「今年の巨人は強い」

 開幕前、多くの評論家から聞いた言葉だ。3月27日にWeb Sportivaで掲載した『解説者7人が順位予想。巨人、ソフトバンクの独走を止めるのは?』でも、7人全員がセ・リーグの1位に巨人を予想した。ある評論家は、「4月でセ・リーグは終わってしまうかもしれない」と巨人の独走を危惧していたほどだ。

 昨年、巨人は日本一こそ逃したもののセ・リーグ連覇を達成。オフにはFAで広島の大竹寛(通算74勝78敗17S、2013年終了時、以下同)、西武の片岡治大(通算打率.271、271盗塁)を獲得し、中日を自由契約となった井端弘和(通算1807安打、ゴールでグラブ賞7回)を入団させるなど、大補強を行なった。これによりチーム内に激しい競争意識が芽生え、さらに原辰徳監督の「我々は挑戦者ですから」という謙虚な姿勢。隙を探そうと思ってもどこにもない。開幕前の巨人はまさにそんな印象だった。

 実際、開幕当初は順調な戦いぶりを見せていた。10試合を消化した時点で7勝3敗。昨年の開幕7連勝ほどのインパクトはないものの、「巨人強し」を印象付けるには十分な戦いだった。

 だが、徐々に歯車が狂いはじめる。その先陣を切ったのが、スコット・マシソン山口鉄也西村健太朗による勝利の方程式「スコット鉄太朗」の不調だった。ひとりならまだしも、3人とも様子がおかしいのである。昨年と今季(成績は4月27日現在、以下同)の防御率を見てみたい。

マシソン/1.03→7.07
山口鉄也/1.22→10.29
西村健太朗/1.13→3.97

 ここまでくれば、もう立派な崩壊である。山口にいたっては、昨年64試合に登板してわずか12失点だったのが、今年は9試合ですでに8失点。4月27日の広島戦でも延長11回裏、エルドレッドにサヨナラ3ランを浴びるなど、いまだ復調の兆しを見せていない。それに代わる投手もおらず、皮肉なことに大竹の人的補償で失った一岡竜司が広島のセットアッパーとして大活躍。逃した魚の大きさを痛感する日々である。

 さらに、チームの精神的支柱である阿部慎之助の不振。4月5日の中日戦で左ふくらはぎに死球を受け途中交代。その後、数試合を欠場するなど症状は軽くない。死球の影響なのか、バットも湿りがちでここまで打率.208、本塁打4。打点にいたっては20試合に出場して6しかない。4月25日から行なわれた広島との3連戦でも11打数2安打と振るわず、いつになったら「最高で〜す」の雄叫びを聞けるのか、ファンはやきもきしている。

 それだけではない。内海哲也、杉内俊哉の両左腕が大ブレーキ。ふたり合わせてまだ1勝しか挙げていないのである。内海に関しては、巨人の球団関係者が、「いつも明るい内海が、今年はおとなしい。開幕を菅野(智之)に奪われたのは相当悔しかったと思うよ」と語るように、まだ開幕のショックを引きずっている可能性もある。

 そんな青色吐息の巨人をかろうじて支えてきたのが、新戦力や若手たちだ。新外国人のレスリー・アンダーソンは、キャンプ中は守備の不安を指摘され、バッティングも「?」がついて回ったが、シーズンが始まるや大爆発。常に打率は3割を超え、4月26日の広島戦では巨人軍の第79代4番打者に指名された。

 また、阿部の穴を埋めたのが、新人の小林誠司。開幕前、解説者の槙原寛己氏に「巨人に不安があるとすればどこか?」と聞くと、「阿部が離脱した時」と答えた。阿部がいなくなると、チームが機能しなくなるという指摘は、ここ数年ずっとあったが、死球により戦線離脱した時、ルーキーの小林は阿部が抜けた穴を見事に埋めたのだ。その活躍ぶりは、「阿部のデビューの時よりも堂々としていた」と原監督が絶賛したほどだった。

 そして開幕投手に指名された2年目の菅野智之も、ここまで5試合に先発して4勝0敗、防御率1.40の快投を演じ、エースと呼ぶに相応しい活躍でチームを救った。

 彼らの活躍がなかったら......いや、ちょっと待て。先発二枚看板が勝てず、リリーフ陣は総崩れ、主砲までもが不振。普通のチームのチームだったらBクラスはおろか、最下位だって不思議じゃない。なのに、こんな状態でありながらも5つも貯金を作っていること自体が驚異、いや脅威である。つまり、貯金は「たった5つ」ではなく、「5つも」なのだ。

 たとえ、今のチーム状態が続いたとしても1カ月に5つぐらいの貯金は作ってしまうチームなのだ(単純計算でいくと6カ月で貯金30)。そのうえ、この先、間違いなくリリーフ陣は整備され、実績のある阿部だって復調してくるに違いない。内海や杉内にしてもしかりだ。はたして彼らが従来通りの実力を発揮すればどうなるか。貯金5どころで済まないことは、火を見るよりも明らかである。

「何とか独走だけは......」。そう願う他球団のファンのためにも、まだ巨人が"普通のチーム"でいてくれているうちに、何としても叩いておかなければならない。今年の巨人は解説者たちの想像をはるかに超える強さを持っているのだから。

スポルティーバ●文 text by Sportiva