大手新聞社なら載せなければいけない最新重要ニュース、なのにローカル紙はそれを書かない。なんで?『書かずの753』は、「書かない」ことによって伝わる、地域密着型のジャーナリズムについて描いた異色作。

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こんにちは!
エキレビ北海道支部、たまごまごです。

北海道ではそれぞれの地域に、ローカル地方新聞があります。
もちろん東京の新聞とか、「北海道新聞」も読むよ。それと別に存在しています。
大手新聞社の記事は最新のニュースてんこ盛り。
しかしローカル紙は、世界や日本のニュースよりも、除雪情報やクマ注意報なんかが大きく載ったりします。

相場英雄×中山昌亮『書かずの753』は、ローカル地方新聞社の情報の選びかたを描いた作品です。
主人公は大手新聞社で記者賞をもらっているエリート女性記者の戸塚。最先端のニュースを提供する立場でした。
ところが彼女が飛ばされたのは、北海道札幌の、地元ローカル弱小新聞社。
彼女はここで「ジャーナリズム」と「ローカリズム」の大きなギャップを目にします。

例えば、気象庁が北海道の大雪情報を流したとします。
そこで着任したばかりの戸塚が書いたのは「知事が自衛隊に災害派遣要請。記録的豪雪に迅速対応、全道で臨戦態勢へ」。抜き(どこよりも速い情報)のスクープです。
しかしそれはボツ。
トップに掲載されたのは、冴えない七五三(なごみ)という記者が書いた、「避難所情報、経路一覧」。
地元の人は最新のニュースよりも、生きるために必要な情報がほしい。だから、この新聞には戸塚の記事は掲載されなかった。

例えば、札幌の女性銀行員が行方不明になった。事件ですね。
これが「元ミス北海道」となれば、絶好のネタです、内地(本州のこと)の新聞社も食いつくでしょう。「失踪の美女、手がかりなし」「元ミス北海道謎の失踪?」。
戸塚は、その女性が東京に向かう様子が空港で監視カメラに写っているという情報を手に入れます。これは大スクープです。書くしか無いでしょう。
しかし、彼女は悩んだ末書きませんでした。
新聞社的には大損じゃないのか……?

編集長の意見はこうです。
「ウチが抜きネタ書いてそれを他社が後追いしたら、彼女はまた、東京でも居場所なくすんでねぇのか? 『生きている』それだけで読者を納得させる記事ば書いてみろ」

地方新聞に慣れてきた彼女が考え、書きあげたのは、なんとニュース記事ではなく、コラムでした。
タイトルは「美人は損な役回り?!」。
美人失踪と騒がれる新聞界隈の中で、事件の真相を知っているにもかかわらず、書かなかった。
なぜかは……読んでみてください。

わかりやすく描くため札幌が舞台ですが、おそらく想定されている新聞はもうちょっと地方(宗谷とか十勝とか)のものでしょう。
新聞は「新しい情報が書かれる」ことや「真相を究明すること」が重要です。
ローカル紙は「地元の皆の気持ちを汲み取ること」が重要です。
地元の人の気持になれば、書かないことで、伝わるものがある。

にしても、ぼくはずっと、もう新聞は電子でいいじゃん!と思っていました。
しかし作中で、「市場も漁場も水仕事だべさ。濡れたら壊れるものなんか、持って歩けないわ。紙なら濡れたらかわせばいいだけだべ?」というセリフを見て、目からウロコ。
団地住まいの老人が新聞を取りに行っているかどうかで、元気かどうか確認できるというのにはもうね。そういうのもあるのか。
紙の地方誌は、そこに人がいる限り、必要だ。

相場英雄×中山昌亮『書かずの753』
(たまごまご)