©岩明均・講談社

写真拡大

かねてからハリウッドでの映画化が噂されていた『寄生獣』。1990年代を代表する傑作SFコミックが、日本で実写映画化&TVアニメ化されると発表され大いに話題となった。

「ウレぴあ総研」でこの記事の完全版を見る【動画・画像付き】

今回はその作品内容をざっとおさらいし、連載当時に読者や社会に与えたインパクト、そして『寄生獣』とあわせて読んでおきたい岩明均作品を紹介したい。

『寄生獣』は1988年から1995年までモーニング、アフタヌーン系列で連載。旧版コミックスは全10巻、のちに発売した完全版では8巻にまとめられている。

ストーリーはある日突然、無数の寄生生物(パラサイト)が飛来したシーンで始まる。どこから来たのか分からないパラサイトたちは、人間の皮膚を食い破って体内へ侵入。そのまま首から上を乗っ取り、擬態能力でもとの人間とまったく同じ顔になることができる。

知性は人間並みにあり、少しずつ社会性も身につけていく。頭部を自在に変形させて鈍器や刃物にすることも可能。軽くコンクリートをひしゃげるほどのパワーを誇る。そして何より怖いのは――人間になりすました彼らの主食が“人間の肉”であるということだ。

ごく普通の男子高校生・新一もこのパラサイトに狙われ、すんでのところで脳への侵入を阻止。右腕だけを乗っ取られた新一は、好奇心旺盛なパラサイト・ミギー(右手だから)と奇妙な共同生活を送るハメになる。

頭部を乗っ取らなかったミギーはなぜか「人間を食べたい」という欲求が薄く、人間観察や読書を好むパラサイトの中でも変わり種。だが話はコメディ方向へは進まず、いやおうなしに彼らは人を襲って捕食する他のパラサイトたちと対峙していくことに。

やがてパラサイト社会と人間社会が本格対決を迎え、新一たちの前にも最強の戦闘型パラサイト「後藤」が立ちふさがる。その時、パラサイトと人間のあいだに身をおいてきた新一&ミギーはどんな選択をするのか? ラストまで息をつかせないドラマとアクションが展開していく。

濃密な心理描写や独創的アクションシーンなど、見どころは読者によって異なると思うが、記者が注目したいのはパラサイトという存在を通じて描かれる“対比”のおもしろさだ。

最初こそケダモノじみていたパラサイトたちは急速に理性を身につけて、本格的な社会進出を目ざすほど組織化されていく。逆に人間側は話し合いという選択肢を投げ捨て、武力による鎮圧を試みる。読んでいくうちに野蛮さの逆転現象が起こり「人間らしさって何だろう?」と考えさせられる。

この対比は主役コンビの新一とミギーにも当てはまる。当初は弱々しかった新一だが、何度も戦いに巻き込まれ、大切な人を失っていくたびに別人のような強さを身につける。逆にミギーは新一と深く関わり、彼の苦悩を知っていくうちにどんどん人間っぽくなる。そんな2人(?)に芽生えた友情が行き着く先は……読むたびに心打たれるものがある。

まさかの展開で読者を驚かせた最終回、そしてタイトルの『寄生獣』とは誰を意味するのかも含め、とんでもなく深く奥行きをもった作品である。

異質な生命体に人類が脅かされるといえば最近ブームとなった『進撃の巨人』を連想させられるが、あちらは世界観の謎を読み解くミステリー要素も強く、読んだ印象はかなり異なる。

『進撃』にハマった人もそうでない人も、この『寄生獣』は一読の価値ありだ。

■マイナー作?…実は1000万部を突破していた!

『寄生獣』といえば長らく“カルトな人気を誇るややマイナーな作品”という印象が強かったが、このほど映画化の発表記事により発行部数が1100万部に達すると知って驚いたファンも多いことだろう。

2億部超えの『ドラゴンボール』『ONE PIECE』あたりは別格として、メディアミックスされないまま1000万部に達した作品は、記者の記憶にもほとんどない。しかも完結して20年近く経った現在でも売れ続けているというのだから、持続力という意味では間違いなくトップクラスだろう。

連載時から読者の評価はかなり高く、プロの作家や評論家にも絶賛されていた。講談社漫画賞を獲得したのも連載中のことである。ほかに1990年代前半の講談社漫画賞には『沈黙の艦隊』『課長島耕作』『ナニワ金融道』などが輝いており、当時の世相がうかがえる。

寄生生物ネタは『寄生獣』の専売特許というわけではないが、本作がヒットしてから日本のサブカルチャー界でも「人体の一部が○○に変わって共同生活」という設定が目立ってきた。バトル物から王道ラブコメまでその範囲は果てしなく広い。

全世界で500万本以上を売り上げた人気ホラーゲーム『バイオハザード4』には、寄生体によって人間の頭部が武器に変わるという、外見・設定とも『寄生獣』そのままといえる敵が出現したりもした。日本のみならず海外読者からも好評で、英語版は2度にわたって翻訳されている。

人気ゆえの風評被害もあった。連載終了ほどなくして未成年者による凶悪犯罪が起きたとき、たまたま犯人の自宅に『寄生獣』があったことが報じられ、妙な形で話題になってしまった。

同じような被害は『ひぐらしのなく頃に』『トライガン』『魔人探偵脳噛ネウロ』なども受けており、事件が起きると率先してアニメや漫画を叩きにいくマスコミの体質は当時も今も変わっていないらしい。

なお、今回の実写化発表への反応をネットで調べた限り、ファンの反応はやや不安が混じったもののようだ。

小説や漫画のアニメ化はまだしも、実写化は当たり外れが激しく『変態仮面』のように原作愛があふれて好評だったタイトルもあれば、『デビルマン』や最近でいえば『ガッチャマン』のように「どうしてこうなった…」と言いたくなるようなタイトルも目立つ。

たしかに原作ストーリーを無視してCG満載の単なるバトル作品になりそうなハリウッド版『寄生獣』を見なくて済んだのは朗報だが、日本での実写化もスポンサー側の意向でどう改変させられるか未知数。漫画原作である『三丁目の夕日』をたくみに実写化した山崎貴監督の手腕に期待させてもらいたい。

■これも必読!『寄生獣』前後の岩明作品

最近は『ヒストリエ』で再び受賞ラッシュの岩明均氏だが、ここではあえて『寄生獣』前後の少し古いタイトルを2つ紹介したい。

まずは短編集『骨の音』。デビュー作『ゴミの海』から表題作『骨の音』まで、初期の短編6タイトルを収録。すべて独立したエピソードだが、現代日本が舞台であることと、心の壊れた女性キャラが多く登場するという共通点がある。のちの『寄生獣』では一部を除いて比較的パターン通りの女性キャラが多かったため、逆に新鮮さを感じる。

さすがに最初期だけあって話をうまく畳めていないものもあるが、わずかなセリフや表情で多くを想像させる才能は十分に感じられる。また、生きた人間のことを「肉の塊」と表現するなど『寄生獣』の原型になった言いまわし、キャラクター描写も多い。

もう1つのオススメは『七夕の国』。『寄生獣』の次に描かれた作品で、全4巻と手頃なボリュームにまとまっている。

イケメンに成長した『寄生獣』の新一と違い、こちらの主人公・南丸はぼんやりした大学四回生。まれに異能者が生まれる「丸神の里」の血を引く彼には、薄い紙やガラスコップに小さな穴を開けるというささやかな超能力があった。

同じく丸神の里に関わる大学教授が行方不明となったころ、世間では“謎の力”による殺人事件が頻発。ゼミの人々に協力して教授の行方を探し始めた南丸は、やがて自分の能力がどんな意味をもつのか、そして「丸神の里」に関わる伝承の真相を知っていくのだった――。

死体がゴロゴロ出てきたり、人を超えた能力が登場したり、『七夕の国』も一見すると『寄生獣』に似たイメージを受けるが、まったくの別物。日本の民俗学をうまく練り込んだミステリー色が強めのストーリーだ。

本気になれば手も触れず人を殺せるキャラが主人公を含め複数登場するが、大規模なバトルはただ1度だけ。しかも主人公は一切参加していない。あくまで主題は「丸神の里」にまつわる謎と、サブテーマの“人を超えた力を与えられた者はどう受け取ればいいのか?”に集約される。

『寄生獣』の実績により打ち切りの心配がなくなったためか、本作は第1話から大胆に伏線を盛りこんでいるのが特徴。まったく無関係に見えたあらゆる要素がラスト付近で見事につながる。『七夕の国』という作品タイトルから謎の核心を推理できた読者も多いと思うが、それが分かっていても感心せずにはいられない物語の展開がすばらしい。

ちなみに『骨の音』『七夕の国』とも新装版・完全版が発売されているので、現在でも入手は難しくない。『ヒストリエ』『寄生獣』で岩明ワールドにハマった人は、ぜひご一読を。

映画『寄生獣』
2014年12月PART1、2015年PART2、全国東宝系にて公開
[http://kiseiju.com/]

こちらのレポートもどうぞ!
『黒子のバスケ』脅迫問題にみる、“リアル”に影響を与えた漫画の出来事 [ http://ure.pia.co.jp/articles/-/11086 ]
『ONE PIECE』『HUNTER×HUNTER』…こんなにある! 漫画の"休載・復活"事情 [ http://ure.pia.co.jp/articles/-/14416 ]
『半沢直樹』だけじゃない! 漫画・アニメの“決めゼリフ&倍返し”作品集 [ http://ure.pia.co.jp/articles/-/17310 ]
【漫画】コミックス売り切れ続出!!話題作『暗殺教室』は『ONE PIECE』に迫れるか? [ http://ure.pia.co.jp/articles/-/10689 ]
『坂本ですが?』『となりの関くん』…学園マンガの新トレンドは「職人系男子」! [ http://ure.pia.co.jp/articles/-/16392 ]