねじれ方が、巧の性格に限りなく近いのも、作品としての完成度の高さに繋がっている。2月9日放送の4話では、巧がなぜ高等遊民になったのかその謎に迫るようだ。もっとも巧は
案外素直なので、どちらかというと依子のほうが謎。やや病的なほど四角四面な思考や行動様式をもった彼女が変化するのかしないのか気になってきた。
(木俣冬)