10月のU-17W杯UAE大会で、吉武博文監督が率いる日本代表が圧倒的なポゼッションを武器に、グループリーグ1位突破を果たすなど、好勝負をした(ベスト16で敗退)。その事実と、世界のトップチームのスタイルをふまえて、日本代表がW杯で勝つ確率を上げていくためにどうすればいいのか、どういうスタイルが日本らしいサッカーとしてあり得るのか考えてみたい。
※U-17W杯UAE大会 日本代表のリザルト
 グループリーグ3勝0敗 ロシア戦 1-0 ベネズエラ戦 3-1 チュニジア戦 2-1
 ラウンド16  スウェーデン戦 1-2

 日本サッカーが目指す方向性を考えるとき、もちろん世界の最先端のトレンドは配慮しつつも、それを追いかけるだけではなく、日本人の特性に合ったサッカーを志向することがもっとも重要になる。

 もちろん、ゴール前の守りを固め、ボールを奪ったらロングボールを放りこみ、選手同士が体をぶつけ合ってファイトするサッカーもひとつのスタイルで、その戦い方にも素晴らしさがある。守備に比重をおいてDFラインを下げ、カウンターからゴールを奪うスタイルもひとつの方法ではある。ただ、高さと強さで劣る日本人の適性はそこではないだろう。

 吉武監督がU-17で実践しているサッカーの良さは、「日本人に合ったサッカー」をしている点にある。日本人が世界大会で戦っていく上で、強豪国に勝つために何が一番いいのかを考えぬいた結果、ポゼッションを高めるスタイルを続ける決断をしたのだと思う。

 事実、年齢制限がある大会とはいえU-17W杯では、連続してグループリーグを突破して、世界の上位国といい勝負ができている。連係の精度、技術、状況判断の質を上げて、ゲーム運びのうまさを身につけていくためにも、この戦い方を続けることが理想的だろう。

 徹底的にボール保持にこだわれば、つまり、ボールを自分たちで持っていれば、その間は点を取られないというのが、ポゼッションサッカーの狙いのひとつだ。ただし、ポゼッションがメリットになるためには、バルセロナやスペイン代表のように70%前後、あるいはそれ以上までボール保持率を高めなくてはいけない。

 高さで劣る分、引いて守りきることが難しい日本は、ポゼッションの時間を長くして守備の時間を短くする。相手にボールを奪われても、ラインを高くして前線からすぐにプレッシャーをかけてゴール前にクロスを入れさせない。それが、自陣ゴール前での守備の時間を減らすことにつながる。

 そのためにも、技術と判断と動きの質を高め、モビリティ、つまり機動性を高める。また、選手の距離感をうまく保ち続け、その連動のための運動量をキープしてボールを保持し続ける。そうすることで、日本の弱点である、高さと強さで勝負する局面を減らす。

 もちろん、ポゼッションできていても、相手にゴール前を固められて点が取れず、こちらのミスからカウンターをくらって負けることもある。つまり、ポゼッションとは、言い方を変えると「相手に持たされている」ということにもなりかねない。たとえば、ボール保持率が45%前後のドルトムントは、わざと相手にボールを持たせているとも言える。持たせておいて、自分たちが狙ったエリアでボールを奪って、すばやくカウンターを仕掛ける。

 では、ドルトムントのようにハイプレスでボールを奪い、ショートカウンターを狙うスタイルが日本人に合っているのかと考えると、これもまだ難しいと私は思っている。ドルトムントのサッカーを実践するためには、かなりのフィジカルの強さ、スタミナとスピードが要求される。「日本人がドイツ代表クラスの選手と90分間フィジカルだけで勝負できるのか?」と考えたとき、勝利する確率は低いだろう。

 もちろん、個の力やフィジカルをレベルアップすることは重要だが、それが強豪との戦いを有利にするための「違い」を生み出すことにはなりにくい。できる限り自分たちがボールを支配する時間を多くして、相手を走らせて消耗させる。そのための技術力、組織力を高めていくことを考えていくべきだ。

 今の日本にメッシやロナウドはいない。たしかに、香川真司長友佑都、本田圭佑ら、今の代表選手たちは、私が代表に選ばれていたころより、世界レベルではるかに素晴らしい活躍をしている。それでも、彼らの個の力は、たとえば、ブラジル代表のスタメンに入れるほどのレベルにはまだ達していない。そう考えると、今の時点で強豪と競争するために高めていくべきは、チームとしての組織力ではないだろうか。

 これは、オフトジャパンの少し前の日本代表と韓国代表の話になるが、当時、日本はずっと韓国に勝てず、韓国の背中を追いかけていた時代だった。私も含め、選手たちは「フィジカルの強さで韓国を上回れ。運動量でも上回れ」と、尻を叩かれていた。それでも、試合ではいつも先にこちらの足が止まってしまい、韓国を上回れなかった。

 それが、オフト監督が就任してからは、連動してパスをつないでボールを保持するスタイルを身につけ、相手を走らせることで韓国の選手が日本より先に足をつってしまう展開にできた。つまり、俊敏性や組織力、蹴る技術で相手を上回ることで勝つことができた。

 この経験もあって、フィジカル重視で勝負するやり方、つまり、攻守にハードワークをして、90分間何回もスプリントをし続けるサッカーは、日本人には合っていないというのが今の私の考えだ。たとえ欧州リーグでプレイする選手が増えた現在の日本代表であっても、強豪国を相手にドルトムントのように90分間ハードワークを続けるだけのフィジカルはまだないと私は思っている。

 だからこそ、吉武監督が継続しているU-17日本代表のポゼッションサッカーは、日本らしいサッカーの可能性を示しているのではないかと思う。「体が大柄でも、屈強でもない日本人は、こうすれば世界大会で戦えるんだ」ということを示している。

 ただし、吉武監督の志向するサッカーや、バルセロナのようなポゼッションサッカーを成立させるためには、選手たちが長く同じ時間を共有してトレーニングを積み、そのスタイルを叩きこまれていることが必要になる。その時間をつくれないと、ポゼッションサッカーを築きあげることは難しいだろう。

 たとえば、世界王者のスペイン代表はここ数年ほぼ同じメンバーで戦っているが、主軸はバルセロナの選手であり、そこには子どものころから築いてきた連係とコンビネーションの成熟がある。

 それに対して、現在のザックジャパンは、選手が各国に散らばっているため、一緒にトレーニングをして連係を高める時間があまりない。つまり、U-17と同じことを、A代表で実践するには難しい状況にある。ここが、今後、考えなくてはいけない課題のひとつだろう。

 ザックジャパンは、個の能力はある程度世界のトップに近づいてきている。だが、その分組織として攻守のコンビネーションの緻密さのレベルが落ちてしまっている印象がある。日本が世界で勝つために重要な、ストロングポイントとすべきなのは、ポゼッションサッカーのための組織力や、チームとしてのまとまり、一体感だと私は思っている。

 16日にオランダ、19日にベルギーと対戦するザックジャパンが、組織として、チームとしてどのような戦いを見せてくれるのか。強豪との連戦に注目したい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro