一般社団法人日本家族計画協会による調査で、国内の既婚男女におけるセックスレス・カップルの比率が過去最高を記録したと今月発表されました。その割合は、なんと約2組に1組の44.6%。同調査がスタートした2002年より回を追うごとに増えています。さらに、「脱・童貞&処女」した割合が50%を超えるのは、男性は29歳、女性は28歳と、こちらも記録更新中。特に男性の初体験が遅くなっていると指摘されました。

日本人はなぜこんなにセックスしないのか? しかもあらゆる調査で、日本人のセックスは「頻度」だけでなく「満足度」も低いとわかっています。ズバリいうと世界最下位です。となると、少子化も無理からぬことなのか……。

この背景にはさまざまな性の悩みがあります。他人には相談しにくい、それらの悩みに光を当てるべく、日本家族計画協会とコンドームメーカー・JEXのジェクス株式会社が「第3回知っているようで知らない〜性の健康セミナー」を開催しました。

女性の性機能障害には「性欲がわかない」「イケない」もふくまれる

まずは女性専門泌尿器科医・関口由紀先生が女性の「性機能障害」について解説。性機能障害とはスムーズなセックスをさまたげる症状すべてのことで、「濡れない」「挿入が痛い」だけでなく、「性欲がわかない」「イケない」もふくまれます。そのせいでセックスを愉しめない、引いてはセックスしたくない。私って変なのかも……と悩んでいる人たちも、これらが治すことのできる障害だとわかれば、気分が軽くなるのではないでしょうか。

関口先生は、セックスレスの大きな原因となりうるこれらの障害について、女性泌尿器科の分野からアプローチする希有なドクターです。先生のもとを訪れるのは、「痛くて指も入らず、夫とは一度もセックスができていない。でも子どもがほしいので困っている」という30代女性や、「性欲がなく、セックスの後に痛みがある」という40代女性、「10歳年下の夫と月1ペースでセックスしているが、最近性交痛がある」という80代女性など、実に多種多様。問診してセックスライフやこれまでの性経験を訊いたり、ホルモン値をはかったりして、障害の原因を探ります。

ホルモン療法、食生活の改善や骨盤底筋トレーニング

「性的欲求は個人差が大きく、自発的に『したい!』という女性もいますが、日本人に多いのは、パートナーの欲求を受け入れ、それによって自分も満足するという女性たち。性欲には女性ホルモンと男性ホルモンのバランスが大きく影響していますが、最近では食生活にも原因があると指摘されています。私のクリニックでは、ホルモン療法をはじめ、食生活の改善や骨盤底筋トレーニングなど、ひとりひとりにあった指導をします」(関口医師)

食生活ではコーヒー、お茶などカフェインを含む飲料は控えたほうがいいとのこと。また、一部のピルが性欲の低下につながるという指摘もあり、これについては別の種類のピルを処方することで改善されるといいます。

骨盤底筋とは、骨盤の底にはりめぐらされ、尿道・膣・肛門をとり囲んでいる筋肉ですが、ここのトレーニングとは、いわゆる「膣トレ」。オーガズムに達するとこの骨盤底筋が収縮します。裏を返せば、筋肉がたくさんあるとイキやすくなるのです。

女性主導のセックスを勧めるだけで、解決することも多い

「痛みがある人も、ホルモン療法や痛みどめ、潤滑剤で改善できれば、セックスに積極的になれます。でも、性欲も痛みも女性の機能だけに問題があるのではなく、男性側、またはふたりの関係性に原因があることもめずらしくありません。いろんな治療を試してもよくならないので再度話を聞いたところ、厳しい父親のもと常にストレスを受けて育ってきたのが原因だとわかったケースがあります。

夫にED治療薬を飲んでもらったり、挿入にこだわらないセックスを提案したりして、その4か月後に見事、女性が妊娠というケースも。女性主導のセックスを勧めるだけで、解決することも多いですね。当たり前のようですが、長年、男性本位のセックスを受け入れてきた人にとっては目からウロコなのです。自分のペースで、無理のない体位でするだけで、まったくちがったセックスになりますから」(関口医師)

配偶者との関係をよりよくするには、言葉にして伝えるのが何より大事

続いて、泌尿器科医として男性不妊に取り組む岡田弘医師は、セックス以前の問題を指摘します。

「『配偶者とどのような交流を求めているか』という調査では、男女とも『日常的会話』がダントツでした。ほかにも『家庭のことを相談しあう』『感謝やいたわりの言葉』が上位に並びます。つまり、そうしたコミュニケーションが日ごろからなされていないからこそ、求めているのです。配偶者との関係をよりよくするには、言葉にして伝えるのが何より大事だとわかります」(岡田医師)

泌尿器科といえばEDに悩む男性が訪れるところでもありますが、岡田医師はそのことにも疑問を呈します。

バイアグラで勃たせればそれでOKというのは、男性の身勝手さの表れですね。配偶者が何を求めているのかをまったく考えていない。挿入のあるセックスなのか、スキンシップなのか、日常会話なのか……。日本では、EDの治療が薬の処方一択になっていますが、これは不幸な状態です。その前の精神的なつながりが抜け落ちていますよね。残念ながら国内では、EDの男性にカウンセリングをして関係性を見直してもらうところまではいたっていません」(岡田医師)

セックスしない原因がわかってはじめて解決法を考えられる

最後に、日本家族計画協会・北村邦夫理事長の司会で行われたトークセッションでは、セックスレス解消、および少子化対策についてかなり具体的なアドバイスが飛び出しました。

セックスレス・カップルのカウンセリングでは、『ふたりで話しあう』という宿題を出しますが、問題に踏みこむ前に『私はあなたのことを大好きで、とても大事だ』とお互い確認するよう指導しています。そうして初めて、なぜ自分たちはセックスしないのかというのを掘り下げられる。『元カレにレイプされてセックスが怖い』でも『コスプレじゃないと勃たない』でも、原因がわかってはじめて解決法を考えられます」(岡田医師)

「子どもを増やす方法をよく訊かれますが、女性が計画しすぎる傾向を感じます。何歳で結婚して、何歳になったら子どもを産んで……というけれど、妊娠・出産に関してはもうちょっといい加減にならないと、できるものもできないですね。それなりに年齢がいくと思いきって決断しますが、若い女性ほど計画しています。『仕事が忙しいのもわかるけど、そういわずにとりあえずひとり作ってみたら?』とアドバイスします」(関口医師)

10代のころのようにじゃれ合ってみる

「あと、最近の男性はほんとうに自信がないから、ペニスが大きくなったらまずは褒めてあげてください。これはED治療薬が効かない人でも、一発で元気になる方法です。一緒にお風呂に入ってスキンシップをするうちに彼のモノが反応したら、『大きくなった!』『すごい!!』と拍手を送る。10代のころにそんなふうにじゃれ合った経験、ありませんか? いまは晩婚化しているので結婚してからそんなにふざけ合う夫婦も少ないでしょうが、『私たちは10代だ』とお互いに暗示をかけてイチャつくと、お風呂の後はベッドに直行かもしれませんよ!」(岡田医師)

セックスとは「自然にある」ものではなく、自覚、努力、そしてコミュニケーションのもとに成り立っているものということが、強く打ち出されたセミナーでした。自分の身体や欲望に意識的になり、日ごろから相手に歩みより、言葉と肉体で会話をする。セックスする・しつづけるという意欲を強くもち、それを妨げるものがあればカウンセラーや医師に相談するという文化が日本にもっと根づけば、44.6%の夫婦がセックスレスという現状も打破できるにちがいありません。