『まだ遠い光―家族狩り〈第5部〉』天童荒太/ 新潮文庫
毎週毎週、家族に関する、しんどいエピソードが山盛りの「家族狩り」(TBS、金曜22時〜/原作・天童荒太/脚本・大石静)だが、8月1日放送の第5話では、ようやく少し光が見えた。

伊藤淳史演じる美術教師・巣藤浚介が、不登校で引きこもり生徒・実森勇治(岡山天音)が家で暴力をふるっているところへ出向き、みごとに、彼と心を触れ合わすことに成功するのだ。

ながらく凶暴にふるまい続けていた実森の注意を引いたのは、なんと「裏DVD」だった。
男と男の人生は、そんな話で結ばれるらしい。

美術教師・浚介は、実森が天岩戸よろしく引きこもった自室の前で、ケータイメールを送り続ける。
10代のとき、引きこもっていて、高校にも行かなかったと、実森にカミングアウト。引きこもってるときの「たまんなさとかでていくきっかけがだんだんも見えなくなっていくことを知ってる」とメール。
だが、そう簡単に相手は距離を縮めてはこない。ひとしきり大暴れする。だが、「あなたの言葉が通じてるから反応してるのよ」と松雪泰子演じる氷崎游子がびびる浚介の背中を押す。さすが児童心理司。

彼女に励まされ、ふんばる浚介。高校行かずに東京に出てきて以来、親にも会ってないとヘヴィーな過去を明かし(彼が『家族』について懐疑的だった理由がここでわかる仕掛けになってる)、ついには、裏DVDとの出会いによって、救われたことまで告白。それが、実森の心を動かすのだ。
そういえば、教え子・渓徳(北山宏光)との関係もこれでつながっている節がある。浚介のコミュニケーションは、裏DVDで成立してるようだ。

さて、実森が、2階の部屋で大暴れして、階下で母親が恐怖に震え、部屋の前で、浚介も逃げ出したくなっているとき、氷崎游子の前向きさが印象的。「メールを見てるから反応してるんです。これはチャンスなんです」と闘う姿勢を崩さない彼女の姿に、怨霊や怪獣と壮絶な闘いを繰り広げるホラー映画か怪獣映画を見ているような気がしてきた。

結果、美術室で、裏DVDを見ようと約束し、朝、美術教師が珈琲、実森がレーズンパンを持参し、分け合いながら、裏DVDを見る場面は、ほっこりする。
「世界一の珈琲もってくるって先生言ってたから、ぼくもなにか美味しいものもってこなきゃって」と実森ははにかむ。
伊藤淳史と、DVDの同じところで反応して、顔を見合わせる、くすぐったさを、見事な間合いで演じている実森役の岡山天音は、20歳になったばかりの94年生まれ。ナイーブ系俳優として注目したい。

ふたりのふれあいシーンに、主題歌のandrop『Shout』がかかる。最初のフレーズ「ひとことの優しさが君を傷つけてしまう」が刺さった。

こういう光射す場面を印象づけるために、ひたすら、4話分もしんどいエピソードを積み重ねてきたとしたら、辛抱強いぜ、制作陣。

が、しかし、そのひとときの平穏は、あっという間に終わってしまう。
美術室に入ってきた、おなじみ「わたし生むから女」美歩(山口紗弥加)と生徒たちが、無神経な言動で、実森の心を乱してしまうのだ。
おとなしくなった怪獣がまたしても凶暴に・・・というところで、つづく。
8月8日の第6話が気になる! という流れになっている。

それにしても、生むから女は、ろくなことをしない。自分が担任だった生徒にもかかわらず「だれ?」という反応をする始末だ。
浚介は、こんな女と結婚するのは絶対にやめたほうがいいと思う。

実際、実森救済作戦において、游子とのコンビプレーが功を奏している。
游子は、「神様から使命を与えられて生まれてきた人なんだよ」と浚介を褒め、浚介は「氷崎さんといると違う自分になれるんだ」と言う。これ、本来ならば、めっちゃラブラブじゃないですか。

でも、生むから女が、游子に牽制かけているので、游子は浚介に対して引いてしまっているのだ。
ふたりの今後が気になるところへ、認知症のお父さん(井上真樹夫)は「愛とは奪いとるものだ」と発破をかける。
本来、そうだ、そうだ、いけいけ、生むから女いてこましたれ、というところだが、このドラマに関しては、ちょっとそれはどうなの? という気もしないではない。ほんとうの優しさとか愛とかを、人と人との関係に見つけようとしている話だと思うのに、略奪愛みたいな猛々しさを持ち込むと、起動が少々ズレてしまいやしないか。
実森の部屋のドアにアニメ(漫画?)のシールが貼ってあるのも、何かよけいな印象を与えてしまう感じがしないでもない。
このあたり、制作者の意図がちょっとまだわからない。なにしろ、連続殺人事件の犯人もまだ誰だかわからず、遠藤憲一演じる刑事・馬見原もあやしい? なんて説も出てきて、後半に向けて、揺さぶりをかけてきているところだ。
プロデューサーの植田博樹は「SPEC」などでも、最初、理解に苦しませておいて、後々なるほどーと思わせてくれるので、後半戦も見守っていきたい。
(木俣冬)