他人の関係feat.SOIL&“PIMP”SESSIONS
一青窈
ユニバーサル ミュージック

ドラマを盛り上げるテーマ曲です

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〈私たちは標のない深い森にふたりで足を踏み入れました〉

「昼顔〜平日午後3時の恋人たち」(フジテレビ木曜10時〜)の主人公・紗和(上戸彩)が、その回の締めに語る、文学的(笑)ナレーションが毎週楽しみになってきています。第7話(8月28日放送)は、↑コレでした。
わー、もうーどうしたらいいんですか! 
お互いの家庭を思って、一度は別れた紗和と北野(斎藤工)でしたが、この回の終り、また、そっと手をつないでしまいます。しかも、各々の夫(鈴木浩介)、妻(伊藤歩)の目を盗んで。
手をつないだあと、脱いだ靴をそろえるときの上戸彩の微笑みが、なんだかこわかったです。

吊り橋理論といって、危険なところで互いに胸がばくばくしていると、それを恋と間違えてしまうというものがあります。紗和も北野もそんな感じなのでしょう。秘密感、罪悪感がふたりを燃え上がらせているだけなのではないかと。
地味で勤勉な人たちほど、ハメを外す(罪を犯す)ことに慣れていませんから、紗和と北野はまさに、罪の罠に陥ってしまったとしか思えません。
ベテラン昼顔妻・利佳子も言ってました「あなたたち夫婦(紗和夫婦のこと)には遊びがないから」と。

なにが罪かって、北野の、無策の策な感じのところです。
紗和への別れの手紙の、追伸に(わざわざ追伸です)、ツクツクボウシの鳴き方が、「ツクツクボウシ」ではなく「ボウシツクツク」に聴こえるということをしたためるようなところや、それを書いた字が几帳面でキレイなところ。
そういうささやかで、悪さやいやらしさなど微塵もないところが、毎日、スーパーで働いても、1ヶ月8万円にしかならない低所得主婦・紗和の日常に、そっと忍び込むのです。
こういうディテールを考えたであろう、脚本家の井上由美子の才能を讃えたい。

紗和にとって地味めなイケメン・北野は最高のパートナー。加藤(北村一輝)みたいに濃い人と恋する勇気はもてないのであります。
それにしても、北村一輝のグイグイ迫ってくる強烈な魅力に対して、斎藤工の控えめを通り越した何もしなさはすごい(褒めてます)。

ベッドで寝ている斎藤工の全身
妻に迫られる斎藤工の上半身
白衣の斎藤工

7話はこんなシーンがありましたが、彼は本当に何もしていません。ただただ、立っているもしくは座っているだけです。リケジョ妻・伊藤歩にされるがまま感は本当にすごい。これも、ある種のおもてなし(ちょっともう古い?)ではないでしょうか。
何もしなくても、彼の唇の立体感だけで間がもってしまう。
ひたすら、待って、待って、近寄ってきた女をキャッチする、斎藤工は、食虫植物的な俳優です。

そんな男に捕虫されてしまった紗和ちゃん、どうなるのでしょうか。

さて、ナレーションと並んで、利佳子の昼顔語録も毎回の楽しみですが、7話では、語録というよりも、「昼顔妻心得の定」的な重みを持ち始めました。

「不倫の恋は別れたあとでさえ、人に知られるわけにはいかない」

この台詞や、いっぱい泣いたら、目が赤くなって旦那によけいな詮索をされるから泣けもしないと、自分たちを律する利佳子たちの姿に、あんたら、忍びか! と思ってしまいました。
武門の儀あくまで影にて 死して屍拾う者なし! って感じです。
平日の午後の数時間だけ、夫以外の男性と楽しむ昼顔妻なんて、チャラっとした人たちと思っていましたが、何やら、強固な覚悟が必要なようです。
紗和(上戸彩)も、言っています。
「たしかに不倫は私を強くしました」と。

利佳子も、ついに、夫(木下ほうか)のカゴの鳥暮らしから脱却し、加藤の元へと走る決意をします(完全に白蓮パターンであります)。

ただ、このドラマが悪くないなと思うのは、遊びの昼顔行為から、純愛に向いそうな2組のカップルをロマンチックに描きながら、利佳子の子供が、母の行為に傷ついていることを、ちゃんと描いているところです。
好きだった母の料理がもう好きじゃないという長女。母がほかの男と会うときは、きれいにしていて、おかずも多くて、お父さんにも優しかったと、ちゃんと気づいていた長女。
「チキンカツも好きじゃないお芋のスープも好きじゃない」とか「おかずが多かった」とかいう子供の台詞がいいのです。こんな子供を悲しませるのは、やっぱりなんだかなあ、と思ってしまう後半戦。昼顔の道は茨の道。

そうそう、妻たちは、午後3時から5時くらいまでを昼顔時間にしているのですが、このドラマ、夕方の場面がとても多いです。そして、その夕方を、濃いめのアンバーの照明で包んでいます。この光は5時過ぎた時間だと思うんですね。昼顔タイムが終わった頃です。その終わりの時間をどうするか。シンデレラが12時過ぎてどうするか、というように、紗和と利佳子が、5時過ぎたときの選択が、ドラマの楽しみになってきました。紗和の勤めてるスーパーの名前は「夕照」です。
(木俣冬)