Tカードの券面。カメラのキタムラ、ドトールコーヒー 、ENEOSなどで利用できる。

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1勝3敗1引き分け。今年4月の「第2回電王戦」でプロ棋士はソフトに負け越した。コンピュータのデータ解析能力は、将棋のような複雑な世界でも人間を上回りつつある。こうした「ビッグデータ」はビジネスではどう活かされているのか。各社の最新事例を探った──。

流通業では、どの商品が、どの売り場で、いつ、どれだけ売れたかを記録する「POSデータ」を使ったマーケティングが常識となっている。だがビッグデータの登場で、その活用は驚くほど精緻なものになりつつある。

このうちカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が展開する「Tポイント」は、業種を超えたマーケティングで効果を発揮している。CCCがTポイントの貯まる「Tカード」の発行を始めたのは03年。レンタルビデオ大手TSUTAYAのポイントカードから始まり、参加企業が徐々に拡大。現在はコンビニ大手のファミリーマートなど、今年4月末で100社が加盟し、会員数は4500万。1カ月のデータ件数は1.8億件を超える。

会員は、加盟店でカードを提示すると、割引などに使える「Tポイント」が得られる。当初は、各社が独自に導入するよりも、システム構築の手間や運営費が抑えられる点が売りだった。だが参加企業が広がり、データ活用の環境が整うことで、販促の手法として注目が集まるようになった。Tポイント・ジャパンの長島弘明さんは「この2年で、データを相互に使おうという動きが特徴的に出てきた」と話す。

販促で大きな効果を発揮しているのがレシートに印刷される「POSクーポン」だ。これは顧客1人ひとりによって内容が違う。たとえば、

・自動車免許を持っている人に、缶コーヒーのクーポン
・コンビニで新聞を買った人に、喫茶店のモーニングセットのクーポン
・服飾店でバーゲン品をよく買う人に、発泡酒のクーポン

といったものだ。

長島さんはいう。

「運転をする人は眠気覚ましに缶コーヒーを飲むでしょうし、『お得』に敏感な人はビールより発泡酒が好きでしょう。これらは、人間が仮説を立てたわけではなく、コンピュータの分析の結果です。結果を見れば、『それはそうだよね』というものが多いんですが、ただデータを見るだけではわからない」

参加企業のコンサルティングには約70人が関わっている。このうち約50人は担当企業を受け持つ営業的な人材。残りの約20人は分析を専門にする「データアナリスト」だ。彼らは担当企業のデータ解析を行うだけでなく、アライアンス内のデータを掛け合わせることで、より効率のいい販促の方法を探る。将来的には、商品開発についての提案も行うことで業容拡大を目指していくという。つまり、「あの商品をここに売り込む」だけでなく、「こんな商品があれば、ここで売れる」という提案をするわけだ。

CCCは12年6月にヤフーと資本・業務提携を結んだ。今後はリアルとネットの垣根を越えたより深いデータ分析が進むはずだ。

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【カルチュア・コンビニエンス・クラブ】異業種間マーケティング
・「Tカード」は100社4500万会員(2013年4月末)
・性別、年齢、地域などと購入品目を紐付けて分析
・「自動車免許証保有者」→「缶コーヒーのクーポン」

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(星野貴彦(プレジデント編集部)=文)