巡礼者たち―家族狩り 第4部 (新潮文庫) 
天童荒太

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なぜこんなことを!?と、毎回、目をそむけたくなるようなシーンがある「家族狩り」(TBS金曜10時〜)。
7月25日放送の4話では、なににぞっとしたかというと、「私生むから女」・美歩(山口紗弥加)に取り込まれている美術教師・巣藤浚介(伊藤淳史)が、その「私生むから女」と結婚しようと言い出すことです。なぜ!!
しかも、生むから女、妊娠していなかったのです。嘘をついて結婚を迫っていたのに。なぜ!!

4話では、親に刃物で切りつけたり、激しい暴力をふるったりする、おそるべき子供たちの姿が描かれましたが、その行為よりも、生むから女と結婚しようとすることのほうが神経疑います。

浚介は、3話で、ホームレスに火をつけていた若者に注意したせいで、自分まで燃やされそうになって、そのショックでしばらく記憶を失ってしまいました。しばらく入院後、回復したようでいて、その実、ちょっと記憶に変調をきたしてしまったのではないか、と心配になります。

でも、理由がないわけでもないんです。火だるまになりかかった彼を助けてくれたのが、誰あろう「生むから女」だったのです。だから、子供はできていないにもかかわらず、彼女と結婚することを浚介が考えはじめたのは、恩返しの気持ちなのかもしれません。
自分を助けてくれた人と歩んでいこうとするというパターンは「キャンディ・キャンディ」のテリィみたいですね(例えが古いか)。

狙った男の人生を、自分に引きつけていく「生むから女」の猛進ぶりは、「家族」とは何かを考えさせますし、それはある種の妥協である、とさえ感じさせます。
見舞いに来た、浚介の教え子・渓徳(北山宏光)による達観したかのような台詞は、その考えを一層強くさせました。
「(人生にいろんな可能性があったとはいえ)ベイビーができたら、
自分はどうであれ、腹くくって『親』っていうキャラを受け止めなきゃいけないっすよ。命ってやっぱひとつの人生じゃないですか。受け止める側もハンパなことするわけにはいかないっす」

デキ婚している渓徳は、愛とか運命によって「家族」ができるなんていう甘い幻想を打ち砕きます。彼にとって「家族」とは、生活の場で、人としての役割を全うするための便宜上の関係でしかないのかもしれません。
ただ、渓徳の場合は、ベイビーをつくる前にもう少し慎重になれば、まだたくさんの選択肢があったのでは? とも思わないでもありませんが。

「生むから女」美歩も、これほどまでに浚介との結婚を待ち望み、病院で最初に名前を呼んだ氷崎游子(松雪泰子)を恋敵と思い込むわりに、浚介が絶対的に愛する人ではなくて、筋肉馬鹿の体育教師に乗り換えようかとも考えていました。ちゃっかりしてるー。その一方で浚介のこともしっかりキープしています。こんなふうにがんばらないと「家庭」って築けないのでしょうかねえ。

そんな「生むから」美歩を嫉妬させる、「バンバン(叩く)」游子。ふたりが対峙するところも、ぞっとするものがありました。浚介が、自分のことは覚えていないのに、游子のことは覚えていたことに対して、あからさまに敵意をむきだしにする美歩と、全然意に介さない游子。
游子、仕事のことになると、ムキになって「バンバン」するけれど、恋愛の愁嘆場にはまったく興味なく、かなり冷たいです。妙に、浚介とだけはうまが合うようですが、本人たちにはまだ自覚がないんですね。

児童心理司の仕事に熱意を注ぐ游子でしたが、職場をクビになりかけます。アル中でDVのシングルファーザー駒田幸一(岡田浩暉)が、娘を奪われ、会いたくても面会もさせてくれないことに対して裁判を起こすと言い出したからです。
訴えてもいいと開き直る游子に、困り果てる上司。
游子は、いま、子供を彼に返したら、なにかのはずみで殺されてしまうかもしれないと心配しているんです。上司は、殺すような人じゃないと楽観的ですが、アル中ってわからないですからね。お酒がはいると人が変わってしまいますからね。
「わたしはもう失敗はできないんです 人を殺してますから」と深刻な顔をする游子。かつて、楽観視して、取り返しのつかないことをしてしまったのでしょうか。
思い詰めた彼女の表情に、人間なのか獣なのかわからない叫びみたいなSEがかぶって、ぞっとさせます。
家に帰ってきた浚介を、回転椅子に座って待っていた美歩が、後ろ姿から前にくるーっと向いたときにも、声のようなSEがかぶりました。こっちは完全にホラーを意識していました。
そういえば、前クールの「アリスの棘」でも、女性の叫びみたいな音が効果的に使われていました。最近の流行?

それにしても、生むから美歩とバンバン游子。どっちの内面が本当にこわいでしょうか。

刑事・馬見原光毅(遠藤憲一)は、游子が家族惨殺事件の犯人だと疑っていて、完全犯罪を行っていると。そして、無料イベントで、殺す家族を探していたとふんでいます。
游子を演じる松雪泰子は、苦悶の表情が美しいです。映画「脳男」や「この空の花ー長岡花火物語」などでも、彼女の悩ましい表情を堪能できます。

4話の最後、お父さんの胸部に切りつけた美少女・芳沢亜衣(中村ゆりか)が顔にアフリカの呪術師か歌舞伎俳優かというようなメークをしていたのもこわかったですねえ(淀川長治か)。5話では、どんなことでぞっとさせてくれるでしょうか。
(木俣冬)