「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」日比谷シアタークリエ 2015年1月12日〜27日

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【連続企画】岡田惠和×堤幸彦「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」とは何か?
2015年1月、新春早々、幕を明ける「スタンド・バイ・ユー」は、「最後から二番目の恋」などで人気の脚本家・岡田惠和と「SPEC」「トリック」などで人気の演出家・堤幸彦の豪華な組み合わせの演劇。
「家庭内再婚」という結婚生活への新しい提言をする意欲作の全貌に、脚本の岡田惠和、出演者の戸次重幸へのインタビューで迫ってきたが、ついに、演出家・堤幸彦のインタビューとなった。
映像界では、様々な企みに満ちた作風で知られる堤は、この舞台にどんな仕掛けを用意しているのか?

──「スタンド・バイ・ユー」、稽古を拝見しました。面白そうですね。
堤 面白いですよ。僕の還暦イヤーの初頭を飾る作品になります。これを皮切りに、映画3本のほか、いろいろな作品に突き進んでいくわけです。
──今年も大活躍ですね。まず、「スタンド・バイ・ユー」を岡田惠和さんと組んでやることになった経緯を教えてください。
堤 岡田さんの存在は以前から強く意識していたところ、一昨年だったか、岡田さんがパーソナリティーをつとめるNHKのラジオ番組に呼ばれて、何か一緒にやりましょうよということでできたのが、「スターマン・この星の恋」(13年)です。その制作の最中に、15年の1月、岡田さんが舞台の脚本を書くのだけれど、演出をやりませんか、と誘われたんです。最初に企画書を読んだ時、死ぬほど面白くて、ぜひやらせてくださいとふたつ返事で引き受けました。
──監督から何かアイデアを出されたところはないのですか?
堤 14年の夏くらいにできあがった台本があまりに面白いので、朗読劇でいいじゃん、リーディングドラマにしようよ? と、ちょっと思いましたが(笑)、演出家として指名されたにもかかわらずそれはどうかと思い直して。まず、キャストに集まっていただいて本読みをしました。そしたら皆さん巧みで、ますます朗読でいいのでは? と思ったんですが(笑)、もう少し、尺を伸ばしてほしいとリクエストしながら、この面白い脚本に演出家として攻め上っていく方法をずっと考えて稽古に入りました。
──攻め上っていく方法はどういうものですか。
堤 まずは装置ですね。松井るみさんに頼んで可動式の装置を作ってもらったこと。ふたつめは音楽を生演奏でやること。荻野清子さんのピアノにプラスしてクラリネットという、おしゃれなセッティングですよね。それと、1幕、2幕と、各々ふたりしか出てこないのですが、せっかくだから出てない役者も舞台の脇に座ってもらって、演劇的一体感みたいなものを醸し出そうと思っています。それとさらに、若干、小ネタ(堤が映像作品でよく入れるギャグなど)を加えさせて頂いています。
──「スターマン」では小ネタはあまり足してなかったそうですが。
堤 宇宙人の話というそもそも荒唐無稽なものだったので、小ネタを入れる必要がなかったんですね。今回は、現代のリアルな夫婦の話なので、そこに、ビビッドに今起きているニュースみたいなものを放り込んでいこうと思って。毎公演必ず、今日のニュースみたいなものをしゃべるところを2カ所くらい作りました。
──「真田十勇士」(13年)でも毎日、日替わりネタを中村勘九郎さんに託していました。
堤 好きなんでよ、日替わりネタが。やっぱりその日のお客さんとの共犯関係が作れるといいかなと思っていて。
──監督の演劇ユニット・キバコの会も日替わりネタが多いです。
堤 キバコなんかほとんどそれしかないっていう。
──監督はその日のライブ感を大事にして、演劇を作っている。
堤 そういう要素もあります。でも、今回の舞台は、それがメインではなく、寄せては引く波のように、時に攻め、時に守るような演技の妙によって、夫婦の真実みたいなものに迫っていきたいですね。
──シリアスなんですか。
堤 いや、シリアスというわけではないですよね。誰しもが、わかる、わかると微笑むことのできるようなストーリーです。夫婦っていうのは相容れないものであり、混じり合わない水と油であり、似た者夫婦っていうのはなかなかないものでして。そもそも敵性の産物なのであって。そこを岡田さんが拡大して、ある種のドタバタ劇にしながら、最後は、芝居がはじまった時とは明らかに位相が変わっているという、非常によくできた脚本です。なんといっても会話の妙がハンパない。ニール・サイモンやウディ・アレンに並び称されるような都会的で素敵な丁々発止だなと思います。そこに、わたくしが若干の小ネタを盛り込んで、これからますます寒くなるので、劇場でドッと笑っていただいて、いい気持ちになっていただけたらと思います。特にカップルや夫婦でご覧になる方は、日比谷でワインでも飲みながら、結局、あなたも私も、あの芝居で言っていたことと同じよねえ・・・なんて会話をして頂き。ひとりでご覧になる方も、芝居として面白かったなと言ってもらえるものになると思います。
──出演者の方々は、はじめて仕事する方々ばかりですか?
堤 これまで、まったく接点がなかった方々ばかりです。仕事をしたことがあるのはモト冬樹さんだけですね。
──モトさんは「スターマン」に出演されていました。では、メインの4人の魅力を教えてください。
堤 皆さん、とんでもないスキルの持ち主です。ミムラさんは、初舞台というのが嘘なんじゃないかと思うくらいで。すごく気持ち悪いところから、すごくかわいいところまでのレンジが広くて、毎日、どの部分を選ぼうかなと悩んでいる次第です。声もすごく出るし、まず芝居で何か表現しようという意欲をストレートに出しているところに好感がもてますね。体当たりなんだけど不安なところを全く感じさせないんですよ。戸次重幸さんは、巧すぎます。様々な舞台の場数を踏んで来て、すでに熟練の域に達しているような。それでも、自分の築いた演劇的表現からさらにもっといきたいという意志みたいなものをギラギラ感じますね。
──戸次さんは、「琉球ロマネスク テンペスト」の安田顕さん、「真田十勇士」の音尾琢真さんに続いてのTEAM NACSのメンバーですね。
堤 どんな修行しているんですかね、あの人たちは。大雪山の山中をかけめぐって、崖からロープでつり下げられたりしているんでしょうかと思うほど演劇的に鍛えられていますよね(笑)。戸次さんは今回、ツッコミ役をひとりで担ってくれているのですが、勝村政信さんも本来ならツッコミが巧みな方と思うのですが、今回は、引きの演技を担ってくださっています。序盤はおどおどしていて、それが途中から急激に盛り上がってくる役どころで、そこのスピード感たるやすごいです。なにより、情けない男役が本当に巧い。戸次さんが“矢沢”な芝居をするのに対して、勝村さんはウディ・アレン的です。「アニー・ホール」を思い出しますね。
──上質感が高まりそうですね。
堤 真飛聖さんもはじめてですが、舞台の経験値が高いので安心してお任せしています。見栄っ張りで勝ち気で嘘つきで、その実、さみしがりやで・・・という役を見事に演じてくれています。稽古でも十分面白いですが、たぶん、勝村さんも真飛さんも戸次さんも、本番になると、お客さんの反応を見て、またちょっと違うパワーを出してくるのではないかな。特に真飛さんは、稽古とはまったく違う顔を見せてくるような気がしてしょうがないし、それをちょっと心の底で待っているような感じがあります。
──監督の鋭い洞察力からそう思うと。
堤 いやいやいや(笑)。彼女たちは、客のレスポンスを見るや、そこから波動を得て、そもそも設定した役回りから、2倍3倍の何か強烈な表現を出してくるに違いない。あらかじめそれを防いでおいたほうがいいのか、はたまた、それをいただくべきなのか、大きく悩んでいる昨今です(笑)。と言いつつ、そういうことができる幅をもたせた演出にしてあるんです。
──脚本がしっかりしていて、小ネタを監督が足している上に、俳優の裁量に任せられる自由度がある舞台ってすごいですね。
堤 幕が開いたら芝居は役者のものですからね。僕は見届けるしかないです。
──毎公演、ご覧になるのですか?
堤 毎日は行けないですが、要所要所は立ち会います。特に、大阪のノリも見てみたいですしね。都会的な作品と言いながら、大阪というまた別のニュアンスの大都会ではどう受けるのか気になりますし、はたまた名古屋でどう受けるのか。はたまた、博多はどうだ? 金沢はどうだ?と。 大阪、名古屋、金沢、静岡、博多に行くんです。
──けっこうな旅ですね。
堤 静岡の劇場がある清水というところでは、偶然、映画「イニシエーション・ラブ」(5月公開予定)のロケをした場所だったんですよ。
──「真田十勇士」でも大阪公演がありましたね。反応はどうでしたか?
堤 大阪ではより大きく笑ってもらうことが多いですね。今回は、日替わりネタとして、ご当地ギャグを足すつもりです。
──監督が映像でもよく盛り込む、お得意のご当地ネタですね。
堤 「悼む人」(12年)でも、ご当地ギャグをやっていましたからね。伊藤蘭さんに担当してもらって。「悼む人」はギャグを入れる必要が全然ないのに、どうしても受けないと気が済まなくて(笑)。
──基本、受ける、受けないが軸になっている。
堤 受けない場合は切る。あるいは差し替える。笑うまでやり尽くします(笑)。
──泣かせるより笑わせる方が難しいといいますしね。
堤 笑わないと泣けないですからね。感情開放ですから。なんて、知ってるようなことを言ってみたりして(笑)。
──ものの本で読まれたような(笑)。
堤 鴻上尚史さんの本にありました(笑)。演劇論などは読みませんが、鴻上さんの本はものすごく勉強になっています。
──監督は、笑い、お得意ですからね。
堤 元々は、コントばっかり演出していた人間なんで、やっぱり好きですね。
コントは難しいんですよ。80年代にとんねるずと番組を作っていた時に、彼らと共に掴んでいったノウハウで、ボケてツッこむまでに、30分の1秒単位で、重要な間があるんです。ツッコミが早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけないんですね。それには、それなりの場数を踏んだ役者じゃないとできないから、「スタンド・バイ・ユー」の方々は任せて安心です。最近では、ミムラさんもだいぶその間が分かって来た。時々こけてもらっていると、そのコケがなかなかいい間合いで来るんですよ。
──笑いといってもいろいろな笑いがありますが、30分の1秒の間合いは、どんな笑いにも有効なんですか?
堤 「スタンド・バイ・ユー」も、その公式的なものが入念に配置されています。

(木俣冬)
後編に続く

【プロフィール】
つつみ・ゆきひこ 1955年11月3日愛知県出身。映画監督。演出家。「トリック」シリーズ、「SPEC」シリーズなどのヒット作を手がける一方、舞台演出も行っている。主な舞台演出作品に、「琉球ロマネスク テンペスト」「悼む人」「真田十勇士」「KAKOCHIーYA」など。2015年は、映画「悼む人」(東映/2月14日公開)「イニシエーション・ラブ」(東宝/5月23日公開)「天空の蜂」(松竹/秋公開予定)と多くの映像作品の発表が控えている。

【作品紹介】
「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」
脚本 岡田惠和
演出 堤幸彦
出演 ミムラ 戸次重幸 真飛聖 モト冬樹 広岡由里子 馬場良馬 勝村政信
日比谷シアタークリエ 2015年1月12日〜27日

貸別荘にやってきた2組の夫婦。藤沢ハルカ(ミムラ)と榊誠治(勝村政信)が買い出しに出かけたところ、大雪で帰れなくなってしまう。仕方なくホテルに泊まったふたりは、次第に意気投合していく。その頃、貸別荘に残された榊愛子(真飛聖)と藤沢英明(戸次重幸)は、元恋人同士で、焼け木杭に火がついてしまい・・・。はたして2組のカップルはどうなる??

http://www.toho.co.jp/stage/theatre_crea/