「カーネーション」「極悪がんぼ」など共演作も多い、尾野真千子と國村準。親子役で共演するのは今回が3作目となる。写真は父娘役で共演した2作品目にあたる「心中天使」(IVC,Ltd.)

写真拡大

8月17日放送のTBS日曜劇場「おやじの背中」第6話は國村隼×尾野真千子による「父の再婚、娘の離婚」(脚本・橋部敦子)。ふたりが親子として共演するのは尾野のデビュー作「萌の朱雀」(1997年、河瀬直美監督)、主演作「心中天使」(2010年、一尾直樹)以来、3作目となる。

吉崎は妻を4年前に亡くし、現在はひとり暮らし。定年退職後、再就職にこぎつけたものの、仕事内容が不満で早々に辞めてしまう。ただ、落ち込んでいるかというと、そうでもない。婚活の末に再婚相手を見つけ、近々入籍するという元上司に触発され、シニア婚活をスタート。婚活パーティでいきなり介護の話を持ち出してドン引きされたりしながらも、のんきな日々を送る。

一方、娘の七海は夫と二人暮らし。父親の反対を押しきって結婚した相手は、俳優志望のフリーター。「好きなことをして生きるっていう生き方もあるの」「うまくいってる。全然問題ないから」と父親には言ったものの、実際にはあまりうまくいっていない。「テレビ消してってよ」「電気代払うの、七海だもんな」といった短いやりとりにも険悪さがにじむ。

子どもの選択にたびたび助言という名の横やりを入れてきた父親。反発を覚えながら、アドバイスに従ってきた娘。「せっかくお前たちのことを思って言っているのに」「思い通りにさせたいだけ」という親子のギャップは今も埋まっていない。

「信用金庫の内定をもらった日に誓ったの。結婚だけは自分で決めようって」
「失敗したと思ってるのか」
「思ったとしても、お父さんのせいだから!」
「なんで、俺のせいなんだよ」

しきりに「お父さんのせいなんだから!」と、父親をなじる七海。曰く、父親のアドバイスに従っていた頃は人生が順調だった。でも、ずっと我慢を強いられた。
ぜんぜん順調じゃないけど、やりたいことをやっている人と一緒にいたら、それだけで自由になれた気がした。だから、結婚した(でも、今はぶっちゃけ、しんどい)。
略すと、「お父さんのせいだから!」になるというわけだ。
ムチャクチャだ。でも、ちょっとわかる。

父親のキャラや生活様式なのかは男性観の初期設定に影響を与えても不思議じゃない。
初めて目にする、男のサンプルなんだもん。

自分自身を振り返ってみると、「家事をしない」を標榜する男性に出くわしたとき、いちいち驚愕してしまうのは、どう考えても父のせいだ。毎朝5時起きで家族全員の弁当と朝食を用意し、帰宅後も早々に台所に立ち、夕飯の準備をする。さすがにいい年なので、そうではない男性もたくさんいるのは知っているし、なるべく驚きを顔には出さないようにしている。でも、内心では、びっくり仰天している。(まあ、向こうは向こうで「アンタにびっくりだよ」と思っている気もする)

夫との関係に行き詰まる七海とはうらはらに、吉崎の婚活は順調だ。婚活パーティで知り合ったという女性と「お互い健康かどうか調べておいたほうが安心してつきあえるだろう」と、“人間ドックデート”。今度は温泉旅行を予定しているという。行き先が生前、母親が行きたがってた旅館だと知り、七海は激怒する。

「何考えてんの!」と七海に叱られ、
「ダメか」と答える、吉崎のぼんくらぶりがいとおしい。
しかし、七海は笑うどころか「いいとか悪いじゃなくて、ありえないでしょ!」と追撃する。

“わたしはお母さんと同じ病気になるのが怖くて胃カメラ飲んで!
お父さんはぜんぜん違う人のためにドック受けて! どこも悪くなくて。
ひどいよ! お父さん、ひどいよ!!”

ムチャクチャだ。でも、娘の立場からすると、腹立たしさもわかる。
もっとも、娘の目に映る父親と、妻の目に映る夫は違っていたのかもな、とも思う。

現役時代の吉崎は仕事一筋のマジメ人間で、おそらく家事は妻にお任せだったのだろう。朝食に手際よくみそ汁を作る姿を見て、娘がぎょっとした顔をしていたぐらいだ。でも、よく見ると、部屋はきれいに片づけられ、身なりもこざっぱりしている(七海の夫のほうが、よほどしょぼくれていた)。“人間ドックデート”のエスコートもサマになっていた。

表立って家事を分担することはなくとも、いざというときは手伝っていたのかもしれない。妻の病気がわかってから一生懸命家事を覚えたのかもしれない。真相はドラマの中では明らかにはされないが、「横暴で身勝手に見えて、じつは聞く耳がある」というヒントがそこかしこに散らばっている。

“娘じゃ孫じゃどうにもならない、寂しさってものがある”
“私も寂しい。(中略)一緒にいてもずっと寂しかった”

お互いの寂しさを打ち明けあった翌日、娘は父親に「再婚、考えてみてもいいじゃない。あの人、いい人そうじゃない」と勧める。さらに、自分は「離婚する」ともいう。父親の返事は「いいんじゃないか」。

またもや、父娘あるある! 甘がみを通り越して、全力でかみつく娘に、なんだかんだ言って娘に甘い父親。何を言っても「いいんじゃないか」と受け止めてくれる存在があると、いろんなことが気楽になる(しかも、実家は持ち家だった。住むところもある)。ただ、惜しむらくは「腹を割って話し合う」を夫に適用しなかったこと。聞く耳を持ちそうで持たない七海ちゃんの苦難の旅はまだまだ続きそうだ。健闘を祈る!

さて、第七話は渡辺謙×東出昌大による「よろしくな。息子」(脚本・山田太一)。息子といっても、じつの息子ではなく、断られた見合い相手の息子らしい。どんな親子の物語が繰り広げられるのか。今夜9時から!
(島影真奈美)