「熱闘甲子園」編集長インタビュー。番組は8月9日(土)より決勝戦まで、試合がある日は連日放送。
(右)宮崎遊(左)斉藤隆平

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今年も「夏の甲子園」が明日、8月9日に開幕する。そして甲子園をより深く楽しむために欠かせないのが、同日からスタートするおなじみ「熱闘甲子園」(ABC・テレビ朝日系全国ネット)だ。スマホ専用野球情報サイト『週刊野球太郎』では、「熱闘甲子園」の編集長を務めるテレビ朝日の宮崎遊さんと、元編集長の斉藤隆平さん(2006年〜2011年担当)の二人に今大会の注目点や番組の見どころをインタビューしている。今回はその内容から、エキレビ用として特別に番組秘話を聞いた。

◎長島三奈さんの経験や気持ちをうまく引き継いでいきたい

─── 今年の「熱闘甲子園」は、ナビゲーターの工藤公康さん以外のキャストが一新されました。今回、出演者を一新された狙いは何でしょうか?

宮崎 1998年、松坂大輔投手(現・NYメッツ)のいた横浜高校(神奈川)が春夏連覇を達成した年から、「熱闘甲子園」という番組をずっと支えてきたのが長島三奈さんでした。この番組はもう30年以上続いていますが、多くの方にとっての番組イメージは、98年以降、三奈さんを中心に作り上げてきたものではないでしょうか。その三奈さんが今年は番組に出演されないこともあり、これまで作りあげてきた大事な部分は残しつつ、また新たなチームで番組の歴史を築き上げていきたいということで、男性キャスターとしてテレビ朝日の三上大樹アナウンサー、女性キャスターとして同じくテレビ朝日の山本雪乃アナウンサーが加わりました。

斉藤 やっぱり、長島三奈さんという存在は本当に大きかったし、松坂投手との出会いは、三奈さんが高校野球に魅了される大きな要因の1つになったと思います。その後、栗山英樹さんが出演者に加わってさらに番組に奥行きが出て、2年前からは工藤さんにバトンタッチされ、今、まさにターニングポイントに来ている。新たに加わるアナウンサー2人は、「熱闘甲子園」が次のステージに進む上で重要になってくると思います。

宮崎 三上アナウンサーは高校時代、神奈川県立横須賀高校の野球部に所属していた元高校球児です。ただ、本人は「甲子園から一番遠かった人間です」と言っています。でも、球児の中でも甲子園という舞台に立てるのはほんの一握り。甲子園に出られなかった球児のほうが圧倒的多数です。そういう部分をよくわかっている人間が甲子園を伝えるのはひとつアリなのかなぁと思っています。

─── もう一人の山本雪乃アナウンサーは入社1年目の新人アナウンサーが抜擢!として話題になっています。

宮崎 彼女は、お兄さん2人が元高校球児で、兄弟バッテリーを組んでいたんだそうです。そして、お父さんは岡山県リトルリーグの会長。彼女自身は野球未経験者ですが、いわば野球一家で育ってきているんですね。そういう家って、たぶんお母さんがものすごく大変なんですよ。

─── 間違いなくそうだと思います。

宮崎 毎日ユニフォームを洗い、休日もみんな練習や試合に出かけちゃって家族サービスも全然ない。でも、人生も家族も生活も、全部野球でつながるようにできている。そんな環境で育った山本アナウンサーには、彼女の中にある高校野球、特にお母さんの風景なんかも伝えてくれたらなぁと期待しています。でも、二人ともそんな経歴だったというのは全く知らなくて、結果的に集まった形なんです。決まった後に聞いてビックリ!という感じで。それもまた、番組の持つ力だなぁと気付かされたところがあります。実は僕自身、松坂世代の元高校球児なんです。なので、長島三奈さんの経験や気持ちをうまく引き継いで、僕らだからこその高校野球を伝えていきたいと思っています。

─── 長島三奈さんが特にスゴかったところというのはどういう部分なんでしょうか?

斉藤 私は2006年から番組編集長を務めたんですが、その時にいろいろと教わった中で印象的だったのは、「強豪校や常連校を『甲子園に来て当たり前』と見てしまいがちだけどそれは違う! 毎年毎年別のチームなんだよ」ということです。彼らにとってはたった1度の夏。3年生にとっては最後の夏。2年生で出場した選手が翌年また甲子園に来たとしても、今度は3年生という違う役割でチームを引っ張ってやって来た「最初で最後の夏」なんだと。それぞれが違う立場で、まったく新しいチームで来ているんだから、取材も馴れ合いにならず、一回一回ゼロからしっかりやっていきましょう。ということはすごく言われました。

宮崎 あと、三奈さんは主役以外の球児の声も聞くことができる人なんですね。甲子園の試合前・試合後の取材時間で、三奈さんがいる場所はいつも背番号16とか、17、18番の選手のところなんです。他のマスコミがみんな1番とかキャプテンに行く中、あえてそこには行かずに二桁の背番号の選手のところに行って話を聞いて、それをちゃんと番組につなげてくれる。でも、松坂投手のようなスター選手からも「三奈さん、三奈さん」と慕われている。あのへんの広げ方、広がり方っていうのは、ちょっと普通では考えられないことでしたね。

◎ステレオタイプにスポーツを伝えられる時代ではない

─── 1998年の松坂投手の話が出ましたが、確か「熱闘甲子園」が発信源になって、「怪物・松坂」というフレーズが生まれたと思います。そういうキーワードのようなものは毎回用意されているんですか?

斉藤 最近はもう、そういうことはあまりやってないですね。短い大会だし、できるだけ端的な言葉でその選手の特徴やイメージにつながるものを、と、2010年くらいまでは用意していました。でも、やっぱり「熱闘甲子園」はヒーロー演出だけでなく、高校野球の裏側のドラマを、独自の目線で熱く伝えるのが大事だろうと原点回帰しました。これは「報道ステーション」の影響も大きいですね。

宮崎 そうですね。栗山英樹さんという「報道ステーション」のスポーツキャスターが「熱闘甲子園」も担当するようになったことで、この2つの番組が絡み合って、一緒に高校野球を盛り上げていこうという気運がすごく高まったんです。それが今も工藤さんに引き継がれていると思います。栗山さんが担当されるようになって、わざわざそういうキャッチフレーズをつけなくても「報道ステーション」がまずそのヒーロー作りを一緒に協力してくれるようになった。単純に言えば、栗山英樹が、工藤公康が「このピッチャーはすごい!」と言えば、あの栗山、工藤が褒めた選手だ、という役割を果たしてしまうわけです。

斉藤 そう考えると、やっぱり1998年というのがかなりエポックな年だったと思うんです。あの年は松坂大輔という希有な存在がいて、主人公演出が顕著になった年でした。

─── 脇もすごかったですもんね。

斉藤 そうなんですよ。その結果、ドラマチックな描き方というのが98年からより濃くなって、そこに「長島三奈」というリアクターがついた。それ以前はアナウンサーが務めていたことで、感情移入をしていくツールがひとつ足りなかったと思うんです、そこに三奈さんが入ることによって、感情的でドラマチックなドキュメンタリー番組として、主人公演出になっていきました。その一方で、ちょっと試合がわかりづらいんじゃないか、という部分も出てきた。そこで、2006年くらいから少しずつ変わっていったんです。

宮崎 今、我々に求められているのは、番組としての振り幅を広くしていくことだと思います。最近はもう、「今年はヒーロー目線で行きます」とか「今大会のテーマは〇〇です」というように制作側の意図で一括りにできるような時代じゃなくなっています。ある試合では誰かヒーローが出るかもしれないし、この日はドラマ性を打ち出した方がいいかもしれない。高校野球を伝える上では、その両方をいつでも出せるような引き出しと能力が求められる時代なんだと思います。それこそSNSもありますし、画一的に、ステレオタイプにスポーツを伝えられる時代じゃなくなっていますから。

─── 情報のサイクルが速いですからね。

宮崎 昔であれば、夕方のニュースで泣いている投手を見ても、何が起こったのかわからないまま、夜の「熱闘甲子園」で「実はこんなことが……」と明らかにできたんです。でも今は、携帯ツールベースで、いい話はすぐに拡散してしまう。じゃあそれを、映像も音声もあるテレビというメディアで、キャスターの目線も絡めながらどういう足し算をすれば見てもらえるのか、という部分が課題だと思っています。我々も、いろいろな思いも工夫も引き出しも使って勝負しなきゃいけない。そうじゃないと、皆さんが求めているような「熱闘甲子園」にはならないんじゃないかという危機感は抱いています。

─── ということは、仕事量も年々増えているんですか?

宮崎 仕事量は昔から忙しかったですね(笑)。忙しさは変わらないんですが、そこにプラス、番組の方針を決めるディレクターの瞬発力がすごく求められていると思います。今、これだけ情報が増えてくると、試合内容を見せるにせよ、ドラマを見せるにせよ、より勇気と潔さが必要です。だから、涙も伝えてヒーローも伝える、なんていう幕の内弁当的な作り方をしちゃうと、すごく厳しい。試合ごとに弁当の味を変えていかないと。

─── なるほど。

宮崎 あと忘れちゃいけないのは、結局すべては描けないんです。その試合の全部の主人公を描くことはできないし、もっと調べてみれば、勝ったチームにもっといい話があったのに負けチームの涙で行きました、というように取りこぼすところはどうしても出てきてしまいます。そんな万能じゃない自分たちを認めながらも、一番に伝えるべきものはなんなのかっていうところを、高校生と同じくらい真っすぐに貫いていかないと。だから、編集長である僕やその日のディレクターが、一回一回勇気をもってサインを出していかないと、いい番組にはならないんじゃないでしょうか。

◎球児たちのこの1年、このひと夏を大事にしたい

─── 今年の番組では何か新しい企画などはありますか? 

宮崎 タイトルはまだ仮なんですけど、「背番号19」という企画をやりたいと考えています。両輪をちゃんと扱いたいというか、グラウンドの中で戦う選手たちのストーリーを追いかけるのは今まで通りなんですが、もうひとつ、ベンチに入れなかった選手や、親御さんも含めたベンチ入りメンバー18人を支える人たちを立てたいと思っています。単純な話、各地区大会ではベンチ入りが20人だったのが2人減るわけですから、そこにもドラマがあると思うんです。そこをしっかり描いていきたいですね。

─── あと、今年は「甲子園90周年」ということも話題になっていますが、その辺の企画は?

宮崎 先ほどの三奈さんの話じゃないですけども、たとえば「〇〇高校、30回目の出場です」と言っても、選手たちにとってはたった1回の夏。あまり90周年とか、第96回とか、「熱闘甲子園」三十何年目とかもそうなんですけど、そういうのは球児たちに背負わせたくないなっていうのは個人的にすごく思っていることです。球児たちのこの1年、このひと夏を大事にしたいと思っています。

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(オグマナオト)