『ももクロ流 5人へ伝えたこと 5人から教わったこと』川上アキラ/日経BP

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月26日、27日の両日にわたり、日産スタジアムにて単独ライブ「ももクロ夏のバカ騒ぎ2014 日産スタジアム大会〜桃神祭〜」を成功させた、ももいろクローバーZ。この2日間で実に12万人を動員したというのだから驚くほかない。
AKB48にとっての秋元康のようにアイドルには仕掛け人がつきものだが、ももクロにはプロデューサーにあたる人物は存在しない。ただし、ファンにももクロの仕掛け人としてよく知られている人物がいる。それがチーフマネージャーの川上アキラである。

『ももクロ流 5人へ伝えたこと 5人から教わったこと』(日経BP)は川上の初の著作である。川上がももクロを観客数十人の路上ライブから、わずか数年で12万人を動員できるスーパーグループへと育て上げていった様子がつぶさに語られている。
ここでは本書の中で披露されている“ももクロの哲学”とでもいうべき、ものづくりやマネジメントに対する川上の考えの中から、いくつかをピックアップしてみたい。

●時間と労力をかければかけるほど面白いもの、いいものができる

ももクロのスタートは、何から何まで手作りだった代々木公園での路上ライブから。スタッフらはせっせと整理券を手作りし、川上に至ってはカラオケ用の電源確保のため自動車用のバッテリーを自ら改造していた。予算や時間の制約があったとしても、作り込めば作り込むほどいいものができるというのが川上の考え。その後、代々木公園から場所を移してからも「メンバーと糸電話で話せる」とか「第2ボタンを渡すとツーショットが撮れる」などの奇抜な手作りイベントを展開していった。その姿勢は規模が国立競技場になるまで変わっていない。

●効率に関していうと、絶対に効率より面白さ

代々木公園が使えなくなった後も、川上らは自分たちで会場探しとライブの設営を行っていた。そもそも予算がなかったのでイベンターを使えなかったのだ。デパートの屋上に片っ端から電話をして、池袋東武百貨店の屋上や立川のショッピングセンター「フロム中武」の屋上などでのライブが実現した。「あのころは本当に効率が悪かったと思いますが、効率が悪い体験をしたからこそ学んだことはいっぱいあるんです」と川上は話す。スタッフが「手間がかかる」などと言っても、頭ごなしにでもやらせるのが川上流。一見無駄なことでも、その蓄積が結び付いて結果を生み出すことが多いからだ。

●僕が理想とするタレントは与えられた仕事を待っているのではなく、「自分で考えるタレント」

全国24ヵ所のヤマダ電機を回るライブツアーを行ったのが2009年のこと。当時のももクロはまったく知名度がなく、客が10人程度しかいないこともあったが、ツアーは悲観的な空気にならなかったという。「子どもに来てほしいから風船を配ったらいいんじゃない?」と、メンバーたちも一緒に客を呼ぶアイデアを出していたからだ。
このように川上はメンバーたちに常に自分で考えるよう促している。素晴らしい美貌や歌声の持ち主ならそんなことはしなくてもいいが、ももクロは“非A級”(帯コピーより)。だからこそ「自分で考える」ことが重要なのだ。国立競技場ライブでは、メンバー自身も最初から企画会議に参加した。ももクロは「自分で考えるタレント」として一歩ずつ成長を遂げていったのである。

●メンバーにもスタッフにも「できない」は禁句

ももクロの現場に「無理」や「できない」はない。メンバー、スタッフとも、できる方法を考えなければならない。
あるテレビ番組で「猛烈宇宙交響曲・第七楽章『無限の愛』」を歌うとき、川上は百田夏菜子に「帽子のある衣装でアクロバットをしろ」と命じた。百田は「(帽子が)落ちるから無理」と反論したが、川上は「考えろ」と突き放した。そこで百田は帽子の下に巻いていたバンダナにガムテープを貼って帽子を止めることを考えついた。実際に帽子は落ちないまま、アクロバットは成功する。こういうやりとりをスタッフが見ていれば、次の展開はさらに想定を超えたものになっていくのだという。
ほかにも、ももクロは左右に約3mずつの幅があれば5人で踊れるような振付になっている。「すごく限られたスペースでパフォーマンスを披露する」経験によって、「できないことはない」ということを体で覚えさせたかったという川上の狙いだ。「○○じゃなければ絶対にできない」という感覚は仕事をしていく上で障害でしかない。こういうことの積み重ねで対応力の高いタレントになっていくのだ。

●未来を考えるのがマネジメント

2010年12月、ももクロは日本青年館で初めての大規模なワンマンライブに挑戦した。それまでのライブは多くても300〜400名規模で、そもそも観客からお金を取るライブもほとんどしていなかった。キャパ1500名の日本青年館でのワンマンライブは大きな冒険である。川上自身も全部埋まるとは思っていなかったそうだが、結果を見る前に、なんと翌年春の中野サンプラザを押さえていた。現在だけでなく未来を見て道筋を作っていくのが、川上の考えるマネジメントである。大きな会場を押さえるとき、ステージ上でのパフォーマンスには自信があるが、会場を埋める自信はないと川上は語る。しかし、ダメだったらダメでそのとき考えればいいこと。「未来を考えるマネジメント」によって、ももクロは国立競技場、日産スタジアム2デイズまでたどりついたのだ。

●タレントの力を伸ばす「きっかけ」を与えるのがマネージャーの仕事

冒頭にも記したが、ももクロにプロデューサーはいない。川上の役割はあくまでもマネージャー。スケジュールはもちろん、食事や交通手段のことまで考えてタレントを支えている。プロデューサーが「企画」を担当するとしたら、マネージャーが担当するのは「人」。タレントの力を伸ばす「きっかけ」を与え、伸ばすきっかけになる「場」を与えるのがマネージャーの仕事だと川上は語る。実際に力が伸びるかどうかはタレント次第。タレントをプロデュースできるのはタレント自身しかいない。だから川上は「自分で考える」よう促してきたのだ。

本書にはほかにも、ビジネスやマネジメントの現場で活かすことができる要素がたくさん詰まっている。日経BPが版元なだけあって、ただのタレント本ではない。ももクロファンはもちろん、ももクロの快進撃の裏側が知りたい人、面白いコンテンツを作りたい人、部下を成長させていきたい人などにとっても必読の一冊である。
(大山くまお)