「スープカレー」DVD-BOX
大泉洋ら北海道出身の演劇ユニット「TEAM NACKS」のメンバー5人総出演によるドラマ。食べ物の名前をタイトルにしたことといい、アラフォー世代の男の悲喜こもごもを描いたところといい、今回の大泉主演の「駄菓子」(「おやじの背中」第8話)と通じるところもありそう。

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8月31日、明日から学校がまた始まるというのに、ぼくは宿題の読書感想文をやるのをすっかり忘れていました。お母さんにおこられながら、ようやく書き終わったときには夜も9時をすぎていました。

リビングでは、さっきまで「24時間テレビ」を見ていたお父さんが、またちがう番組を見ています。TBSの「おやじの背中」というドラマでした。「おまえも見ないか?」とお父さんが言うので、少し眠かったけど、いっしょに見ることにしました。

ちなみに、うちのお父さんはとてもウンチクが好きです。このときも「今週の『駄菓子』って食べ物の名前だけのサブタイトル、いつか大泉洋が出てた『スープカレー』ってドラマを思い出すな。お、脚本は池端俊策か。池端さんはね、ビートたけしの主演で、『昭和四十六年 大久保清の犯罪』とか『イエスの方舟』とか『金の戦争』とか、昭和のこわい事件についてドラマをいっぱい書いてきた人だよ。たけしと緒形拳でやった『忠臣蔵』もなかなか面白かったなあ……」などと聞いてもいないのに語るのを、うっとうしいなあと思いながら、ぼくはいつのまにかテレビに見入っていたのでした。

ぼくがこのドラマを見て、一番いんしょうに残ったのは、主人公の湊くん(田中奏生)が父親の真(ただし)さん(大泉洋)のことを大好きで、とてもそんけいしていたことでした。といっても、真さんははたから見ると、たよりのなさそうなお父さんです。お母さんは実家に帰ってしまったようだし、勤めていたお菓子会社は上司の人とけんかしてやめてしまうし、家事も湊くんにまかせっぱなし。お金がなくて、湊くんのケータイの料金をはらえなかったこともあるようです。とりえといえば、お菓子をつくることぐらい。でも、そのたったひとつのとりえこそが、湊くんがお父さんをほこりに思う一番の理由なのでした。

湊くんには夢があります。それは、真さんのつくった「サターン5」というスナック菓子を売り出すことです。いつも行く駄菓子屋には、それを置く場所もちゃんとかくほしたし、湊くんの友達も楽しみにしているみたいです。お父さんといっしょに夢を追いかけるなんて、まだ子供のぼくが言うのもなんですが、ちょっとないことだと思います。でも、夢というのはやはり、そんなにかんたんにかなえられるものではなさそうです。

真お父さんはたびたび、自分の行くすえに悩んだり落ちこんだりしては、夢をあきらめかけます。お菓子会社をやめた日も弱音をはいていたのですが、このときは湊くんから「サターン5は焼きトウモロコシ味にしたほうがいいと思う」とアドバイスされて、あっさりやる気になります。ぼくがもし、お父さんから弱音をはかれたら、親のくせになさけないと、たぶん思うでしょう。でも湊くんはげんめつするどころか、逆にお父さんからやる気を引き出してしまうのだから、すごいです。

真さんがお菓子づくりをはじめたのはそもそも、子供のときにあまりかまってくれなかったお父さん、つまり湊くんのおじいさん(高橋克実)にはんぱつするところがあってのことのようです。おじいさんは薬をつくる会社の社長で、いまは真さんのお兄さん(田中哲司)があとをついでいます。お兄さんはこの会社に、真さんも入るようさそいに来るのですが、真さんはこれをきっぱりとことわります。

あくまで「サターン5」をしょうひん化することにこだわる真さんは、ある日、湊くんに、たくさんのお菓子を食べくらべて、そのなかで一番おいしいものをえらんでほしいとたのみます。そこで湊くんがえらんだのは、「フライジャガー」というお菓子でした。次の日、親子でそれをつくっているハシバ製菓というお菓子会社に出かけます。

じつはフライジャガーは、真さんも子供のころに好きだったお菓子でした。でも、ハシバ製菓の社長さん(塚本高史)に会うと、真さんはフライジャガーは自分の考えたやりかたでつくりなおすべきだと言い出します。とつぜんやって来た人間にこんなふうに言われたら、だれだっていい気はしないでしょう。とうぜんながら、真さんはおいかえされてしまいます。

すっかりのぞみを断たれた真さんのもとへ、こんどはおじいさんがなくなったとの電話がかかってきました。まったく、悪いことはかさなるものです。真さんがおじいさんの家に行くと、お兄さんから、あらためて自分の会社に来てくれるよう頭を下げられました。

家に帰って、真さんはまた弱音をはきます。きっかけは、湊くんが塾の夏合宿のもうしこみをしていないことに真さんが気づいたことでした。お父さんは会社に行っていないからお金がないと考えた湊くんは、夏合宿の話を言えずにいたのです。でも、これに真さんはすっかり落ちこんでしまい、「サターン5をあきらめる」と口にするのでした。たぶん、自分の夢にこれ以上、子供を巻きこんではいけないと気づいたからでしょう。

湊くんは泣きながら、あきらめないようせっとくするのですが、今度ばかりは無理でした。「お父さん、本当のこと言うと、もうつかれたかな」「会社に入ればふつうのくらしができるし、お母さんだって帰ってくるかもしれない。おたがい楽になろうよ」と、真さんはとうとう夢をだんねんして、お兄さんの会社に入るかくごをきめたのでした。湊くんはたまらず、家を飛び出してしまいます。

ミラクルが起きたのは、そのあとのことです。じつはそれは、ハシバ製菓からの帰りぎわ、湊くんがその家の子供に「サターン5」のサンプルを渡してきたことがきっかけでした。

それにしても、湊くんは、そんけいできるお父さんがいてうらやましいです。というか、そこまでお父さんのことをそんけいできる湊くんがうらやましい。きっと、湊くんは、お父さんのことを信じているのでしょう。それに、湊くんにとってお父さんの夢は自分の夢でもあるのです。

ドラマを見終わったあとで、ぼくは「お父さんの夢はなに?」と聞いてみたのですが、お父さんはてれて答えてくれませんでした。湊くんのようにお父さんと心がつうじあうようになるには、もう少しお父さんと話をしたり遊んだりして、おたがいの気持ちを伝えあうことが必要なのかもしれません。

ドラマでは、最後に湊くんのおかげで、真さんがどうやらお菓子の夢を捨てずにすむことになりました。ぼくは湊くんのようにはたぶんお父さんやお母さんの危機をすくうことはできないけれど、せめて日ごろからお手伝いぐらいはしたいと思います。

さて、今夜9月7日放送の「おやじの背中」第9話は、「父さん、母さんになる!?」というタイトルからしておもしろそうです。主演は内野聖陽さん、脚本はいま「昼顔」が大好評放送中の井上由美子さんです。ちなみに「昼顔」というドラマも気になって、お父さんに聞いてみたら、「おまえにはまだ早いっ!」とおこられてしまいました。(感想文おわり)

※「もし夏休み最後の日にこのドラマを小学生が見たのならどんな感想を抱いただろう?」
先週のTBSの日曜劇場「おやじの背中」の第8話「駄菓子」を見ていたら、ふとそんなことを考えました。ちょうど8月31日が放送日で、しかもドラマの内容は、小学生の息子と父親の関係を描いたものだったからです。
思い立ったら即実践というわけで、こんなふうに小学生の感想文風に書いてみました。父親と一緒に見たという設定になっているのは、この作品がいまどきのテレビドラマにはめずらしく、親子で見るのにふさわしいと思ったからです。
(近藤正高)