チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ、アーセナル対ドルトムント。試合前日の公式会見で、クロップ監督は素直に心境を打ち明けていた。

ブンデスリーガのことを考えるとホリデーのようなものだ。これは"ただの"チャンピオンズリーグ。首位突破はしたいが、国内で大きな問題を抱えている」

 UEFAの公式サイトに掲載された写真では、クロップは豪快に大笑いしていた。このコメントも、馬鹿正直というよりも、自虐的な笑いを誘うものだった。まるで状況の深刻さを明るく吹き飛ばしたいと思っているかのような、切なささえ感じさせた。

 クロップがドルトムントを率いるようになった2008〜2009シーズン以来、状況は最悪と言っていいだろう。とにかくブンデスで勝てない。3勝7敗2分の16位、しかも堅守を誇ったチームが、12試合で19失点と見る影も無い。CLでは4連勝で早々にグループリーグ突破を決めており、アーセナル戦は首位突破をかけた一戦ではあるが、それよりも「週末のリーグ戦のためにこの試合を使いたい」と、クロップは本音を漏らした。

 この日、ドルトムントはまずMFケールを休ませた。今季限りでの現役引退を発表しているベテランは、それが信じられないほどの活躍を見せている。今、最もいなくなって困る選手というわけだ。代わってベンダーをボランチで起用、左SBにはシュメルツァーを使い、トップ下には香川真司ではなくインモービレを起用した。リーグ戦を見据えて、休息とテストを兼ねた試合と、明らかに割り切った戦いとなった。

 とはいえ引き分けでも首位突破が決まる試合で、開始2分にあっさり先制点を許すあたりが現在の弱さなのだろう。結果は2−0でアーセナルが勝利した。

 3日前には、今季クラブ史上初めて1部昇格を果たしたパーダーボルンに引き分けた。香川の言葉を借りれば「負けに等しい引き分け」。さらにチームの主軸、ロイスが長期離脱を余儀なくされるケガを負い、クラブは暗い雰囲気に包まれた。ミックスゾーンには1人しか選手を出さず、そのことでクラブの広報とドイツ人記者が軽くもみあうシーンまで見られた。

 その試合からの流れが断ち切りきれない。「(前の試合の)相手が昇格組だったので、すごく苦しい中で今日を迎えたんですけど、最初のほうでそれが出ちゃったというか。立ち上がりでああいう失点をするというのは......なかなか勝てない流れになった」と香川は語る。クロップも「考えうる中で最悪の立ち上がり」と認めざるを得なかった。

 その後は、ボランチを含めた6人で低い位置をとり、ゆったりと守るアーセナルを全く崩しきれない。バイタルにチャレンジ性のあるパスが出ないのは、香川に言わせれば「それ以前の問題」。攻撃陣の問題という以前に、立ち上がりの失点で相手に守る余裕を与えてしまったのが敗因だということだ。だからこそ立ち上がりの失点が悔やまれる。

 その香川については、前日会見でクロップが「もっと良いプレイができる」と語っているが、それは質問があったからに過ぎず、「それは他の選手たちにも言えることだけど」とつけ加えている。香川に限定した話ではなかった。

 アーセナル戦では2点目を奪われた後、後半途中から出場。約30分の出場時間のうち、ラスト10分は、強いパスで味方を走らせたり、強引にドリブルを仕掛けたりと、ゴールへの意図を見せるプレイもあった。ただしそれまでは意図のはっきりしないプレイが目立ち、本調子からはほど遠かった。

「ピッチに出て結果を残すために、がむしゃらというか、自分がやれることをしっかりやるだけ。その中で結果を出すことが一番ですし、チームとしてもそうですけど、それを辛抱強くやってくしか道は開けないと思います」

 自分が置かれた状況の厳しさを理解してはいるが、なかなか前進できないもどかしさがあるようだ。

 CLでは最終戦でアンデルレヒトに引き分けさえすれば首位突破が決まる。重要になってくるのはその前に2試合ある国内リーグ戦だろう。不調だろうが、負傷者による戦力ダウンがあろうが、さすがに16位に沈むチームであることは許されない。リーグ戦で浮上するためにこのアーセナル戦があったのだと、あとで振り返ることができればいいのだが。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko