『プロ野球お金にまつわる100の話』(凡田 夏之介、週刊ベースボール/ベースボールマガジン社)
人気野球漫画『グラゼニ』と野球専門誌「週刊ベースボール」がまとめた、プロ野球のお金にまつわるエトセトラ。

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6月。ご多分にもれず結婚式が多い。
おめでたいこととはいえ、ご祝儀の連続はフリーランスの身にはなかなか厳しい。
で、ふと思う。
高給取りの人って、いったいいくら包んでいるんだろう?
たとえば、プロ野球選手とか。

答え:あんまり変わらないみたいです。

この素朴な疑問に答えてくれたのは凡田夏之介。「お金」視点でプロ野球を描いた漫画『グラゼニ』の主人公だ。その凡田が「週刊ベースボール」とともに編著した(という設定の)『プロ野球お金にまつわる100の話』の中で回答が記されている。

選手がチームメイトの結婚式で包むご祝儀は世間一般とほぼ同額で約3〜5万円。これはレギュラークラスであっても控え選手であっても、年俸やチームでの立場も関係なくの相場だという。なぜなら、高給取りのレギュラー選手が数十万円もご祝儀を包んでしまうと、逆の立場になったとき、補欠選手の肩身が狭くなってしまうからだ。

一方で、コーチが包むご祝儀の相場は平均5万円。監督になると平均10万円。この辺も、上司や上長になるほどご祝儀の金額が増えていくサラリーマン的でおもしろい。

本書『プロ野球お金にまつわる100の話』はそのタイトルどおり、契約金や年俸はもちろんのこと、球団経営にかかわる数十億単位のお金の話からご祝儀や日々のお小遣いといった数万円単位の話題まで、球界にまつわるさまざまな「お金の話」を一冊にまとめたものだ。

なかでもやっぱり白眉なのは年俸交渉の悲喜こもごもだ。

若手選手から「もっと粘って、年俸を上げてください。でないと僕らも上がらないから」と懇願されて人生で初めて保留したものの、オーナーから「おまえ、トレードで他の球団に行きたいのか?」と言われて反論もせずにサインした小さな大打者・若松勉(元ヤクルト)。

祖父が作成した200ページにもおよぶデータ集を持参して年俸交渉に臨み、当初の提示額よりも300万円の上積みを勝ち取った館山昌平(ヤクルト)。

打率.230にもかかわらず、チーム一のヤジ将軍としての「声出し料」をアピールして300万円アップを勝ち取った下山真二(元オリックス)。

そして交渉中に激怒して机をどんどん叩きまくった中日時代の星野仙一(現・楽天監督)に対して、最後は必ず机に両手をついて「お願いします!」と頭を下げた巨人時代の中畑清(現・DeNA監督)などなど。ある意味で、プロ野球戦選手としての“個性”が如実に現れる瞬間でもある。

そんな中で私が一番興味をひかれたのは、凡田夏之介のモデルといわれ、80年代後半から90年代前半にかけて活躍した清川栄治(元広島、近鉄)のケースだ。

貴重な中継ぎ左腕だった清川は、監督やコーチから「グラウンドにはゼニが埋まってるんだ。ワンポイントリリーフで1億円はつかめないかもしれないが、5000万円ならつかめるぞ」と励まされていた。ただし、80年代当時は今に比べてもまだまだ「中継ぎ投手」への評価そのものが低い時代。どんなにいい成績をおさめても年俸はなかなか上がらない。

そこで清川が取った作戦は、懇意にしている新聞記者から集めた独自の記録集を持参して契約更改に臨むこと。中でも役に立ったのが“インヘリテッド率”という数値だった。

自分の登板時に生還した走者の数を、前の投手から引き継いだ走者の数で割る、という“インヘリテッド率”は、数字が低いほど引き継いだ走者を返していないことを意味している。ピンチでマウンドに上がることが多いリリーフ投手の能力を示す最適なデータだった。

清川は「週刊ベースボール」の記事でたまたま見つけた“インヘリテッド率”を「自分が生きる道はこれだ!」と分析。自分の登板した全ての試合を記録した資料に付け加えた。

果たして、この資料を見た球団社長は「おまえ、自分の仕事に自覚を持ってやってるな」と興味を示し、見事に年俸アップにつなげたという。

本書では、清川自身のコメントも紹介されている。
「個人的に思うのは、プロ野球選手は個人事業主ですから、年俸が選手の評価となります。だからこそ、自分自身の評価の尺度は自分で持っていた方が良いと思います。そして、しっかり話し合って、1円でも多くもらうべきでしょう。プロの一番の評価は年俸なのですから、そこにはこだわるべきです」

プロ野球選手に限らず、我々フリーランスにとってもその姿勢からは学ぶべき点は多い。

それにしても、「週べ」の記事がなければ清川の年俸交渉は成功せず、さすれば清川をモデルにした『グラゼニ』という作品も生まれなかったのかもしれない……と考えると、お金がもたらす縁の深さを痛感するばかり。「週べ」と凡田夏之介がタッグを組んで本書『プロ野球お金にまつわる100の話』を編著したのは、何とも運命的なことだったのだ。(オグマナオト)