「30歳下の奥さんをもらうコツ?それがわかったら、誰も苦労しないよ」と笑う杉田成道氏

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名作ドラマ『北の国から』の演出家として知られる杉田成道(すぎた・しげみち)。彼の最新原作・脚本映画作品『ジョバンニの島』が現在、絶賛公開中! 

徹底的に兄弟と親子の「愛」にこだわった感動的なこの作品の舞台裏、そして、自身は60歳を超えて父になるという人生経験を持つこの巨匠に、結婚願望が最近空回りしている本誌記者が「愛」の流儀を聞いてみた!

■「家族愛」最近、感じてますか?

―まず、初めに言わせてください。杉田さんの最新原作・脚本映画作品『ジョバンニの島』。本当に最高でした。しばらく涙が止まりませんでした!

杉田 北方領土・色丹島(しこたんとう)での終戦直後のソ連進駐をめぐる、兄弟・親子の実話をもとにした話です。リアルな物語だからこそ感動も大きかったんじゃないですか。

―なぜ、北方領土というテーマを?

杉田 先ほども言いましたが、この作品は得能(とくのう)宏さんという色丹島出身の方の実話体験に基づいているものなんです。その得能さんの話を聞いたときに、これは後世に残さないといけないテーマだと。ただ……実写映画化をしようと思うと予算やロケ地などのいろんな問題があって。6年近く温めて、アニメというかたちでようやく残すことができました。

―最近、戦争をテーマにした映画がはやっていますが。

杉田 自分は戦争をテーマにしながらも一方的な「善」「悪」を描きたくはなかったんです。だから、ソ連兵が一日にして島民の幸せをすべて奪ってしまった残酷な面を描きながらも、一方で、主人公がソ連兵の娘と恋に落ち、その家族の温かさに触れるというエピソードも盛り込んでいます。ソ連側にも家族があり、そこにも愛があった。あくまでこの作品で伝えたかったテーマは「愛」なんですよね。

―その「善」「悪」の両面が描かれているからこそ、感動が増幅した感があります。特に、ソ連の娘の父親が、主人公の父親を謀反者として連行し、樺太の収容所に送るシーン。大好きになった女性の父親が、自分の父親を……。あまりに残酷かつ無情で、涙があふれて、あふれて……。

杉田 まさに狙いどおりに感動してくれていますね(笑)。

■巨匠が語る「涙」の演出の裏側

―この作品に限らず、杉田さんの演出はとにかく「涙」を誘うものが多いんですが、それを引き出す演出のコツってあるんですか?

杉田 コツというか、人がドラマで涙を流したり、感動したりするときって、その登場人物と自分を重ね合わせているんですよ。例えば、ドラマの中で誰かが死んだから悲しいんじゃなくて、自分の恋人とか両親、兄弟が、もしそうなったら……と心のどこかで思って泣いているんです。だから人生経験が多ければ多いほど、自分と重なり合うシーンが多くなり、感動もしやすくなる。「年を取ると涙もろくなる」という言葉は理にかなっていますよね。

―なるほど! 意識はしていなかったのですが、そういえば自分もこの『ジョバンニの島』を主人公の兄の目線でずっと見てました。僕は実際に弟がいる長男なので。

杉田 そう。自然と自分自身や自分の経験を重ねて見ているものなんです。もちろん私も「涙」を誘う演出は自分が経験したこと、伝え聞いたことのなかから引っ張ってきています。

例えば『北の国から』での純の初恋相手、れいちゃんとの別れのシーン。これも、とある人のエピソードをもとにしています。

その人は、過去に同棲していた相手が急に部屋からすべての荷物を持って消え去ったそうです。でも、部屋にスリッパだけがポツンと残されていた。そのスリッパがいつもは玄関に向かって脱がれているのに、その日はぶっきらぼうに部屋のほうを向いていたそうです。きっと最後に空っぽになった部屋を振り返って、いろいろ考えたんだろうなと想像して涙が止まらなかったと……。

それで、その話を拝借して、れいちゃんがふたりの思い出の小屋を去るときに、ぬかるんだ地面の足跡がポツンと1ヵ所だけ逆になっているというあのシーンが生まれたんです。

―感動の名シーンですよね!

杉田 ほかに感動の演出で気をつけているのは、感情の爆発の前に「タメ」をつくることです。今作では、危険を冒してまで収容所にいる父のもとに現れた息子たちを、父は最初、怒るんです。「あぶない!」と。しかし、その後、沈黙が続き「ありがとう。大丈夫だったか?」と感情が爆発し、鉄条網に引っかかりながらも必死に手を伸ばして息子たちに触れようとする。

―そこ、号泣しました。

杉田 このシーンは沈黙が大事なんですよね。伝える相手、映画でいうと観客にいろいろと考えさせる時間をつくることで感動は増します。皆さんも告白などをするときはストレートに伝えるのでなく、タメをつくって爆発させてみてはいいんじゃないですか。

―ありがとうございます。ちなみに、そんな「涙の巨匠」がオススメする「泣ける作品」を教えてください!

杉田 ずっと言っているように、泣けるかどうかはその人次第なのですが、私が作品を録る前にいつも参考にしている映画は『自転車泥棒』(1948年・イタリア)です。貧しい親子の話なんですよ。

―ここでも、親子愛ですか!

■30歳年下のファンと結婚。その真意は?

―さて、親子の話が出ましたので、ひとつ質問を。結婚って、したほうがいいんですかね?

杉田 当たり前です(即答)。なぜ、そんな質問を。今の若い人たちは「他人との摩擦」を恐れているように思うんですよね。他人と関わりたくないとか、もめたくないとか。結婚したら、そりゃケンカをする機会も増えるだろうし、面倒くさいことも多くなる。でも、その「摩擦」こそが人を大きくするんです。もちろん、それは下半身の摩擦もそう。もっとたくさんセックスもしたほうがいい。

―実は、私もそのひとりです……。なるべく人と関わらず、事なかれ主義で生きていきたいので。

杉田 ドーンとぶつかったほうがいいですよ。

―お話に重みがあります。ちなみに、杉田さんは前の奥さんとの死別後、7年たって30歳年下の熱烈なファンの方と結婚されたそうですが?

杉田 そうです。57歳のときに27歳の妻と再婚しました。60歳を超えて3人のパパになりましたよ。人生は本当に何が起こるかわかりません(笑)。周りからは完全に犯罪者扱いです。私が30歳のときに生まれた相手ですから。



―ちょうど、自分が今30歳なので……それを考えるとスゴイですね! 還暦後にパパになるって大変じゃなかったですか?

杉田 まさか60歳を超えて赤ちゃんのおしめを替えることになるとは思わなかったですよ。あとは、やはり周りから「おじいちゃんと買い物。いいですね」と言われたり、恥ずかしかった記憶もありますが……何事も人生経験です。

―あのー。ちなみに、年下の女性にモテる秘訣(ひけつ)のようなものを教えていただけないでしょうか?

杉田 それがわかれば、誰も苦労しません(笑)。私だって、妻になぜそこまで好きになられたか不明です。ただ……モテる人はなぜモテるかを考えたことがないと思うんですよ。自然と女性が近寄ってくるから。なので、「こうすればモテる」と自慢げに語っている人は本当に魅力的な人間ではないような気がします。

―なるほど。自分なんかは「モテ術」なんかをけっこう深く読んでしまうほうなんですが……。

杉田 こんなことを言うと年寄りの戯言(ざれごと)のようですが、昔は週プレのような週刊誌の内容も知性が感じられましたよね。恋愛相談のひとつをとっても何か深みが感じられるというか。今はそういうのがはやらないんですかね(笑)。とにかく手っ取り早く結果が求められる時代なんでしょうね。

―耳が痛いです。すみません……。では、そんな若者たちに向けて。杉田さんが、若いうちにこれだけはやっておけ!!と言っておきたいことはありますか?

杉田 うーん、なんだろう。パッと思いつかないんですが、何度も言うように人生経験は豊富であればあるほどいいと思います。俳優によく言うのは、経験がないといい演技ができない。こちらがいくら説明をしたところで、自分にその引き出しがないとうまく表現ができないですから。なので、私はオーディションでは演技のうまいへたはあまり見ないんです。それよりは、その人の経験からにじみ出るオーラのようなものを感じ取って決めるようにしています。もちろんある程度の段階までいくと、役にはまるかどうかも見ますけど。

―そのオーラってどのようなものですか?

杉田 「ヨレた」感じかな(笑)。こういうことを言うと怒られちゃうかもしれませんが、大女優さんはみんなある種の「ヨレ」があるんです。そういえば、今はやっているAKBのミュージックビデオ(『GIVE ME FIVE!』)の監督もさせてもらったことがあるんですが、なかにいいコがいましたねぇ。「ヨレ」の話をした後なので名前は出せませんが……。

―とても気になりますが……時間になりましたので、最後に読者に向けてひと言お願いします!

杉田 この映画『ジョバンニの島』は若い世代の人たちに見てほしいがために作りました。誰もが経験したことのある子供時代の不安や希望も描かれ、きっと感動できる作品になっていると思います。人生経験のひとつとしてぜひ。

●杉田成道(すぎた・しげみち)

1943年生まれ、愛知県出身。67年フジテレビジョン入社後、主に演出家として活躍。81年より、国民的ドラマ『北の国から』シリーズを手がける。このたび、映画『ジョバンニの島』の原作・脚本を担当。還暦を前に30歳の“年の差婚”をする経歴も持つ

■杉田成道氏原作・脚本作品

『ジョバンニの島』

絶賛全国ロードショー公開中!

終戦間近の色丹島で暮らす、兄の純平(10歳)、弟の寛太(7歳)、父・辰夫、祖父・源三の家族。ソ連の侵攻により日常が奪われ、父は収容所に送られてしまう。声優に市村正親 仲間由紀恵/北島三郎

■原作本『ジョバンニの島』(小社刊)も絶賛発売中!

【http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-780714-1&mode=1】

(撮影/高橋定敬 デザイン/中山真志)