転職4回の男が明かす どんな職場でも通用する対人スキル

写真拡大

 「人の役に立つ仕事をしたい」「ビジネスで世界をいい方向に向かわせたい」という志の高い学生・社会人のなかにはいずれは起業したいと考えていたり、実際に計画を練っている人がいるはず。
 『「世界をよくする仕事」で稼ぐ』(プレジデント社/刊)の著者、大澤亮さんは、ビジネスのスキームを使って持続的な途上国支援を目指す株式会社ピース トゥ ピースの創業者。
 本書を読むと、大澤さんがいかに自分の事業を周到に準備し、それを実現させるためにキャリアを積んできたかわかります。
 今回はその大澤さんにお話をうかがい、起業を志したきっかけや、一見脈絡のないキャリアについてお話をうかがいました。注目の後編です。

―大澤さんご自身のことについてもお聞きしたいのですが、「ピース トゥ ピース」は大澤さんにとって5社目となる会社です。仮に、今よりももっと大きな社会貢献ができるアイデアを思いついたとしたら、さらに別の会社を立ち上げたりということもあるのでしょうか。

大澤:今のところさきほどのshAIR含め、「ピース トゥ ピース」で自分のやりたいことができているので、何か新しいことをやるにしてもこの会社の中でやると思います。ファッションや教える・学ぶ人向けのプラットフォーム事業だけでなく色々なプロジェクトがある面白い会社にしていきたいですね。

―さきほど、好きなこととして「ファッション」を挙げられましたが、これまでにアパレルの会社にいたわけではないんですね。

大澤:そうですね。僕のキャリアの特徴なんですけど、まったく脈絡がないんですよ。今の会社を立ち上げる前は「土屋鞄」にいたんですけど、鞄の業界はまったく知らずに入りましたし、その前のコンサルティング会社(ドリーム・インキュベータ)にしてもそうでした。それまでとは違うカテゴリの会社に行くのが面白いんですよね。
当然、最初は苦労するわけですけど、今振り返ると糧になっていることも多いです。幅の広い経験をしてきたことは、今の会社での意思決定に生きていると思います。

―業界が変われば、働く人のタイプも変わると思いますが、どんな業界でも、どんな場所でも周囲の人と上手に付き合っていくためのコツがありましたら教えていただけませんか。

大澤:僕は昔からあまり人から嫌われたことがないんですね。だから自分の考えていることが全ての人に当てはまるかはわからないのですが、一つは絶対にサボらないというか、常に会社のことを考えることです。当たり前のことですが、会社のために努力して利益を出そうという姿勢がある人が嫌われるということはまずありませんから。
それと、ネガティブなことを言わないということも大事です。悪口はもちろんですし、否定的なことを言うのもいいことではありません。たとえば無理な仕事が回ってきたとしても「できません」と言うのと「○○ならできます」と、条件をつけてでも肯定的な返事をするのでは、印象はまったく違います。

―これまでに働いていたそれぞれの会社で、得たもの、学んだことを挙げるとしたらどのようなものになりますか。

大澤:最初に入った商社では、自分のレベルの低さに気づいたということに尽きます。
ODAは政府が政府に対して支援をするものですけど、現場ではJICAや大使館、民間企業も関わってきます。商社は各団体の間に入るので、経営的な視点とコミュニケーションスキルは絶対欠かせない。そういうところで自分の能力が全然足りていなかったんです。
商社を辞めたあとは、慶応大学のビジネススクールに行きながら起業したのですが、すぐに資金がショートしそうになってしまいました。そんな時に、ベンチャーキャピタルから6000万円の出資の話があったんですけど、その契約の寸前に事業を3500万円で買いたいという申し出がアメリカの会社からありました。結局出資の話は断って売却する方を選んだんですけど、すごく反省の多い体験でしたね。

―どんな反省がありましたか?

大澤:事業を起こすタイミングが早すぎたんです。その事業というのが2000年に立ち上げた証券会社の比較サイトだったんですけど、広告収入をモデルにしていたんですね。当時はまだバナー広告がありませんでしたし、「ネットなんかに広告を出せるか」という雰囲気もありました。それもあって、アクセスはたくさんあるのに収入につながらないということが起こってしまいました。アメリカではすでにネット広告が当たり前になっていたんですけど、日本はまだそういう時期ではなかったんです。
だから、事業を始めるタイミングって、もちろん遅いのはダメなんですけど、早すぎる、もしくはマネタイズまで時間がかかる事業を小資本の会社が実行してもうまくいかないんです。自分たちの計画が甘すぎたというのもあるんですけど。

―その次も、起業されたんですよね。

大澤:中国茶のネット通販事業を始めました。これも一年くらいは苦労したんですけど、月の売上件数も数件から数十件、数百件、数千件・・・とだんだんと伸びていってきちんと利益が出るようになりました。ただ、そこで迷いが出てしまったんです。

―迷いというのは?

大澤:結論から言うと、この事業に対して残りの人生を全て注ぎ込めるのかということを考えた時に、イエスと言えない自分がいたんですね。
赤字の時は必死にやっていたんですけど、利益が出るようになったことで考える余裕が生まれたので、この事業をもっと伸ばす方法を考えた時に、ネット通販だけじゃなくてオフラインもやらないとダメだとなったんです。でも、それに本気で情熱を持って取り組めるのかというと、そうではなかった。そういう迷いだったのですが、それも今となってはいい経験になっています。

―その次がコンサルティング会社の「ドリームインキュベータ」ですね。

大澤:そうですね。ここではそれまでの経営とは全く違う視点からの「経営の視点」を学んだと思います。とにかく思考の深さが違った。
ある事業を始める時に、普通なら6割方行けそうなら実際に始めてしまいます。小規模で始めてみて、うまくいきそうだったら大きくしていく。
でも、コンサルティング会社って成功する確率極限まで高めて、計画を綿密に作り込むわけです。失敗する可能性があるのなら、その理由を調べ上げてもう一度練り直す。
インプット・アウトプットの仕方から時間の使い方まで、全てが勉強でした。

―確かに、全然脈絡のないキャリアですね。

大澤:その次が「土屋鞄」です。これは中国茶の事業をやっていた時に行っていた勉強会で、今の土屋社長と知り合ったのがきっかけです。色々と相談に乗っているうちに「うちに来ないか?」と言っていただいたという流れです。ここで、未だかつてなかったような挫折を経験し、またファッション業界・バッグ業界の大きな課題にぶちあたり・・・
そして、次が今の「ピース トゥ ピース」ですね。

―今は、社会貢献したいという思いを持って、それを起業という形で実現しようとしている学生も増えています。そういった方々にアドバイスがありましたらお願いします。

大澤:伝えたいことは一つで、まずはビジネスの勉強、経験をしなさいということです。
起業の勉強というよりは、ビジネスの仕組みについてですね。これがわかっていないと、昔の僕のように思いだけはあるのに何も実現できないということになってしまいます。ビジネスを理解してから社会貢献を目指しても遅くないはずですから。

―本書をどんな人に読んでほしいとお考えですか?

大澤:男女問わず20代、30代の意識の高い人でしょうか。働くこと、仕事、ビジネス、キャリアに関しての意識が高い人たち。
僕は何回か起業をしていますが、この本は起業のための本ではありません。自分がこれまで経験してきたことや失敗談がたくさん盛り込まれているので、読んでくださる方がその失敗から何かを学び取ってくれればいいなと思っています。
起業に限らず何か新しいことを始めようと思っている人に読んでもらいたいですね。

―最後になりますが、読者の方々にメッセージをいただければと思います。

大澤:二つあります。一つは、何か小さくてもいいから、チャレンジすることの大切さです。チャレンジしない人は会社にいてもどこにいても魅力的じゃなくなっていきますからね。
これからは、個人がどれだけ活躍できるかという時代です。これまでは、40代になってからの転職は厳しいと言われてきましたけど、問題は年齢じゃないんです。うちの会社にも40代、50代の人がたくさん面接に来ますけど、チャレンジできて魅力的であれば採用したいと思っています。
チャレンジをし続けていると当然失敗もするわけですけど、失敗から学べることって物凄く大きいし、自分の糧にもなります。だからこそ小さくてもいいのでチャレンジをしてみてほしいです。
もう一つは「運」についてです。自分のキャリアを振り返ると、すごく「運」に恵まれてきたなと思います。「運」というのは主に人との縁なんですけど、こういうことが個人のキャリアや人生に与える影響は大きいものです。その運をどうやってつけるのかを、たくさん勉強して自分のものにすると、人生が変わるんじゃないかなと思っています。この本でも自分なりのやり方を4つくらい書いているので、参考にしてもらえたらうれしいですね。
こうした「運」をあげる、そのために人の縁をつくる・つなげる、という意味でも先ほど話したshAIRは多くの20代、30代の方々には使って頂きたいですね。 
人生のヒケツを教え合う場所 shAIR (シェア)
http://www.shair.co.jp/
一般的なスクール等では教えてくれない大切なコトを個人から学べ、かつ貴重な縁と出会える場です。
僕もちょいちょい起業の経験や新しいコトをはじめることの大切さなどを教えてもいますすし、学びたいことのために一ユーザーとして参加もしています。
一方的に教えるだけ、とか、学ぶだけとかって人生ではありえなくて、両方あっての人生だと思うので。
(インタビュー・記事/山田洋介)