厚生労働省のHPに新設された情報メール窓口。自分だけでなく、家族や知人でも、劣悪な労働環境に悩んでいる人は匿名で相談できる

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 11月1日、 厚生労働省がホームページ上に「労働基準関係情報メール窓口」を開設した。

 労働基準法や労働安全衛生法、最低賃金法に反していると思われる職場の情報を、労働基準監督署にメールで報告できるというもの。この対象となるのは本人だけでなく、家族や知人の職場でも可。もちろん匿名で送ることができ、メール送信した秘密も守られるという。

 こうした対応の背景には、劣悪な労働環境に悩んでいる労働者が数多く存在するという事実がある。大量の失業者がいる一方で、膨大な仕事量から自殺するほど追い詰められている人も後を絶たない日本。労働問題に詳しい弁護士の山内一浩氏と『就活前に読む会社の現実とワークルール』(旬報社)の共著者で、弁護士の川人博氏に、「今、最も長時間労働ひどい職業」を聞いた。

 両氏によると、企業の“即戦力”志向が強まりつつある現状を背景に、あらゆる職種で若者の長時間労働化が進んでいる。特に、そのなかでも「SE、プログラマー」が最も深刻だという。

「以前、コンピューターソフトウェア開発を行なっていた33歳の従業員が脳出血で死亡した事件がありました。入社以来、平均して年間3000時間働き、月に100時間を超える残業を継続。特に死亡直前1週間前の労働時間は71.5時間でした。この方もそうですが、プロジェクトリーダーなどに就任している人が長時間労働になるケースが多いようです。ソフトウェア開発の仕事は、最初に設計したとおりにはなかなか進みません。クライアントから開発途中で追加の注文や設計変更があれば、それに対応しなければならない。それでも納期を守ろうと必死に働いてしまうのです」(山内氏)

「環境もよくないことが多いです。未明まで働いてもタクシー代は出ないし、徹夜をしても仮眠する部屋もない。そのため夜中の2時3時まで働いたら、そのままデスクのパソコンの前で2、3時間寝て、起きてまた仕事をするという生活になります。精神的なストレスも大きい。ただひたすらパソコンに向かい、1日何十時間もずっと仕事詰めという生活を続けるわけです。心の病気から自殺に走るケースが後を絶ちません」(川人氏)

 ちなみに厚労省は、月に80時間以上の時間外労働をすると過労死の危険が高まるとしている。つまり、年間では合計3000時間労働がひとつのデッドラインということ。

 本来は企業側が改善すべき長時間労働だが、この不景気ではそれも期待できない。自分の身を守るためには、日々の勤務実態を「記録しろ」と両氏は語る。毎日何時まで働いたかを記録するだけでも、万が一病気になったり、裁判になったときの証拠になる。いざというときに助けてくれるのは、残念ながら会社ではないのだ。

(取材/梶野佐智子)

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