穏やかに見えるブドウ畑も水面下では色々と変化が起こっている。

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11月のボジョレー解禁に始まり、師走に入ってシャンパンなどワインが登場する機会も多いことだろう。ワインの本場フランスでは、どのようなことが今年話題に上ったのか。振り返ってみた。

2012年はフランスワインにとって、中国の話題に事欠かない年だった。まず8月にフランス中部ブルゴーニュ、ジュブレ・シャンベルタンにあるワイナリー「シャトー・ド・ジュブレ・シャンベルタン」が、マカオのカジノ最大手企業SJMの役員・呉志誠氏によって800万ユーロ(約8億5200万円)で買収された。また11月には、南西部ボルドーのサンテミリオンにあるワイナリー「シャトー・ベルフォン・ベルシエ」が、別の中国人実業家によって1950万ユーロ(約20億円)から2600万ユーロ(約28億円)で購入された。

しかし、これら中国人のワイナリー買収劇は、ボルドーでは驚くことではない。香港を筆頭に中国国内ではボルドーワインの需要が高く、中国資本によるシャトーの買い取りは、今まで30件ほどおこなわれてきた。今年6月末に催された、2年に1 度開かれるボルドー・ワイン・フェスティバルで、香港(ボルドーにおけるワイン輸出額が昨年1位)が招待国になったことからも、中国需要の影響は見てとれる。

ただし、今年買収された「シャトー・ベルフォン・ベルシエ」は地区で最高水準の格付け「グランクリュ・クラッセ」のワイナリーだった。そのため同クラスのワイナリーが買収されたことは、あらためて注目を集める契機となった。ほかに、ボルドーにおける外国資本のワイナリー経営は、アイルランド人による「シャトー・フェーザル」や、日系ではサントリーによる「シャトー・ラグランジュ」と「シャトー・ベイシュベル」が有名だ。

一方でブルゴーニュは事情が異なる。大規模資本がワイナリーを経営するボルドーと異なり、同地域は中小のワイン醸造者が集積した経営形態が主体であり、外国資本に対しても閉鎖的だ。加えてジュブレ・シャンベルタンで生産されるワインは「ナポレオンが好んだ」と言われるように、高級ワインの一つとして知名度も高い。そのような地域で中国資本による買収が起きたため、地元での反発は幾分大きいものとなった。しかし、ブルゴーニュに外国資本が全く無いわけではない。例えばブルゴーニュの大手「ルイ・ジャド」は米国人ルディ・コップ氏により所有されている。

このことからも見られるように、近年多くの中国人がブルゴーニュワインを求めるようになった。英テレグラフ紙によれば、昨年香港でおこなわれたオークションでは、1999年のロマネコンティが4万7000ポンド(約622万円)を超える価格で落札されたという。

さらに同紙は、現地シャンボール・ミュジニーのワイナリー経営者の話として「中国人は小グループで訪れて、気にするのは値段のこと。60ユーロだと買わないが250ユーロだと6本(1箱)買っていく」と、その購買力の高さを伝える一方、ブルゴーニュのネゴシアン組合会長を務めるルイ・ファブリス・ラトゥール氏のコメントを引き合いに、「アジア資本による侵略が誇張されているものの、中国向けの年間売上額は米国向けの1カ月分以下だ」と結んでいる。
(加藤亨延)