靴みこしが練り歩く

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「“靴祭り”という奇妙な祭りに行ってきた」という報告を友人から聞いたのは今年の春のことだった。場所は東京・浅草の外れ、いわゆる“山谷地区”にほど近く、靴をかたどったお神輿が出る、とか、その一帯では普通の民家の中まで所狭しと靴が並んで安売りされている、とか、断片的な話を聞いただけで何ともただならぬものを感じた。

それから数カ月が経ち、4月と11月の年2回開催される靴祭りの日がやってきた。果たしてその実態は……!?

靴祭り、正式には「浅草 靴のめぐみ祭り市」と言うらしい。台東区清川2丁目にある「玉姫稲荷神社」で開催されている。JR常磐線・東京メトロ日比谷線の南千住駅から徒歩10分〜15分といった場所で、途中では有名な「泪橋」の交差点を渡り、辺りを見渡すと宛てもなくブラブラ歩いているぼーっとしたおじさん達が多数目に入ってくる感じだ。

少し緊張しながらやたらと安宿の多い町並みを歩いていくと、祭囃子が聞こえてきた。神社を取り囲むように、靴やベルトなどの革製品のセールが行われている。「玉姫稲荷」の境内の中は見渡す限り靴・靴・靴。販売業者が所狭しとブースを出している。もらった案内図によると境内とその周りを合わせて40社近いメーカーが集まっているらしい。

人波を掻き分けるようにして本殿の方へ進んでいくと、行列が出来ている。みんな熱心にお参りしているのかと思いきや、本殿では福引きをやっている!豪快なノリで面白い。

そうこうしている内に、友人から聞いていた「靴みこし」が目の前に現れるではないか!大迫力!と言う感じでは正直ないが、なんとも言えず味わいのある姿だ。男性靴バージョンの他にもう一つ女性靴バージョンの神輿もあり、それがまたオモチャっぽい雰囲気でキュート。担いでいる方々はみな、地元の靴メーカーの関係者のようで、「○○さんが来てませーん!サボってるんじゃないですかー!?」と和気あいあいで楽しそう。

本殿向かって左にある、その名も「久津乃神社」の前には、「靴供養」のコーナーが設けられており、役目を終えた古靴がうず高く積み上げられている(写真:供養を待つ古靴の山)。私が立ち止まってみている間にも大きな袋を持ってきて、「お世話になりました!」と靴を置いていく人々の姿が絶えなかった。

スタッフの方にお話を伺ってみると、このお祭りは今年で38年目になるとのこと。もともと皮革産業のさかんな地域であるため、この神社の氏子だった業者が近隣のメーカーに呼びかけて供養を行ったのが始まりだという。「もうすぐ古靴供養が始まりますので良かったら参加していってください」とのことで、参加させていただく。神主さんが現れてお祓いをしたのち、参加者に「厄除火焚串」が手渡されるので、それを順にお焚き上げの火にくべていく。

この「厄除火焚串」、古靴を納めた人が名を記すことができる木札で、これによって足の病気やケガなどの災難に見舞われぬよう祈願できるのだとか。古靴を直接火にくべるのかな?と思っていた私は浅はかで、伺ってみると「消防法の問題もあって、ええ、煙も出ますので、この場では燃やしていないんです」とのこと。確かに、靴を燃やしたら大変な色の煙が出そうですもんね。私が行ったのは2日間あるお祭りのうちの初日だったのだが、「この古靴の山はまだまだ増えますよ!」と言うので、最終的には相当巨大な山ができあがりそうだ。

改めて神社の周りを歩いてみると、友人に教わった通り、民家の軒先で靴を売っているようなスペースがあったりして面白い。しかしお客さんの面持ちはみな神妙。有名ブランドの靴が90%オフで売られたりもするというから、それもそのはず。

お祭りの運営本部前で様子を眺めていると、初老の男性がやってきておもむろに靴を脱ぎ、「これと同じの売ってる?」と本部の方に質問して「ちょっとなんのブランドだか分からないです…」と困らせたりしていた。当お祭りにお越しの際は、そんな人々のやり取りもぜひ楽しんでみて欲しい!
(スズキナオ)

■ 玉姫稲荷神社
東京都台東区清川2丁目13−20
(浅草 靴のめぐみ祭り市は毎年4月と11月の最終土・日曜日に開催)