スマートフォン利用の国際比較(ネット国際調査)

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■地方のガラケーには「2強戦略」が届かず

「『ドコモiPhone』は、いつですか?」

通信業界を手伝うコンサルタントとして、こうした質問をこれまで何度も投げかけられてきた。

過去何度か、機運が盛り上がった時期もあった。そのたびにマスメディアは大きく報じ、待ちわびる人たちが色めき立ち、そして失望してきた。

アップルは「秘密主義」の企業だ。かつてauiPhoneに参入する前にも、ブラフや憶測などさまざまな情報が飛び交った。そのせいで、直前まで販売の可否が決まらないこともあったようだ。圧倒的な優位にあるアップルに対し、天下のNTTドコモも、ここまで翻弄されてきた。

いや、ドコモはすでに、「天下人」とは、言えないのかもしれない。

今夏、鳴り物入りで取り組んだ「ツートップ戦略」は都市部を中心とした買い換え需要こそ喚起したものの、全体を見れば契約数は純減している。一方、ツートップに選ばれなかったメーカーの状況は惨憺たるものだ。「いよいよ『ドコモiPhone』が」という華々しい話題の陰で、かつてドコモとともに繁栄を謳歌した国産メーカーが衰退するのは、まさに諸行無常である。

そもそも、スマートフォン時代の到来自体が、ドコモにとっては「革命」だったのかもしれない。

総務省が発表した平成25年版の情報通信白書によれば、日本国内のスマートフォン利用率は38.2%。韓国(67.8%)、米国(47.6%)等と比べ、低い結果である。

日本の人口分布が大都市に集積しており、その大都市でのスマートフォン普及が先んじていることを考えれば、この4割弱という数値が日本国内での「地域格差」を示していることが分かる(※1)。実際、政令指定都市クラスでも、東名阪などの大都市以外では、スマートフォン利用者は明らかに少ない。

クルマ社会ゆえに端末を触る機会が少ないこと、パソコンを日常的に使う用事が少ないこと、さらにはパケット定額の未加入者にとっては事実上の値上げとなること――背景は様々だが、要は「使う理由がない」ということだ。

一方、現在でもNTTドコモの収益を支えているのは、いまだスマートフォンへ移行しない、保守的なフィーチャーフォン利用者、つまり「ガラケーユーザー」だ。こうした利用者のマイグレーション(スマートフォンへの移行)をどうするか。それに伴い、事業をどのように再構築するか。これがNTTドコモの重大な命題なのだ。

営業施策だけの話ではない。たとえば、フィーチャーフォンとスマートフォンでは、電波のつかみ方や通信状態の維持の方法など、インフラの使い方が大きく異なる。またスマートフォンの高度化に伴い、回線容量の向上も求められる。このためインフラを作り直していかなければならないが、スマートフォンの普及速度が想定を上回っており、なかなかインフラの置換が追いつかない。近年、大規模障害が発生したり、回線品質に不満を抱いたりする利用者が少なくないのは、移行の難しさの一面を表している。

サービスやアプリケーションも大きく異なる。キャリアメールと公式サイトしか使ったことのない人にとって、たとえばGmailのアカウントを取得するということさえ、そもそも「意味不明」であろう。パソコンを使い慣れた人にはそうした利用者の姿は想像できないかもしれないが、これが日本のマジョリティの現実だ。彼らを相手にしてきたNTTドコモは、それゆえにspモードというプラットフォームを用意し、移行の促進を目指してきた。しかし、そのspモード自体が、「ドコモ品質」とはほど遠い、不安定な代物となってしまった(※2)。

地方部がスマートフォンを「使う理由がない」のに対し、都市部の状況は異なる。多くの人はパソコンを日常的に使い、通勤・通学途中に端末を触る時間がある。地域を限定してインフラ投資を行うことで、「つながりやすさ」にはドコモとそれ以外の差は小さい。そんな都市部の人たちにフィットしたのが、iPhoneだった。つまりNTTドコモは、都市部を中心に、他事業者の草刈り場となっていた。それが、ここ数年の趨勢であった。

■「ドコモ土管化」なら産業界は総崩れか

そんな後退局面にあるNTTドコモiPhoneを投入できるのか。投入したとして、効果や意味はあるのか――いささか食傷気味だったが、いよいよ結論が出そうだ。

理由の1つは、投入に向けたハードルが下がりつつあること。アップルは自社端末を導入する通信事業者には販売ノルマを課す。NTTドコモの場合、シェアや後発であることを踏まえ、当初は全契約数の半分近くに匹敵する数字を突きつけられていたようだ。これは事実上、「ドコモ利用者は全員iPhoneにすべき」と言うに等しい。

しかし、この状況は緩和されている。そもそもアップル側がこうしたノルマを突きつけた背景には、昨年9月に発売した「iPhone5」の販売不振があった(特に欧州市場で苦戦していた)。だがこのところ、販売状況が回復している。また競合であるサムスン電子の「Galaxy」シリーズも販売不振にあり、アップルは次期モデルで一気に攻勢をかけるようだ。部材を供給するメーカーの活気も、それを裏付ける。アップルの都合としては、ドコモに無理強いしなくてもよくなったし、サムスン電子のシェアを削げればそれでいい、ということだろう。

では、iPhoneの投入が、ドコモ復活の起爆剤になるのか。これは賛否両論あるだろう。確かに、やや遅きに失した感がある。特に都市部では、「ドコモiPhone」を期待した潜在顧客はauに流れた。今後この市場を奪還するには、auの回線状況に不満を抱く利用者の買い換えを待つ必要がある。また、ツートップ戦略によって、自ら草を刈ってしまったとも言える。これは戦略の失敗と言わざるを得ない。

しかし前述の通り、地方部にはスマートフォン移行から取り残された人たちが存在する。こうした保守的な利用者に安心感(=丁寧に説明すれば使い方を一応理解できる状況)を与えられるのは、現行のスマートフォンでは、iPhoneしかない。まるで富士通の「らくらくスマートフォン」のお株を奪うようなものだが、年老いた両親を抱える私自身の、偽らざる印象だ。

商機は、そこにある。あとは、低廉な料金プランの提供や手厚いサポートなどを提供できるかが、ドコモの成否を分けるだろう。だがこれは、素直に喜べることなのだろうか。

スマートフォン時代は、クラウド時代でもある。サービスの重要な機能はその多くがクラウドにあり、データはクラウド側で収集・管理される。端末がその重要な窓口となる以上、端末のシェアを失うということは、事業機会の多くを失うことでもある。

特に「ドコモiPhone」でスマートフォンデビューを果たすような利用者は「プリインストールされているアプリ」の利用が中心だろう。そこにドコモがメール等の基本機能も含めてサービスを提供できるか。前述のspモードの課題を考えると、正直厳しい。

通信事業者がiPhoneを担ぐということは、完全なる「土管」になることを意味する。そして「土管」の先にあるクラウドベースのサービスの多くは、海外事業者が握っている。かつてパソコンがWindowsに席巻され、国内のIT産業が崩れた時を超える「新たな敗戦の再来」の姿を想像するのは、私だけではないはずだ。

だからこそ通信事業者には、クラウド時代に国内事業者が活力を取り戻すような施策を、打ち出してほしい。

ベンチャーキャピタルの運営など、「種まき」にはすでに着手しており、その意義は大きい。しかし今後は、流通や自動車等、日本の得意分野の情報化を進める「触媒」としての役割を、通信事業者が改めて果たすべきだ。

スマートフォンが単なるオモチャに終わるのか、あるいは日本社会に真の情報化をもたらすのか。そしてその時、日本の産業界に望ましい状況がもたらされているのか。「ドコモiPhone」が分水嶺となるのかもしれない。

※1:総務省「通信利用動向調査」(2012年)によると、「スマートフォンでインターネットを利用している人」の都道府県別の比率では、上位は神奈川県(38.5%)、東京都(37.7%)、下位は秋田県(21.8%)、岩手県(21.9%)だった。
※2:スマートフォンで「docomo.ne.jp」のアドレスを利用するためには「spモードメール」を利用する必要がある。だが、さまざまな不具合が報告されているため、新サービス「ドコモメール」を提供予定。2012年10月の発表では13年1月の予定だったが、延期が度重なり、現在の提供予定は13年10月下旬。

(答える人=クロサカタツヤ(コンサルタント))