おかだ・よしかず 1959年東京都生まれ。脚本家。90年にデビュー、94年「若者のすべて」で、連続ドラマで初のオリジナル作品執筆、以後、人気ドラマ、映画の脚本を数多く手がける。主な作品に、朝の連続ドラマ小説「ちゅらさん」「おひさま」、「ビーチボーイズ」「彼女たちの時代」「銭ゲバ」「最後から二番目の恋」「泣くな、はらちゃん」「スターマン・この星の恋」「さよなら私」、映画「いま、会いにゆきます」「阪急電車 片道15分の恋」「県庁おもてなし課」など。向田邦子賞、橋田壽賀子賞などを受賞。NHKーFMで「岡田惠和の今宵、ロックバーで、〜ドラマな人々の音楽談義」のパーソナリティーをつとめている。

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【連続企画】岡田惠和×堤幸彦「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」とは何か?

人気脚本家・岡田惠和の初戯曲「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」が2015年の開幕と共に上演される。
戯曲を書くきっかけになったドラマ「最後から二番目の恋」には、「まあ、ひどいことになったとしても、何にもないよりいいですよ」 (第1シーズン第3話より)など、名言満載で、人生に悩む男女の指針になってくれたものだが、「スタンド・バイ・ユー」で、岡田が描いたのは「家庭内再婚」。このキーワードも気になる。パートナーと最近なんかうまくいかないな……と思っている人たちはぜひ見てほしい舞台だ。
インタビュー後編では、岡田の結婚観などを伺います。(前編はこちら)

──さて、2組の夫婦の会話の中に、夫婦あるあるのエピソードがたくさん盛り込まれていて面白いですが、想像ですか? 取材ですか?
岡田「取材はしないですね。といって、自分でそんなにネタをもっているわけでもないし。想像するのが好きなんですよね」
──ファミレスなどで耳をそばだてて訊くとか、仕事関係者からネタを拾うとかする方もいると聞きますがそういうのはない?
岡田「実際にあったことをメモすることもたまにはあるんですが、結局使わないですね。たぶん、箱庭的なものが好きなんだと思うんです。脳内で考えることが。例えば、最近だと、40代の女性のドラマ『さよなら私』(NHK)を書くことが決まった時、その手の女性誌などはいっさい見ないようにしました。いっぱい書いてあるエピソードを読むと、ああ、そうだよなあって思って書けなくなちゃうんですよ。事実は事実でしかないっていうか、それを書いたところでレポートにしかならないから、わからないながら自分で考えたいと思うんです。だから、その役になって考えるので、書いている時はけっこう気持ち悪い状態になっています(笑)」
──男性のことはわかりますか?
岡田「自分以外のことはわからないですよね。逆に、自分に近い人を書くと混乱してしまう。
──作家さんは、書いているものと本人とは逆だともよく言いますね。
岡田「自分を出すというか、自分の思いを物語の中に混ぜると、バランスがおかしくなっちゃいますよね。やっぱり、自分の言いたいことは強いですから、それを言いたくなっちゃうんですよ。だから、あえて、自分がどう思うかを言わせるよりも、知らない感情や行動を考えるほうが楽しいです」
──脚本の中に出て来る「夫婦たるものこうあるべし」みたいなところは、岡田さんの実体験や思いじゃないのですね。
岡田「ないですねえ。人の数だけ、夫婦のあり方も違うと思うし、必ずしも、結婚生活を維持することがいいとも思わない。仲良いけど結婚しない人もいますしね。なにより、こうしなきゃいけないと思わないほうがいい」
──自分たちのやり方で。
岡田「夫婦のあり方は、自分たちで作るものだと思いますね」
──それでも聞きたいのですが、夫婦円満の秘訣は?
岡田「円満かどうかわからないですが(笑)、難しく考えないことですね。僕は、基本的に何も考えないです。例えば、親子って必然であって、自分で選択しているわけじゃない。なぜ、おれはこの息子を選んだんだろう? とか思わないじゃないですか。奥さんのこともそれに近いものと思えれば楽じゃないですかね。うちの奥さんがそう思っているかさっぱりわかりませんが(笑)。基本的には僕は人嫌いなんで、あなたのことを干渉しないから、僕のことも干渉しないでくださいってスタンスなんですよ。『泣くな、はらちゃん』(12年、日本テレビ)で“お願いだからほっといて”という内容の歌詞を書きましたが、あれははじめて自分を出した渾身の作です(笑)」
──そういう方なんですか(笑)
岡田「よく、岡田さんは優しくて女性の気持ちがわかる人だと言われますが、かみさんは、そんな世評を覆してやりたいと思っているんじゃないかな。ふざけるなって(笑)」
──『スタンド・バイ・ユー』をご夫婦で見に来る方には。
岡田「決して暗い気持ちで変えることはないですし、いろいろあるけど、ま、いっか!と思っていただけたら、高いお金を出していただく意味があるんじゃないでしょうか。日比谷まで舞台見に来て、自己否定して返ってもらいたくないですからね」
──そうですね!「家庭内再婚」という言葉は岡田さんが?
岡田「家庭内別居は星の数ほどあると思いますし、家庭内離婚もいっぱいいるかもしれませんが、家庭内で、結婚、離婚の繰り返しができればいいんじゃないかと思うんです」
──家庭の中で収めておく?
岡田「そうですね」
──『最後から二番目の恋』は舞台化しないんですか?
岡田「ドラマのキャストが全員そろったらやりたいですね(笑)」
──今後、舞台は続けますか?
岡田「最初の作品ができ上がったところをまだ見ていないから、はっきりは言えませんが(笑)、台本を書き終えた段階ではすごく楽しかった印象を抱いています。勝手な実験をお客様に提供するのはいやですが、お客様に楽しめるものをやれそうな気がする手応えは感じました。一度っきりでまた封印するのもなんですし(笑)。演劇に関してそんな幸せな経験をしてこなかったので、今回は、観に行って幸せな気持ちになりたいし、そういう気持ちが今後も続けて味わえるんじゃないかなって予感がしますね」
──最後に話を元に戻しますが、80年代、演劇を多く観ていた岡田さんの書く脚本に、演劇的なベースが実はあったりするのでしょうか。
「80年代の小劇場演劇って、すごくシリアスなものもありますが、基本、何かしらコメディの要素が入っているじゃないですか。お客さんをあっためる的な意味も含めて。僕も、どんなシリアスなものを書いていても笑える部分を作りたくなるので、その志向は、当時、得たものじゃないかと時々思います。例えば、『さよなら私』は、佐藤仁美さんの役どころ(主役ふたりの接着剤的役割をする同級生)、プロット的にはそんなにいらなかったのですが、そういうブロックも多めにあるほうが好きなんですよ」
──前編で伺った、脇役の人にも印象的なシーンを作ることにつながりますね。そういえば、シェイクスピアは、脇役を描くことが巧いとか。
「ああ、わかる気がします。たぶん、映画より、脇役を生かすところが演劇にはあると思います。劇団の座付き作家などは特に、限られた中でも、出ているひとりひとりに光を当ててあげたいと思うでしょうね。僕にもそういうところはありますね」



(木俣冬)