コピー、デザインともにインパクト大な「生田商店」(婦人服)のポスター、「ご近所の女のカラダを知り尽くしている男。」。

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来年で誕生から100周年を迎える大阪・新世界の商店街「新世界市場」。
戦前に建てられた古い長屋が連なる珍しいスタイルの商店街で、近くには観光名所の通天閣もある。しかし、大型スーパーの進出や世代交代などにより、約50店ある店舗スペースのうち、約半数の店が閉店してしまっている。

この商店街や1店1店のお店をテーマにしたユニークなポスター展が11月にスタートし、話題を呼んでいる。
例えば商店街のポスターなら、「昔は人ゴミで見えへんかったんや 今はボーリングできるけどな」というコピー。婦人服店のポスターなら店主の顔の見えない写真に、「ご近所の女のカラダを知り尽くしている男。」というコピーといった具合。
デザインやコピーを含め、“お見事!”と思わせるようなこのポスターの仕掛け人は電通関西支社の若手クリエイター、総勢39名。120点のポスターはすべてボランティアで制作されているというから驚きだ。
この、いわばシャッター商店街を活性化するプロジェクトはどんなきっかけでスタートしたのだろうか? 企画者の日下慶太さんに話を聞いた。

「街おこしのため今年5月に行われた『セルフ祭』というイベントがそもそもの始まりです。商店街をアートや音楽、パフォーマンスで埋め尽くすというもので、たくさんのお客様に訪れていただき、メディアにもとりあげられたのですが、イベントの後はもとの寂しい商店街に戻ってしまった。

“一過性のものではなく何か残るものをつくらなくては”とセルフ祭のスタッフであり、電通でコピーライターとして仕事をしてきた私が考えたのが、ポスターを作ることでした。自分だけですべての店舗のポスターが作れるわけはないので会社のみんなに相談したところ、決して利益があるわけではないこのプロジェクトを『おもろいやないか』とバックアップしてくれました。忙しい通常業務の合間をぬって制作したポスターを、商店主の方々も『お店続けてきてよかった』『もったいなくて貼られへん』などと喜んでくれて……。

このポスターは7月に商店街に張り出されたのですが、ポスターを気に入った商店主の方々自らが提案してくれたのが今回のポスター展です。セルフ祭のスタッフもこの展示のために空き店舗を手作りで改装し、『いちばギャラリー』としてオープンさせました。70点のポスターも追加で制作しています」

そんなポスター展をスタートしてから、実際の商店街にはどんな風が吹いているのだろうか。市場会長であり、家業の下駄屋と趣味で始めたジャズレーベル「澤野工房」を営んでいる澤野由明さんはこう話す。

「若い方がポスターを見てにっこりしながら、スマートフォンで写真を撮っていかれる姿をよく目にするようになりました。最近気づいたんですが、この市場のある新世界はメディアにもよく取り上げていただけるし、周辺には観光客がたくさん歩いている、ごっつい恵まれた場所なんです。

でも商店街のみんなは後継者の問題やらで揺れていて、このまま市場が廃れていくんじゃないかと、みんなどこか後ろ向きになってしまっていた。今回のポスター展には市場の魅力を外に向けてアピールするだけじゃなく、商店街のみんなにも改めて知ってほしいというっていう思いもありました。もちろんお客さんがポスターを見に来て、買い物をしてくださるところまでは行ってないですけど、人が流れているってことは、みんなにとってうれしいことやったんちゃうかな? と思ってます。

前やったら『そんなんやっても、何も変わらへん』『ギャグネタはあかんなぁ』とか言うてたような商店主も、今回は『やったらええやん!』と賛同してくれたし、そこが一番変わったのかなと」

空き店舗の有効利用など市場の今後についても、「市場の人たちが前向きになれば、そういう話もどんどんできるようになると思うし、我々に刺激をくれる若い人たちの力も借りて、また何かやりたいなと。今回のプロジェクトが、どうしたら商店街の状況がよくなるかを考えるきっかけを与えてくれた」(澤野さん)と、明るい光が見えてきたのだそうだ。

ドラマの舞台になったことをきっかけにしたり、B級グルメやゆるキャラ等の名物を作って全国に魅力をアピールするなど、街おこしや地域活性化のプロジェクトにはさまざまなかたちがある。このポスター展はインパクトのあるポスターで外から観光客を呼び込むだけでなく、商店街スタッフの意識を内側から変えていこうとする新しいかたちの街おこしといえる。

年末年始を大阪で過ごす人は、新世界の観光ついでに大阪らしい、しゃれのきいたポスターと、それに負けず劣らず味わい深い“中の人たち”に会いに行ってみてはどうだろうか?
(古知屋ジュン)

■ 新世界市場ポスター展
会場:新世界市場(大阪府浪速区恵美須東1丁目一帯)/いちばギャラリー(大阪市浪速区恵美須東1-22-8 新世界市場内 営業時間11:00〜18:00 木曜定休)
期間:2013年1/13(日)まで
※入場無料。詳しくは「新世界市場再生プロジェクト」のFacebookページを参照