12/6(木)発売『跳ばずにいられないっ! ソラリーマン ジャパン・ツアー』(¥1260、徳間書店)

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写真家・青山裕企さん。
彼の名前を知らない人でも、顔を見せない制服の少女たちの身体のパーツをフェティッシュに切り取った写真集『スクールガール・コンプレックス』(イースト・プレス)を覚えている人は多いのではないだろうか。吉高由里子や指原莉乃(HKT48)らのフォトブック、人気アイドルたちのグラビア企画(『SKE48 謎解きParts』週刊SPA!にて連載中)などもしかりだ。

そんな彼が『スクールガール〜』とともに撮り続けているのが、2009年に写真集を発売して話題を呼んだ、“空跳ぶサラリーマン”を激写した『ソラリーマン』(ピエ・ブックス)のプロジェクト。被写体は一般のサラリーマンなのだが、どの“ソラリーマン”もちょっとぎこちない表情や1人1人跳ぶポーズがユニークで、インパクトもありつつ味わい深い作品なのだ。

12/6(木)にはそんなソラリーマン写真集の第2弾『跳ばずにいられないっ! ソラリーマン ジャパン・ツアー』(徳間書店)が発売される。今回は全国各地を周って撮影した、スーツ姿のサラリーマンだけでないさまざまな職種の働くオトコたちが主役。そんな写真集や、11/27にスタートした個展に込めた思いを、ご本人に聞いてみた。

――ソラリーマンのプロジェクトを始められたきっかけは?
「写真を撮りはじめた1998年頃から、よく自分や身の周りの人たちを跳ばせて撮影をしていました。2006年に父親が病気で亡くなったんですが、サラリーマン一筋三十数年で生きてきた父親の“優しいけれど、ぐうたらな姿”しか僕は知らなかった。でもスーツに着替えてサラリーマンとして働いていた時の父親は、上司から部下まで幅広く慕われ、仕事もデキる“カッコいい存在”だったんです。父親にまつわるエピソードを葬儀で色々と聞くうちに、毎日会っていたのに僕は父親のことを何も知らなかったんだなとショックを受けたし、何よりサラリーマンの持つギャップに驚いて。父親の四十九日法要が終わった頃から、気づけば取り憑かれたかのようにサラリーマンの人たちを跳ばせるようになっていました」

――今回の写真集では、なぜ全国のソラリーマンにスポットを当てようと考えられたのでしょうか?
「昨年の東日本大震災後はしばらくソラリーマンの撮影を控えていたのですが、気づけばソラリーマンの画像がTwitterなどのネット上で広がりを見せていたんです。『オジサンが跳んでるだけなのに、なぜか元気が出る』などといったコメントと一緒に何千とRTされていく状況が、僕にはソラリーマンが自らの意志で、世界中を跳び回っているように思えてきました。当時の自分は何も動けずにただ落ち込んでいる日本の姿を見ていたのですが、いろんな人を元気づけているソラリーマンの画像を見て、背中を押されるかのように“自分も動かなければ!”と。ソラリーマンの撮影現場や作品の楽しさを広げてゆくことが、日本を自分の力でちょっとでも元気づけられることだと思ったので、そのためにはやはり自らが日本をまわって撮影するのが一番だと思ったのです」

――写真集の中で特に思い出深いモデルの方はいらっしゃいましたか?
「父親の七回忌で名古屋に帰省した時に、父親の一番の親友の中山さんを撮影することができました。墓参り直後の撮影だったのですが、中山さんは底抜けに明るいジャンプを見せてくれて、僕は気持ちがとても明るくなったんです。中山さんの元気を通して、父親からやりたいことを続けろよ、と言われた気がしました」

――ソラリーマン撮影の楽しかったりやりがいを感じる点と、逆に苦労されたり、難しいと感じる点は?
「苦労するのはあくまで普通の人たちを対象にしているので、案外モデルが集まらないところ(笑)。でも撮影に関しては難しいことはまったくなくて、跳び方も基本お任せしていますので、どんなジャンプが出てくるかいつも楽しみで仕方がありません。このジャンプ(下の吉澤さんの写真)なんて、僕が指示したとしても絶対に出ませんから。あと、ご協力いただいたソラリーマンの方から本当に喜んでいただけるんです。僕にとっては何百回と訪れる撮影の機会ですが、皆さんにとっては一生に一度の思い出になることもあるので、一期一会の精神で、真摯な姿勢で撮影することを心がけています」

――個展もスタートされましたが、ソラリーマンとスクールガール〜の作品を連続して展示するスタイルにされたのはなぜですか?
「スクールガール〜を知っている人たちからすると、なんで女子高校生とサラリーマン!?と思うのかもしれませんが、どちらも一貫して“日本社会における記号的な存在”をとらえようとしています。ソラリーマンは、似たようなスーツを身にまとい、記号的にさえ見える人たちから“ジャンプ”という一瞬の行為によって個性的な姿を引き出そう、という試み。対してスクールガール〜は、個性を端的に表す顔を隠すことによって、制服を身にまとった女子高校生の記号っぽさを抽出しよう、という試みになっています。どちらも街中を歩いていればありふれた存在なのですが、跳ばせるだけで“記号から個性”、顔を隠すだけで“個性から記号”といったように、写真ならではの表現が出来るのではないかと考えながら作品を展開してきました。今回は“記号と個性”という僕のテーマの対称性を分かりやすく提示するために、こういった形で発表しようと思ったのです」
(古知屋ジュン)

●11/27(火)〜12/23(日) 東京・和田画廊にて青山裕企 個展『[記号的]←→[個性的]』開催
※12/9(日)までは『[記号的]→[個性的]:ソラリーマン(2012)』、12/11(火)からは、後編[記号的]←[個性的]:schoolgirl complex(2012)
※12/1(土)・12/4(火)・12/15(土)にイベントあり。詳しくは和田画廊HPにて。