“HARD TO SAY NO”(ノーということは難しい)

“Yankees are Ichiro's first choice”(イチローの第1希望はヤンキース)

 現地時間11月24日、ニューヨーク・ポスト紙はこのような見出しを付け、イチローがヤンキース残留を希望していることを伝えた。イチローの代理人であるトニー・アタナシオ氏が同紙の取材に応じ、以下のように語った。

「多くのチームがイチローに興味を示しているが、ヤンキースでのプレイを楽しんだイチローが、ヤンキースに『ノー』ということはとても難しい。他のどの球団に行くより、イチローの最優先事項はヤンキース残留だ。我々は状況を見守りたい」

 ここで言っている「状況を見守りたい」の真意は、ヤンキースが投手陣の契約を最優先したいと考えているからだ。黒田博樹の再契約に成功したヤンキースは今、通算608セーブのマリアーノ・リベラと、通算245勝のアンディ・ぺティットの再契約に力を注いでいる。

 すでにリベラは現役続行を伝えているが、ぺティットは続行かそれとも引退か、まだ正式に表明していない。ちなみに今季のふたりの年俸は、リベラが1500万ドル(約12億円)、ぺティットはシーズン途中に復帰したこともあり250万ドル(約2億円)と格安だったが、1年を通した契約となればこの金額では済まされない。

 ともにヤンキース以外でプレイすることは考えていないだろうが、実績とこれまでの貢献度を考えれば、極端に契約金を抑えるわけにもいかない。ふたりの交渉は今週にも方向性が示される見通しだが、おそらく残留するであろうというのが一般的な見方だ。このふたりに要したお金が、直接、イチローの条件提示にも影響してくる。

 もっとも、アタナシオ氏が言った「ヤンキースに『ノー』と言うことは難しい」の言葉通り、イチローからすればお金の問題ではない。移籍後、イチローはヤンキースでプレイすることの喜び、誇りを何度も語っていた。

「プレイの中で、捨てられるものがない。特にヤンキースタジアムでは『野球がちょっと違うな』という感じがする。それはこのチームがずっと背負ってきた宿命がそうさせるのだと思う」

「このチームはやらないといけないことがはっきりしている。その分かりやすさがいいですね」

「ニューヨークのファンは本当に特別な瞬間を与えてくれている。イチロー、イチローって名前を呼んでくれる。あれはすごいエネルギーになる」

 そしてア・リーグ優勝決定戦でタイガースに敗れた後には、次のようなコメントを残した。

「悔しい思いしかないです。ただ、こういう気持ちは久しく味わっていなかった。いろんな時間を与えてくれて、最後は負けてしまいましたけど、本来持っている気持ちを思い出させてもらって、感謝の気持ちしかないですね」

 これまで様々なメジャー記録を塗り替えていったイチローといえども、やはり常勝・ヤンキースでプレイすることは特別だったのだ。

 しかし、だ。ヤンキースの黄金期を支えてきたリベラやぺティットと同等の金額は難しいにしても、イチローに適した評価は欲しい。プロのアスリートとして、それは当然求めたいところだ。

 イチローの今季の年俸は1700万ドル(約13億6000万円)だったが、ヤンキースが負担した額は3カ月でおよそ225万ドル(約1億8000万円)だった。大方の予想では、来季の年俸は500万ドル(約4億円)が最低ラインになるのでは、と言われている。

 ヤンキースがリベラ、ぺティットの次に契約したい選手は、イチローであることは間違いない。そもそも3選手ともお金にこだわっているわけではないが、実績のある偉大なプレイヤーに対し、極端に金額を下げるわけにもいかず、ヤンキースにとってはさじ加減が難しいところである。

 もし、3人がともに再契約を果たせば、来季、リベラは43歳、ぺティットは41歳、イチローは40歳になる。加えて、デレク・ジーターは39歳、黒田とアレックス・ロドリゲスは38歳。ヤンキースは高齢化が問題視されている状況だが、24日のニューヨーク・ポスト紙にイチローの記事が掲載された後、同紙のフェイスブックに寄せられたファンの反響がすごかった。

 掲載後、12時間経った時点で「ヤンキースはイチローと再契約すべき」の声が、100%を占めた。イチローがいかにニューヨークのファンに愛され、認められていたかがわかる。

 現地時間12月3日からテネシー州ナッシュビルでウインター・ミーティングが始まる。ここでイチローがヤンキースと再契約する可能性は極めて高いと考えていい。

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