松雪泰子の薄幸ドラマシリーズのひとつ
「Mother」
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「家族狩り」(TBS、金曜22時〜/原作・天童荒太)、8月7日放送・6話のおわり、いつものアイキャッチの翼が、禍々しい髑髏に変わった。

5話で、引きこもり生徒・実森(岡山天音)と教師・巣藤浚介(伊藤淳史)が、美味しい珈琲とレーズンパンと裏DVDによって心を通わせ、つかの間ほっこりした分、6話で描かれた実森の行く末には激しい衝撃を受けた(今回の脚本は泉澤陽子)。
4話分ヘヴィーにして5話の良い話を強調したのかと思いきや、むしろ、5話こそ6話の辛さを高めるためにあったようだ。やられた。本当にむごいドラマである。
生徒と先生のいい話も、私産むから(しかも嘘妊娠)の美歩(山口紗弥加)に言わせたら「今時、金八キャラとかマジうざいから」。がっくし。

悲しい結末が待っていることを知ってか知らずか、6話の中盤、児童心理司・氷崎游子(松雪泰子)は、実森の父母(父は、会社のそばのウイークリーマンション生活で家に寄り付かないでいた)に語りかけた。
「家族ってうまくいかないことのほうが普通なんだってことです。
あったかいもの、落ち着く場所が家族なんてきれいごとです。
憎んだり、喧嘩したり、人と人だから、家族の間でもめるのが当たり前です。
だからこそ、なにがあっても家族を大事にしよう。なにがあっても子供を愛し続けるんだって覚悟をもち続けないといけないと思うんです」

家族とは、そもそもうまくいかないものを、それでもなんとか保たせていこうと協働(共闘か?)する、運命共同体みたいなものなのだろうか。
だとしたら、むしろ常に厳しく緊張感ある場な気がする、家庭って。
実森は、世界に自分と浚介のふたりだけだったら良かったと感じ、この相思相愛な関係こそ家族なのかと思うが(実森と浚介が男同士だったことが不幸)、「家族狩り」はそうではないことを突きつけてくるのだ。
現実には、自分を理解してくれない人のほうが多く、そんな中で、人と比べて、底辺感を覚えながら生きていくことはキツい。だとしたら、死を選びたい、そんな気持ちに実森は追い込まれていく。
游子も、この痛い現実を、いやというほど味わっている。

認知症の父(井上真樹夫)と、パチンコ依存の母(浅田美代子)との生活だけでもいたたまれないのに、老人介護施設の詐欺にあって土地の権利を失ってしまっていた。幸い、売った不動産業者から、家を借りるということでことなきを得たが、一難去ってまた一難、6話では、母にガンの疑いがあることがわかった上に、家がシロアリに蝕まれていた。
その上、シロアリ駆除業者の新米アシスタントは、游子に怨みを抱く、アルコール依存症のシングルファーザー駒田(岡田浩暉)で、また一波乱ありそうな予感がする。

氷崎家、なんでこんなにまで? というほど、悲劇が矢継ぎ早に降りかかる。
松雪泰子がいつでも眉間に寄せた皺を筆頭に、顔のパーツが全体的に八の字にキープされている印象なのも無理はない。

彼女の辛さを表すのは、顔だけではない。バッグだ。
彼女は、いつもバッグをふたつ、バッテン型に斜めがけしている。いったい何をそんなに持ち歩いているのか、それもドラマの謎のひとつ。この荷物がまるで、細い体に、ふたりの子泣き爺が取り憑いているかのように見え、物理的な重さだけでなく、心の重さがひしひし伝わってくるようだ。ふたつあることで何かの板挟みにあってるようにも見える。
時々フラッシュバックする、彼女が死体置き場で「私が殺しました」と言っているビジョンもあって。いったい彼女はどんな問題を抱えているのだろう。重荷を肩からおろせるときは来るのだろうか。

「家族狩り」は、家族のドラマだけに、氷崎家、実森家をはじめとして、何組もの親と子供の関係性が描かれている。
面白いのは、若い世代(20代くらい)の家庭のほうが、子供に対して、全面的に愛情を注いでいることだ。
連続一家心中事件を追う刑事・馬見原(遠藤憲一)の娘・真弓(19歳/篠田麻里子)とその夫・石倉鉄哉(佐野和真)と、須藤の教え子・渓徳(北山宏光)とその妻・佳苗(松浦雅)。この2組の若い夫婦は、デキ婚くらいの勢いで子供をつくって結婚している。
彼らは、家族という理想に依存するのではなく、子をかすがいにして、家族を意識的に守っていこうとしているふうに見える。渓徳は、自分の子じゃないかもしれないと思いながらも、妻と子供とうまくやっているし、鉄哉は、自殺未遂を起こした義母(馬見原の妻)佐和子(秋山菜津子)の気持ちに理解を示す。
まさに、前述した、游子が語った家族のあり方を実践しているかのようなのだ。勝手に作り上げた幻想の家庭に到達しえないことに悩み苦しみ絶望し、右往左往している大人たちよりも、若い家族が、断然、クールで達観しているようで、そんな彼らに大人たちは学ばされているところがある。そこが「家族狩り」の
面白さであり、もしかしたら希望なのかもしれない。まあ、彼らも今後どうなるかわからないけれど。

6話の最後は、連続心中事件がまた起こり、それが、実森家であったという
悲しい展開になった。
事件現場に、駆けつけた浚介は、死体の傍らに跪いた游子の姿を見て慄然とするところで、つづくとなっている。
游子の秘密とは何なのか。
浚介は、游子と美歩、どっちを選ぶのか。
馬見原家の問題もまだまだ複雑だし、8月15日が7話で、10話か11話で終わりだと思うが、解決しないとならない家族問題が多すぎやしないか、すべての問題に決着がつくのか、心配になってきた。
あと、小姑トークだけれど、お医者さんに「ガンの可能性があります」って言わせちゃいかんでしょ。疑いとか心配とか危険性とかじゃないでしょうかね。
(木俣冬)