ドラマ版「ハンニバル」が心底恐ろしいので、ダークヒーローベスト10を選んでみた

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暗い事件、嫌なニュース、きな臭い世相。
落ち込んでしまうようなときは、いっそのこともっとダークな世界を描いた虚構に浸ることで、気分反転して元気を出そうじゃないか。ってことで、凶悪なダークヒーロー10人を選んでみよう。

■ハンニバル・レクター『ハンニバル』

映画『羊たちの沈黙』 (1991年・監督ジョナサン・デミ)の大ヒットで世界的なダークヒーローとして名を馳せたハンニバル・レクター博士。精神科医でありながら、人肉もぐもぐシリアルキラーだ。
映画のレクター博士もたしかに恐ろしいが、主人公クラリスを襲うわけではない。他のシリアルキラー逮捕に協力したりして正義の味方っぽさすら醸しだす(いや、ぜんぜん正義の味方じゃないけど)。
もっと恐ろしいのはドラマ版『ハンニバル』 (2013年)のレクター博士。牢獄に入れられる前の若いレクターである。その正体はまだ誰にも気づかれていない。人肉もぐもぐシーンも、豪華な美食のように映しだされる(のでよけいに怖い)。
ドラマ版のもうひとりの主人公は、共感能力で犯罪者の心理と同調する犯罪プロファイラーのウィル・グレアム。ウィルとレクター博士は、連続殺人犯を一緒に追い詰めていく。同時にレクター博士はウィルの精神を分析し支配下に置こうとじわりじわりと魔の手を伸ばす。ウィルに共感して観ている者も精神的にヤバイ状態に引きずり込まれそうになるダークすぎるヒーローだ。
レクター博士を演じるのは「北欧の至宝」と呼ばれるマッツ・ミケルセン、ウィル・グレアムを演じるのはバーバリーのモデルにもなった英国俳優ヒュー・ダンシー。美形ふたりが精神的に絡み合いながら深く沈んでいく展開なので、アメリカでは(いわゆるボーイズラブ的な)ファンフィクションが多数作られているそうだ。それも、こわいな。
ドラマ版『ハンニバル』は、スターチャンネル(BS10ch)で、シーズン1が2/7(土)&2/8(日)全13話を一挙無料放送。
シーズン2は、2月22日(日)よる9:00から日本初独占放送スタート。必見。

■ジョーカー『ダークナイト』

アメリカン・コミックス『バットマン』が原作の映画『ダークナイト』(2008年・監督クリストファー・ノーラン)に登場するジョーカーの凶悪さったらないよね。
もちろん主役はバッドマンで、敵役としてジョーカーが出てくるのだが、『ダークナイト』を観終わると気持ち的には、ジョーカー主役だったでしょってくらいの存在感。
「マジックはどうだ? この鉛筆を消そう」と言い、机の上に鉛筆を立て、男の頭を鷲掴みにして机にドン! 「イッツマージィック!」という有名なシーンは序の口。
ヒース・レジャー演じるジョーカーは、理由も事情も目的もなく純粋な悪として存在する。トラウマがあって……なんて甘い展開を拒絶するシーンのイカレっぷり。
世界を混乱に陥れるピュアなダークヒーローだ。
正義の味方であるはずのバットマンも壮大な言い訳をしながら悪に手を染めてしまうという顛末(当時のアメリカがやってしまった戦争に対する適当な言い訳のようにも解釈できる!)もショッキングだ。

■ジグソウ『ソウ』

シチュエーション・スリラー映画の最高峰『ソウ』(2004年・監督ジェームズ・ワン)に登場する殺人鬼。
目覚めるとまんなかに死体。脚には鎖。鎖の反対側にもうひとりの男。見つけたテープからジグゾウのメッセージが……。
「ゲーム」と称した殺人儀式で人間をもてあそぶジグゾウ。残酷さが、ジグソウの美学から導き出されているということが怖い。
『ソウ』第一作目を映画館で観たあと、コーヒーを飲もうとしたら、顎がガクガク震えて吹き出してしまった。映画を観ている間、ずっと奥歯をきつく噛み締めていて、顎が変になってしまってたのだ。

■デビルマン『デビルマン』

漫画界のダークヒーローといえば、デビルマンだろう。映画版じゃなくて、永井豪の漫画版。
悪魔の力と人間の心を持つデビルマンが悪魔達と戦うなかで、本当の悪とは何かということに迫っていく展開は、今読んでも鬼気迫る。
悪魔と合体するゴーゴーシーン、ジンメンのラスト、美樹ちゃんのあのシーン、「お前たちは人間でありながら悪魔になったんだぞ!」 の咆哮、ああああトラウマシーン連続。今なら全38巻ぐらい続けそうな内容をぎゅっと全5巻に濃縮した密度も凄い。
映画版は、おそらく漫画版のあまりのダークヒーローっぷりに恐れをなしてコメディにしたんだと思います「うわああ、おれデーモンになっちゃったよーう」 。

■ブラック・ジャック『ブラック・ジャック』

漫画界のダークヒーローといえば、ブラック・ジャックも外せない。手塚治虫が描く天才外科医。だけど無免許。黒いマント、全身の傷跡、つぎはぎの皮膚、法外な治療費の請求。悪というよりも独自の美学をもつアウトローで、弱者からはお金を取らない、本当に生きようとする者には優しかったりする。奇形嚢種に入っていた臓器を使って作られた少女ピノコが相棒(本人は「奥たん」だと主張)である。これだけ独特な設定で、短編連作形式で、どれを読んでも面白いというのはちょっと他にない。個人的ベスト3は、動物が縮む奇病の「ちぢむ!!」 指が使えない少年がそろばん大会に出場する「そろばんの天才」 落語家を目指す水頭症の少年を描く「水頭症」。

■ウォルター・ホワイト『ブレイキング・バット』

ケーブルチャンネルAMCで2008年から放送されたテレビドラマ。
さえない化学の教師ウォルター・ホワイトが、肺がんであると診断されてから暴走。教え子と組んでドラックディーラーになり、ドラッグの元締めと対立し、あれよあれよという間にどんどんダークなヒーローになっていく。化学知識を使った爆発で、背中ドン(爆弾を仕掛けて背後で大爆発するも気にもせずに歩き去るダークヒーローがやる決めシーン)も華麗に決める。ウォルター・ホワイト演じるブライアン・クランストンはエミー賞・ベスト男優賞を4度連続獲得。

■パウル&ペーター『ファニーゲーム』

後味の悪い映画を撮らせると世界一のミヒャエル・ハネケ監督作品でもっともダークでヒーローは、『ファニーゲーム』(1997年)の二人組パウル&ペーター。休暇を楽しくすごす家族の別荘に乗り込み、お父さんの膝をゴルフクラブで打ち砕き、「明日の朝まで君たちが生きていられるか賭けをしないか?」と言い放つ二人。「ハリウッド映画は暴力を快楽の道具につかっている」というアンチテーゼ、「暴力の意味を再認識してほしい」という監督の意図に貫かれた映画のため、観るとひたすらダークな気持ちになって放り出される(ので、元気のないときには観ないほうがいいです)。ハリウッドリメイク版『ファニーゲーム U.S.A.』(2008年)もある。

■中村主水『必殺仕事人』

日本代表のダークヒーローといえば中村主水。晴らせぬ恨みを金をもらって晴らす闇の稼業を描くテレビドラマ必殺シリーズのメインヒーロー。斬った悪人の数は766人、でも嫁と姑に頭の上がらない婿養子。第2作目『必殺仕置人』から登場した。
必殺シリーズは残酷な殺し方がたくさんあった。
印象に残っているのは、花火師である仕掛の天平(森田健作)の殺し方。点火した花火を飲み込ませて体内で爆発させるのだ。念仏の鉄(山崎努)による「必殺骨はずし」は素手で背骨をへし折るシーンは急にレントゲン撮影になり衝撃的だった。

■ぼくら『悪童日記』

1986年刊行、アゴタ・クリストフの小説『悪童日記』に登場する双子の少年「ぼくら」。第二部の『ふたりの証拠』であかされる名はリュカとクラウス(糸井重里の『MOTHER3』の主人公たちもこの名だ)。盗み、恐喝、殺人未遂、放火などをして生き抜いていくふたりだが、ダークヒーローと呼んでいいのだろうか。
戦時下であり、世界そのものがアウトロー状態。そこで生き延びるためにふたりはダークにならざるを得なかったわけで、それをまったく言い訳もせず、それどころか感情を排した文体で描いているので、『悪童日記』は、単純な善悪を超えたところで読む者の気持ちを揺さぶる。

と、以上でダークヒーローが登場する作品9選。双子とかペアがいるので11人だが、もう1人選びたいところ。うーん、犬神明かルパンかダーク・シュナイダーかアラン・ショアか古美門研介か、うーん選びきれない。ぜひ 「ダークヒーローといえばこれでしょ!」って、ツイッター#ダークヒーロー で、推薦してほしい。(米光一成)

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