ニューヨークを代表するシェフのひとり、マイケル・アンソニー氏

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アメリカ料理といえば、ハンバーガーやホットドッグなどを思い浮かべる人も多いかもしれないが、そればかりじゃない。

世界でも指折りのグルメシティ、ニューヨークで1、2を争う人気レストランといえば、1994年オープンの「グラマシー・ターバン」。変化の激しいニューヨークのレストランシーンで、20年近く店を開け続け、かつ人気を維持できるのは本物の実力店だけ。現在、店を率いるエグゼティブ・シェフ・パートナー、マイケル・アンソニーさんは、食のオスカーこと「ジェームス・ビアード・アワード」の2012年ニューヨークシティのベスト・シェフ賞にも輝いている。

先日、そのマイケルさんが来日。料理のデモを披露しつつ、最新のアメリカ料理事情や自身の料理のモットーなどを教えてくれた。
「いま、ほかのシェフたちと一緒に、現代のアメリカ料理とは? ということを再定義しようとしているところ。一般的にイメージされるアメリカ料理というものはあるけれど、それとは別に、ヘルシーで創意あふれるアメリカ料理を作ろうという動きが出てきている」
しかもその動きは、アメリカだけでなく世界中で起きているそうだ。

ヘルシーで独創的な、いわば新アメリカ料理とも呼べる料理。それを作るうえでマイケルさんたちが守っている基本原則は以下の3つだという。

1つめは、シンプルな料理であるということ。マイケルさんいわく、
「シンプルという言葉をシェフはよく使う。おそらく90%のシェフは使う。でも、シェフがシンプルといっても、実は裏でものすごい数の手順を踏んでいて、一般の家庭料理としてはまったくシンプルではなかったりする」

ちなみにこの日にデモを披露した料理は“アラスカギンダラの温燻 カブのピュレとタマネギのピクルス添え”。
「これ以上シンプルにしようがない」
とマイケルさんがいうほど家庭でも簡単に作れるレシピながら、実はレストランでの作り方とほぼ同じ。カブのピュレはフレッシュで軽く、添えられたタマネギも実にまろやか。アメリカ料理の大味なイメージとは程遠いものだった。

2つめは、料理のスタイルが自然や文化に結び付いていること。同レストランでは素材の季節感なども重視し、地元の野菜なども積極的に使っている。といっても完全な地産地消を目指しているわけでもない。
「たとえば、ニューヨークから車で8時間の地域の食材をローカルプロダクトと呼ぶか? という質問にはイエスという人もいればノーという人もいるはず。私たちが重視しているのは、単純な距離ではなく、関係性。生産者と直接的なつながりがあり、会話ができることが大切」
もちろん、料理によっては輸入食材も使うし、日本で働いた経験から出汁やゆずを使うこともあるそうだが、
「それらはあえてお客さんには説明しない。秘密にしているわけじゃないけど、セールスポイントでもない。ローカルな食材やおもしろい技術などほかに説明すべきことはある」
ローカルにこだわりつつも、それに縛られすぎないことが、彼らの料理の可能性を広げているのだろう。

3つめは、独創的であること。新しい味を感じたり、思いがけない食経験ができること。この日の料理でいえば、ビーツで赤く色づけされたタマネギのピクルスは見た目にもおもしろく、個人的に斬新と感じたひと品だ。
「これら3つを満たした料理をゲストが満足する価格で、ゲストの気持ちに立って提供できれば、お客さんはまた来店するはず」
とマイケルさん。

挙げてみればどれも当たり前のことかもしれないが、実践となると意外に難しいもの。これらを長く続けられれば、料理の世界で成功するのも夢じゃないかも!?
(古屋江美子)