(Photo by Michael CohenGetty Images)

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 「敵に弱みを見せるな」が戦士の基本だと、どこかで聞いたことがある。けれど、今季、とりわけ最近の石川遼を眺めていると、自分の欠点や弱点を見つけ、認識し、それを口にし、そして克服しようとしていることで、逆に彼はどんどん強くなっていると思わずにはいられない。
遼、池に片足入れショットで執念の8位タイも…マスターズは遠のく
 まだ手にしていない今年のマスターズの出場権を目指して、石川が今、必死で奮闘していることは、すでにご存じだろう。かつて、彼がマスターズ委員会から特別招待を受けて出場したときは、あちらこちらから批判の声も上がった。
 だが、そんな中で石川は「マスターズを目指すというのは初めてなので」というフレーズを堂々と口にしている。彼自身が言葉にすることで、人々の胸の中のどこかに残っているかもしれないわだかまりも消えていくだろうと思えてくる。
 米ツアーの正式メンバーとして本格参戦を開始した昨季。なぜシード落ちの危機に瀕するほど成績が低迷し、苦しんだのか。そのあたりの事情をほとんど知らない米メディアたちが、今週の初日を2位発進した石川に単刀直入に尋ねた。すると、石川はまたしても素直に、自らのここがいけなかったのだと語ってみせた。
 「1年前はショートゲームで混乱していた。子供のときからショートゲームは大好きで、15歳、16歳のころは、もっと飛んでいたし、ゴルフがもっと簡単だった。でも去年は混乱してしまって、腰痛もひどくなって、苦しい日々だった」
 こう言えるのは、石川がすでにショートゲームの混乱から抜け出しているから。そして、ゴルフの難しさを痛感させられているとはいえ、その難しさを楽しむことができるようになっているからだろう。
 日本で国民的スターの扱いを受け、マスメディアで引っ張りだこになってきたというのに、3日目の朝はテレビのインタビューで緊張してしまったと明かした。
 「朝の練習場で、こっちのテレビからスタート前のインタビューというのを初めて受けた。いつもと違う雰囲気、いつもと違うルーティーンになっちゃって、前半は(緊張で)硬さがあった」
 昨季の不調で、日米どちらのメディアからの取材も激減していた石川。だから余計に、この日の朝のテレビカメラに感じるものがあったのかもしれない。が、それも、こうして言葉にしてしまえば、ご愛嬌。人間らしさが溢れ出る石川は、日米どちらのメディアからも可愛がられる一方だ。
 池というハザード一つ取っても、向き合う姿勢にはずいぶん変化が見て取れる。以前の石川は、無謀と思える状況でも池越えのルートを狙い、やっぱり池につかまって肩を落とした。それでも彼は「逃げたくはなかった。池そのものは日本にもたくさんあるわけだし……」と、あの手この手でエクスキューズさえした。無暗な攻め方や経験の乏しさをメディアから追究されたくなかったのか、それとも自分自身の未熟さを認めたくなかったのか。
 だが、今週の石川は堂々と、こう言っていた。「池がグリーンのすぐそばまで来て、池が効いているというのは日本ではあまりない。こっちには、そういう池がたくさんあるけど、やっと徐々に慣れてきている感じがする」
 それは、かなり謙虚な表現で、現在の石川は、米ツアーならではの池に慣れてきたどころか、十分に攻略しうるマネジメント力と技術力を備えている。その証となったのが、今週の3日目と最終日の双方の18番で見せた第2打のスーパーショットだった。3日目は右ラフの立ち木のさらに右から3Iで池越えのショートカットを成功させ、ピンチからパーを拾った。最終日はフェアウエイからピン80センチに付ける見事なショットでバーディフィニッシュ。
「100%自信が持てるショットが打てた」
 石川は、ようやく最後に、自らの弱さではなく、自信の持てる強さを口にした。
「今が一番、技術的にも精神的にも充実している。今が一番、成長できている」
 弱さを見つけ、弱さを認めるからこそ、克服していく力が生まれ、強くなる。今の石川は、そんな石川になりつつある。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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