ケビン・コスナー主演、映画『ドラフト・デイ』。実際のNFLドラフト会議中に撮影も行うなど、ドキュメンタリースタイルの撮影スタイルが組まれているのも見どころのひとつ。

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あの男が、スポーツ映画に帰ってきた。

『フィールド・オブ・ドリームス』でトウモロコシ畑に野球場を作り、
『さよならゲーム』ではマイナーリーグで苦悩するベテラン捕手を、
『ティン・カップ』では落ち目のプロゴルファーを、
『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』ではメジャーのベテランスター選手を演じた男。

ケビン・コスナーほど、スポーツ映画であたり役を演じてきた俳優を他に知らない。

一般的には『ボディガード』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』『ウォーターワールド』などの大作映画の印象が強いだろうが、私にとって彼は、稀代のスポーツ映画俳優だ。

そんなケビン・コスナーが新たに主演を務めたスポーツ映画が『ドラフト・デイ』。アメリカ最大のスポーツイベント「スーパーボウル」の開催にあわせるように、先週から日本でも公開されている。

ケビン・コスナーの役どころは、NFLに所属する弱小チームの再建を託されたゼネラルマネージャー(GM)だ。

選手獲得の総責任者であるGMが、チームのオーナーや監督との間で板挟みにあい、他チームのGMと牽制し合い・騙し合い、ドラフト候補選手からの売り込み電話に対応し、ファンからの厳しい視線にさらされる。気持ちに余裕がないからこそ、家族の問題も浮き彫りとなる。その苦悩の果てに、ドラフトでどんな決断を下すのか……ドラフトが始まる12時間前から、刻一刻と状況が変化する中での心理戦、情報戦が見どころだ。

この映画に関して、2011年にヒットした映画『マネーボール』のアメフト版、と表現される場合がある。まあ、どちらもチームのGMが主人公だし、弱小チームをどう立て直すか、という部分ではあながち間違いではない。

ただ大きく違うのは、『ドラフト・デイ』はGMという職業を描きながらも、真にテーマとなっているのはタイトル通り「ドラフト制度そのもの」であるということだ。

だからこそ、たとえアメフトのルールがわからなくても、この『ドラフト・デイ』は楽しむことができる。いや、競技は違えど、プロ野球でドラフト制度に免疫のある日本のスポーツファンこそ楽しめるのではないだろうか。

ここで少しだけ、日本のドラフトの話をしたい。
野球雑誌において、もっとも売上げが見込める鉄板のテーマは「日本シリーズ」や「オールスター」などではなく、「プロ野球ドラフト会議」だと言われている。

毎年秋に行われるプロ野球ドラフト会議の前には、各野球雑誌で特別編集号を刊行。試合を中継しなくなって久しいテレビ局もドラフト会議だけはいまだに生中継を欠かさない。野球の試合はそっちのけで、ドラフト会議だけ好き、という人も大勢いる。

まだ前途有望な若者と、大金を投じる球団の“これから”が決まる瞬間。
そこには必ずドラマが生まれる。

選ばれる側の希望と、選ぶ側の思惑が交錯し、その背後にいる家族、球団、ファンの期待や場合によってはやっかみまで絡み合う。新たなスター選手の加入によって、地位を脅かされる既存の選手たちのため息も聞こえてきそうだ。

だからこそ、日本のプロ野球で「ドラフト会議」がもっとも魅力的なコンテンツになり得るのだ。

閑話休題。
「アメリカ最大のスポーツイベント」といわれるNFLのスーパーボウル。そのスーパーボウルへと続く道の第一歩にあたるのが「NFLドラフト」だ。

日本のドラフト会議以上に一大イベントとして認知され、そこにかかわる人の分だけドラマが生まれる。これが盛り上がらないわけがない。

ましてやNFLドラフトの場合、前年の成績が悪いチームから選手指名ができる「完全ウェーバー制」であるため、スター選手の獲得によってチーム戦力が一変する場合もある。

また、どうしても欲しい選手がいた場合に、他チームの指名順位と、自チームの来年以降の指名順位を交換することができる「指名権トレード」など、NFL独自のドラフトルールが、戦略性やドラマ性をさらに高めてくれる(実際、劇中では、「今年の全体1位」と「来年以降3年分の1巡目指名」を交換する、という駆け引きが行われる)。

そんな状況において、「誰を指名するのか」という重責を担う最高責任者が各チームのGMだ。

チーム、家族、ファンの板挟みにあいながら、プレッシャーに苛まれながら、重大な決断をくだす役どころを、ケビン・コスナーがどう演じるのか。

彼の発するこんな台詞とともに楽しんでもらいたい。
「今日は楽しめ。ドラフトは人生で一度だ」
(オグマナオト)